Despair and hope第8話


シュソン・カティレーバーはバーレン皇国騎士団で斧隊の隊長を勤めている。

基本的に斧隊は変わった人間が多いと思われがちなのだが、それは

この隊長のシュソンと副長であるファルレナのイメージによる所が大きい。

シュソンは初対面の人間曰く、真面目で物腰が穏やかそうな人と言われる事が

多いのだが、実際そのイメージは真面目と言う所は当てはまっている。

しかし警戒心が強く、初対面の相手には一歩引いた感じで接するタイプでもある。

シュソンはその昔初対面の相手にいきなり殺されそうになってからそう言う性格になったとか。


元々近衛騎士団で皇族の護衛任務に就いていた父の背中を追いかけて

騎士団の門戸を叩いたシュソンは、それまで続いていた港町の平民出身の

家柄をひっくり返して騎士団の中でも精鋭部隊である近衛騎士団の任務に

就いていた父を尊敬していた。なのでバーレン皇国騎士団の中でもなるべく上の

ポジションに行きたいと言う意識がそうした父の姿を見て育っていたシュソンは、

騎士団に入団したいと言う気持ちが子供の頃からあった為に父の知り合いで

ある騎士団員に直々に稽古をつけてもらっていたのだった。


そうして小さな頃からのエリート教育の賜物(たまもの)で、騎士団の戦術や

武術等を学んだ彼は晴れて皇国騎士団への入団資格が得られる15歳の時に

ジェクトと同じく入団を果たす事に成功。そこから見習い騎士として訓練を

積んで行ったのだが、その中でエリート教育を受けて来た彼を快く思わない

人間もやはり存在していた。

当然そう言った連中からは嫌がらせや無視等を受けて来たが、何よりも

父の様な強くて誇れる皇国騎士団員として活躍する事を夢見ていた彼に

とってそうした事は全く意にも介さない物であった。


だが、そのエリート教育を快く思って居なかったのは騎士団の上層部にも

何人か居た様であり、平民出身でありながら近衛騎士団に所属していた

シュソンの父の事を疎ましく思っている人間も存在していた。

なのでそうした人物達はシュソンの父では無く、息子のシュソンに手を回して

圧力をかける事で近衛騎士段への抜擢を阻止していたのである。

そんな事とは露知らず、ひたむきに見習い騎士団員として精進を続ける

シュソンであったが、騎士団の見習いの卒業が間近に迫った3年後の18歳の

冬に、父の知り合いと名乗る人物に「父から頼まれた」と言われて食事に連れて

行って貰う事になった。


だが、その父の知り合いと言う男に違和感を何処と無く覚えたシュソンは食事の時に

飲み物には最初に手をつけずに料理を食べていた。そして父の知り合いと言う男が

トイレに立った隙に彼の飲み物と自分の飲み物が入ったグラスを交換した。

丁度同じ飲み物だった事が功を奏し、帰って来た父の知り合いが交換した飲み物を

飲むといきなり喉を押さえて血を吐き、悶え苦しみ始めた。

「えっ……え?」

そう口からは言葉が出たものの、内心ではこうとも思わざるを得なかった。

(やっぱり……罠か)


調べを進めて行くとその男はそもそも父の知り合いでも何でも無く、シュソンが将来

未来の近衛騎士団員になる事を妬んでいた人物の1人であった事が発覚した。

その時は父の知り合いが自分で毒を飲んで倒れたと言う事になったのだが、容疑は

完璧には晴れる事は無く結局彼の近衛騎士団への道は閉ざされてしまった。

でも、シュソン自身が騎士団の中でも努力していた事は認められていたのできちんと

正規の騎士団員への登用が認められ、結果として1番得意な武器である斧を使う

斧隊への入隊が決まった。その後更に判明した事実によれば、シュソンを殺す事が

出来れば賞金が手に入ると言う話も妬んでいた連中の中で出ていた様だが定かでは無い。


この初対面の人間に殺されそうになった事件を切っ掛けに、相手が信用出来る人間と

分かれば打ち解けるらしいが、信用出来ないと分かると余所余所しくなってしまう。

武術の面に関しては、その細身の身体からは想像出来ない程の怪力を持つ斧使いである。

彼曰く「鍛えても筋肉が表面には出難い」らしい。副長のファルレナもそうした同じギャップを抱えている為に、

そう言った所においても斧隊がギャップの激しい部隊であると見られがちだ。腹筋も一応割れているが、

ムキムキには見えないのでパッと見て体格が良い人の事が羨ましいとシュソンは語っている。ちなみに

ファルス帝国のカノレルとシュア王国のバリスディとは斧使い同士旧知の仲だが、戦争の事もあって

国が対立している関係もあり、カノレルの方とは現在は絡む事が殆ど無くなったのが現状である。


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