Despair and hope第9話


皇都から列車を使っても3日かかるその町からようやくネルディアへと

戻って来たカリフォンとロオンの2人は、すでに鷹を飛ばしていたので

部下達が色々と準備を進めてくれていた事に満足していた。

だがその前に、自分達が休暇を早めに切り上げて帰って来た事と共に

今回の事件の事は自分達の主君にも伝わっているらしいので

2人はまず主君が待つ謁見の間へと向かった。


「カリフォン・ヴィディバー剣士隊隊長、ロオン・クラディス魔法剣士隊隊長、

只今帰還致しました」

その明瞭なカリフォンの声が響き渡り、謁見の間に続く扉が左右に開かれて

2人は頭を下げながら指示を待つ。

「良し、中に入って来い」

「はっ、失礼いたします!!」

頭を上げて規則正しい歩調を維持しながら、2人は謁見の間を進んで行く。


このバーレン皇国の謁見の間は、他の国には見受けられない大きな特徴があった。

謁見の間の中には、サラサラと水が流れる音がそれなりの大きさで響き渡っている。

それもその筈、この謁見の間の中には水路が流れているのである。

その水路は謁見の間を横切る形で十字状に造られており、部屋の端にある溝へと

流れ込んで行きそこから城の外へと流れて行く。勿論落ちない様にガラス張りに

なっているのでガラスが割られでもしない限り事故とは無縁なのだが、何故こんな

水路が流れていると言うのかと言う疑問が当然湧き上がる。


その理由としては、元々この城がある場所は大きな湖の上なのだ。

皇都ネルディアは湖の上に浮かぶ様に造られている水上都市であり、それが自然の

防壁になっていると言っても過言では無い。

この皇都ネルディア、そして城の中に流れている水路と言う様に水を最大限に生かした

国づくりをしているのが「水の大陸」バーレンと言う由来である。

そんな水が流れている上を歩いて行き、2人は玉座の目の前でひざまずいた。

「顔を上げろ」

2人が顔を上げた先に座っていたのは、この国のトップの存在である金髪の若き君主だった。


2人の報告はそれ程長時間にはならなかった。

「……と言う訳でございまして」

「ああ、確かに俺の元にもジェイルザートやジャレティのそんな情報はチラッと入って来てはいたがな……。

ただ、確固たる証拠が掴めていなかったから放置せざるを得なかった訳だしなぁ」

うーん……と腕を組んで首を捻るシェリスに、傍に立っている黄色い上着を着込んで

緑のマントを身につけている男が茶髪の口を開く。

「私からもお聞きしますが……」

「はい」

「そのジャレティについては何故その賭博場にいらっしゃったのかお分かりになりますか?」


その男の質問にはカリフォンが答える。

「いえ、それについては現在不明確のままです。あの賭博場の客達に聞き込みを

行いましたが、特にこれと言って特定の人物だからと言って賭博場への出入りは禁止と

していなかったと言う報告が得られてますね」

「ふむ、そうですか。そうなると……まぁ、ジャレティはネルディアの民にも余り宜しく無い噂が

飛び交っていた方ですから、もしかしたら今回の事件と関わりがあるのかもしれませんね」

あくまで憶測ですが、とその茶髪の男……バーレン皇国の宰相のロナは呟いた。


「こちらも部隊を派遣しているし、ジャレティが見つかったらすぐにでもそちらに伝える様には

手配済みだ。だからそちらも何かあったらまた鷹を使って連絡をしてくれ。こちらも何か

あった時の為にすぐに部隊を動かせる様に手筈を整えておく」

「分かりました、ティレフ団長」

シェリスを挟んでロナの反対側に立っている水色髪の男、近衛騎士団長のティレフも

全面的に協力すると約束してくれた。


Despair and hope第10話へ

HPGサイドへ戻る