Erudin Battle Quest第2部第4話
見た事の無い戦法に一瞬戸惑ってしまい、男が逆立ちの状態から振り下ろしてくる足を避けるのがぎりぎりになってしまった。
体を右へ半回転させて攻撃を寸前でかわすと瞬時に男へ向きを戻し、隙だらけの男の背中へ小さな雷の球を投げつける。
威力は小さく、珍しいものを見せてくれた男へのお礼代わりだった。
小さな雷球は男の体に当たり、ぴりぴりと全身を痺れさせて男の膝を地面へ付かせた・・・筈だったのだが!?
(はぁ!? 当たったろ!?)
リスタンは電撃が男に当たったのをしっかり見たのに、男からは何のリアクションも無い事に目を見開いて驚く。
男の体に電撃が当たった筈が、男は何事も無く方向転換して向かって来る。
博人は再び側転からのトリッキーな足技を繰り出す。そして男の横に上手く着地した博人は、再び男が魔法を放つ前に
男の足を足払いで払う。男が地面に倒れたので、今度はその倒れた男の両足を掴んでジャイアントスイング。
そのまま投げ飛ばしつつすぐに男へ駆け寄る。男は起き上がりざまに手のひらをこちらに向けてきたものの、
ワンパターンな戦法に慣れて来た博人はそのままダッシュしながらジャンプし、男の腹目掛けて両膝からダイビングをぶち当てた!!
リスタンは腹に受けた男の体重以上の衝撃を、片目を強く瞑り歯を食いしばって耐えた。
何も魔法だけがリスタンの得手では無く、本気の兄弟喧嘩で培ってきた肉体は、細めの体の割には頑丈に作られていた。
それでもこの男の力は凄まじいもので、受けた痛みに打ち勝つ事は出来ず、体を動かす事が出来なかった。
何とか手を腹に当てて回復するが、大分時間がかかりそうだ。
男の見た目よりも遥かに敏活な動作に気付けなかった自分の抜かりを後悔するにも遅すぎた。
「あーっと、何か怪しい事しようとしてるなぁ?」
腹に当てている手から僅かな光が漏れている。自分は特別RPGに詳しいとかそう言う訳では無いが、自分の知り合いの
かつて死神と呼ばれていたRPG好きの男にRPGについて色々聞いた事があったので、これはもしやと思い
男の手を全力で捻りあげ、そのまま膝を使って男の首に体重をかけつつ質問する。
「で、金を稼げる所は何処だ? それだけ教えろよ」
首に乗せている膝に体重をかけながらも、男が声を出せる位で止めておかなければ博人も質問をする意味が無かったのだが。
乱れた呼吸のまま、リスタンは眉をひそめながら口角を上げた。
「くくっ・・・アルカボルドにでも行って・・・入団志望でも出してこいよ・・・!」
耳に付いているターコイズのピアスが怪しく光り、リスタンの体へと魔力を注ぎ込む。
限界まで鉱石から魔力を吸い取った両手から渦巻いた2つの太い炎が上空へ螺旋を描きながら伸びていく。
その高温に自らの手も焼かれたが、多少の犠牲は覚悟した上での攻撃魔法だった。
(なっ・・・っ!?)
咄嗟にヤバイと感じた博人は素早く男の手首を掴んだまま、後ろへと巴投げの要領で転がって男を投げ飛ばす。
そのまま今度は続けて後転をして、再び男の胸の上に乗る形になった。
そこから素早く男の胸倉を掴んで立たせ、思いっ切り今度はドロップキックをして上手く自分は後ろに受け身を取る。
(ちっきしょう、あんな奴にこれ以上関わってられっか!! ここは退散だ!!)
空へと舞い上がっていった2つの渦巻いた炎がひとつに合わさり、巨大な鳥の形へと姿を変える。
仰向けに倒れてその様子を眺めていたリスタンは堪えきれずに哄笑した。
「俺の最高傑作で消し炭になっちまえ・・・くそが!」
火の鳥となった炎の塊は暫く翼を羽ばたかせて空中で停止していたが、リスタンの言葉に呼応するかのように男へと急降下していく。
その姿は上空にいた時こそ小さく見えたが、下降してくるに連れてその姿は大きくなり、象ほどのサイズになっていた。
「げーっ!?」
博人は逃げる足を止めて、いきなりさっきの炎の魔法で鳥の形になった炎から逃げる。
しかしかなりでかい。まるで象ぐらいのサイズだ。このまま逃げ続けていては埒が明かない。そこで危険な賭けだが1つの方法を思いついた。
まずは方向転換をして再度男の方へと向かう。男は当然またアイスカッターを繰り出してくるが、そこをフェイントをかけて博人は
右と見せかけて左に飛んで回避。隙が出来た男に駆け寄り、タックル気味に抱きついて5発程膝蹴りしてから抱きついたまま
逃げられない男に頭突き。
更に顔面に強烈なストレートパンチを入れ、フラフラになった男を最後にジャイアントスイングでこちらに向かってくるフェニックスもどきの
炎の鳥に向かって男を全力でブン投げた。
「ちぃっ・・・!」
眼前に自分の生み出した火の鳥が迫り、避けきれないと判断したリスタンは咄嗟に耐炎の魔法を自分に張る。
火鳥も主を傷付けない様できる限り体を逸らしたが、体が大きい為にかわし切れず、火鳥の片翼をリスタンが突き抜けていった。
大事な青髪は多少毛先が焦げた位で、衣服の焦げも青黒い色合いのおかげで目立たない。
地面に落ちてからすぐ立ち上がったリスタンの目が捉えたのは、背を向けて猛スピードで逃げていく男の姿だった。