Despair and hope第7話


魔法剣士隊の副長を務めている中年の男はジェクト・ルーデン。

背中に大きな両手剣を背負っているが、魔法剣士隊と言うその

部隊の名前が表している様に戦場に立つ時は魔法も使いこなして

戦うのが彼の部隊なのである。一応、武術と魔法がバランス良くミックス

されていると言うバーレン皇国騎士団においてそれを顕著に示しているのが

魔法剣士隊の存在でもあるので、騎士団の主力部隊として知られている存在だ。


ジェクト本人は寡黙な男として知られており、アイリーナと同じく余り喋らないので

取っ付き難い存在としても有名だ。論より証拠を地で行くタイプであり、無駄に

口でべらべらと喋るよりも実践して示した方が早いと言う考えを持っている。

剣術も勿論副長を務めるだけあってなかなかの物だが、彼は魔力が平均よりも

1.3倍位多めにあるらしい。それ故に魔法の威力が高い事でも有名なので

あくまでも背中に背負ったバスタードソードは補助武器として使い、基本的には

魔法で戦うスタイルだ。そのジェクトがライバル視している存在の1人が、剣術の面で

自分の参考にしたいと考えているファルス帝国将軍のルザロだ。

彼の剣術には若いながらも将軍になるだけあるので非常に興味があり、

ロナに何とか調べて貰いたいとひっそりと考えているのである。


元々は商家の出身で、特に身分が高い訳では無かったが何となく家業を

継ぐのが嫌で仕方が無かった。多分それは騎士団員の息子が友達に

居たからだろう。その友達の影響で漠然と騎士団員の身分に憧れていた

彼は、自分に自信をつける為と言う理由付けをして騎士団に入団した

経緯があった。そうしていざ15歳から騎士団の訓練を受け続けて行くと、

最初は確かに騎士団に入る為の口実に過ぎなかった筈が本当に実力が

付く事によって自分自身にも自信が付く様になって来た。

だが、その自信が付き過ぎた事によってとんでもない事件が勃発してしまう。


20年前、つまりジェクトが騎士団に入って4年目の19歳の時の任務で

まだ若さ故の未熟さに半端な自信が先走っていたジェクトは、危険な任務に

物怖じせずに挑む事を決意した。

それがバーレン皇国のシンボルともなっている、国の中を流れている幾つもの川から

水が流れ込んでちょっとした湖が出来ているポイントがあったのだが、そこに沢山の

魔物が集団で出没すると言う話だった。

その魔物を討伐するのが任務であり、先輩騎士達が魔法を使って湖に刺激を

与えた所で飛び出して来た魔物達をやっつけて行くと言う討伐任務だったのだが、

ジェクトはその魔物達がなかなか出て来ない事に痺れを切らし、一応先輩達の

指示を仰いだ上で湖の中に電気系の魔法を打ち込んだ。


すると魔力が他の人間より高かった彼のその魔法の威力で、予想していた以上の

数の魔物が湖から飛び出て来てしまった。

更に何とその魔法によってボス格の魔物も目覚めてしまったらしく、騎士団は

一気に壊滅寸前まで追い込まれてしまう事になってしまう。

結局は何とかそのボス格の魔物を討伐する事に成功した騎士団だったが、その

騎士団員の息子が魔物の大群に対処し切れずに襲われてしまい殺されてしまった。


(俺のせいか……俺の……)

そんな状況を作り出そした切っ掛けになってしまった自分をジェクトは責めてしまう。

良く良く考えてみれば先輩に指示を仰いだ上の行動だったが、魔物が出て来ない事で

焦ったジェクトは魔力が他の人間より高い事を頭の片隅から消し去ってしまっていた事が、

魔力をフルパワーに詰め込み過ぎて湖に放ってしまった原因になってしまったとも言えるだろう。

この事件を切っ掛けに、ジェクトはただ単に魔物の討伐の為に魔法を使ったと言う事で

別に騎士団を追われると言う事等には全くもってならなかったが、それからは魔法の使用を

なるべくしない様にして武器や体術の訓練に力を注ぎ込む様になったし、この事件が彼を

クールで寡黙な性格にしてしまった原因になったとも言える。

そんな事件から20年経った今では再び魔法に重点を置く様になってはいるが、時と場合に

よって魔法の威力を変える事だけは絶対に頭から忘れない様に心掛けている。


Despair and hope第8話へ

HPGサイドへ戻る