Erudin Battle Quest第2部第2話


手を地面へ向け、魔力を手のひらに集中させてリスタンが念じる。

すると地面から路地を挟んでいる片側の民家の屋根へと氷の階段が出来ていく。

その氷の階段を登って屋根の上へ両足をつけたリスタンは、男の姿を探し家の屋根から屋根へと飛び移る。

「あれか・・・ん?」

リスタンの瞳が先ほどぶつかった男を捉えたが、更にその前を走っている大剣を背負った大きい男を追いかけている様子だった。

海のそばの地面が草地になっている広場までやってきた博人は、ついに男を追い詰めた。

「はーっ、はーっ、はーっ・・・・おい、俺の財布返せよ!!」

息を切らしながら博人は男に手を出すが、男はそれには動じずにいきなり背中のバスタードソードを引き抜いて斬りかかって来る。

咄嗟にその振り下ろしを博人は横に身体をずらして回避し、間髪入れずに右の回し蹴り。そこから今度は左ハイキックを

男の頭に入れ、続けて男の頭を掴んでジャンピングニー。

そして男の股間目掛けて左のキックを入れるも、どうやら鎧を着込んでいるのかびくともしない。これは苦戦しそうだ。


こっそりと2人の後をつけてきたリスタンは傍に置いてあった大きな樽の群れに姿を隠しながら2人の様子を伺う。

見たところ鎧も着けていない、丸腰の男相手に大きな剣を振り下ろしている大きな男に嫌悪を抱き舌打ちする。

自分と違って魔法も使え無さそうだし、このまま黙って見ていればぶつかった方の男がやられてしまいそうだ。

そうなればじゃがいもはまだしも、トマト代を請求出来なくなってしまう。

リスタンは意を決して隠れていた樽から姿を見せ大剣を持った男へと手を伸ばし、自分の頭より一回り大きい火球を撃ち飛ばした。

男の顔目掛け右、左とパンチを2発見舞い、そこから右の回し蹴りを男の腹に叩き込む博人。

そしてそこから追撃をしようとしたが、その瞬間自分の目の前をいきなりファイヤーボールが掠めて行った。

「うわっちゃちゃ!!」

いきなりの超常現象にびっくりした博人には大きな隙が出来たので、そこにお返しとばかりに男の強烈な前蹴りが入って博人が吹っ飛ばされる。

「うごがはぁ!!」


大男へ手を伸ばしたままリスタンは目を点にして暫く立ち尽くしていたが、我に返ると倒れた男へと駆け寄る。

「おいあんたさっきはよくも・・・。」

リスタンが倒れている男へ話しかけようとしているにも関わらず、大剣を振りかざした男が背後に迫っていた。

男の腕が下ろされる前にリスタンは後ろへ腕を上げ、手の平を大男へ向け大男へ炎の渦を噴射する。

炎の渦は男の上半身と絶叫を包み込み、暫くして倒れた男と共に姿を消した。

「お、おおっ、ちょ、おま、バカ何すんだよ!!」

こいつは俺の財布をすってったんだぞ!! と叫びながらいきなり姿を現わした若い男に詰め寄る。

「どーしてくれんだよぉ!! いきなり変な町に来たと思ったら財布はすられるわ、大剣振り回されるわ、挙句の果てに燃やされるわでよぉーっ!!」

青い髪の若い男の襟首を掴んでガックンガックンと思いっきり揺さぶる博人。

1万円札が1枚に5000円札3枚、千円札数枚、免許証にポイントカード、それから友人との思い出の写真等色々な物が入っていた財布が

目の前で燃えてしまったのだ。そのショックはでかい。


リスタンは死んだ目をしながら自分を揺さぶっている男をただ見つめていた。

助けてやったってのに何だこの態度は・・・大体そっちが俺の買ったばかりの野菜達を傷付けたくせに。

「はぁ〜、ホントついてないなぁ・・・金すら無いのかよ。」

首を横に向けて男から視線を逸らし、その言葉が男にも聞こえるようにリスタンは呟く。

自分が男の財布を燃やした事実からは目を逸らし、これから家に帰って怒られるであろう母親の顔を思い浮かべてはげんなりした。

「おい待てや!! 御前が燃やしたんだろ、俺の財布を!! 何だ、金か、金が欲しいのか? 残念でした!! 御前が燃やしちまったからもうありませんよーだ!!」

大体この男があのファイヤーボールを飛ばしてさえ来なければ自分はあの男を追い詰めていけたのだ。

もう怒る気も失せた博人は、青髪の男から手を放してさっきのファイヤーボールで燃え尽きている男の身体の死体の横へとぼとぼと歩いていく。

「俺の・・・財布・・さい・・・ふ?」

そこで博人はある事に気がついた。何だか、こんな展開が前にもあった気がしないでも無い。

そう思った博人はすぐに青髪の男に詰め寄って、ここは地球なのか? と問いただしてみた。


「はぁ?地球って何だよ・・・あんた頭おかしい人なの?」

リスタンはだるそうに頭を掻きながらその男の全体をまじまじと眺める。

よく見ればこの男の服装、ミルディヴやここパスルタチアでは全く見慣れないものだった。

ふと頭を掻いていた手を下ろし、リスタンの半目がぱっちりと全開になる。

「エールディンで一番寂れてる島に来たって何もありゃしないけど・・・あんたどっから来たの?」

「うっわこの展開はやっぱりマジかよ・・・・ぜってーここ異世界だろ、マジかよー!!」

予想はしていたが、実際にそのリアクションを取られると精神的にきつい。

考えてみれば今の時代に大剣だの、さっきのファイヤーボールだの、色々と気がつくとおかしいポイントがいくつもある。

「俺は地球にある日本って国の新潟から来た。まぁ何だ、その・・・さっきは悪かったな。で、まさかここは・・・エールディンって世界なのか?」

もう答えは99パーセントくらい分かり切っているのにな・・と博人は苦笑いを漏らしながら問い掛けるしか無かった。


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