Despair and hope第6話


「偽の宝石? どう言う事だ?」

「それなんですけど、偽の宝石は今バーレンで出回っている様なのです。

それも中には私達騎士団員達が見破る事が出来ない、まさに宝石職人が

精巧に作った様な偽物まであるそうなのです。屋敷の使用人達からそう

聞き出しました。後ろめたいとは分かっていた様なのですが、結構な大金を

その宝石を売りさばく事によって儲けていたらしく、使用人達もやはりお金に

目がくらんだりして中には加担していた人間も居ましたのですでに逮捕しております」

「その事実を聞き出した使用人は逮捕したのか?」

「はい。ですが金を握らせて口止めされていたそうですから、偽の宝石の製造に

加担していた使用人の方より罪は軽くなると見られております」

「そうか……」


更に言えば、あの賭博場で賭けで負けた時に金の代わりにその精巧な偽の宝石を

代金代わりにと言われてあの経営者達に渡していたと言う事実も調べられていた。

確かにそうなれば、ロオンの言う通りあの違法賭博場の人間が偽の宝石を

掴まされた事で怒るのも恨むのも仕方が無いと言えるだろうとカリフォンは考える。

「して、当の領主様は爆発事故の現場から見つかったのか?」

だが、そのカリフォンの質問には驚愕の回答がロオンからされた。

「いいえ、領主様の遺体は見つからなかったみたいです。しかしそれとは別に報告して

おきたい事がありましてですね。あの賭博場の客の中にジャレティ様の姿を見つけまして。

でも、あの戦いの中で逃げられてしまった様です。捜索によればネルディア方面の

列車に乗る姿が確認されたとか」

「何だって!?」


バーレン皇国の裏社会を牛耳る存在では無いか、と噂されているのが

ロオンがあの賭博場で見かけたジャレティと言う男だった。

まさかの発言にびっくりするカリフォンだが、当然ロオンはもう手を打っていた。

「ああ、心配は要りません。城に鷹を飛ばしまして手紙を届けさせております」

「そ、そうか。でも俺達も関わっちまった以上、どうやら休暇は終わりの様だな」

「そうですね。しかし仕方ありません。私達もネルディアに向かいましょう!」

「ああ、勿論だ!!」

と言う訳で休暇を切り上げて、カリフォンとロオンは皇都ネルディアへと舞い戻る事にしたのである。

(ジャレティだか何だか知らねーけど、俺達のせっかくの休暇を台無しにしやがって!!)

そんな怒りをカリフォンは胸に秘めながら……。


その伝書鷹の手紙を最初に受け取ったのは、ロオンの副官でもあるジェクトと斧隊隊長のシュソンと

言う男2人だった。

「もしこれが本当なら、即座に部隊を派遣させる予定だがな」

「私も同感ですね、副長」

ジェクトもシュソンも、ロオンから送られて来たその手紙を見ていたが半信半疑と言う思いは消えない。

しかしあの真面目で丁寧で物腰が柔らかい男で、主君であり武術の弟子であるシェリスからも信頼

されているあの男がこんな事細かに事件の詳細が書かれている手紙を暇潰しやいたずらの類で

送って来るとも到底思えなかったので、副長と隊長は事件の捜査とジャレティの捜索に乗り出す事にした。


その手紙を城に居る人間が受け取っている間、カリフォンとロオンはバーレン皇国にも

通っているヘルヴァナール鉄道を使ってネルディアへと向かう。

2人が滞在している町にも駅があったのでそこからネルディアまでの路線に乗り込み、

一直線にネルディアを目指しているのだ。勿論馬の方が機動力は高いのだが、

レールの上を走って目的地まで一気に辿り着けると言う事に関しては列車の方が

断然速い。だからこそ、馬では無く2人が列車に乗って移動をしている理由は

そう言う事なのである。


「しかしそのジャレティって奴は、何であんな場所に居たんだ? それが俺には良く分からない」

それにはロオンも同感せざるを得ない。

「確かにそれは私も同じ考えです。違法な賭博場ですから、たまには賭け事に興じてみたいと

言う裏社会の大物の考え……位しか私は今の所では思い浮かびませんね」

「まぁ、その理由はそのジャレティとやらをとっ捕まえてやれば分かる事さ。絶対に捕まえて

やるんだよ……休暇を台無しにされたんだからなぁ!!」

メラメラと気持ちが熱く燃え盛るカリフォンを、苦笑いしながら隣に座るロオンが見つめながら

2人を乗せた列車はネルディアへと走って行くのであった。


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