Despair and hope第１８話
「でも、何で領主の立場であるあんたがそんな偽の宝石なんかを売りさばいていたんだ？
領地を持っていてそれを貸し出しているから金なら入って来るだろ？」
そのカリフォンの率直な疑問の一言に、今度はジェイルザートの顔色が
明らかに変わった。
「金なら入って来るだと？ ふざけた事言ってんじゃねぇ。この国自体が
儲かっていないんだったらその分客が落とす金も少ねぇんだよ。さっきのあんたの
推理には間違っている部分もあるんだぜ。この国じゃああんまり稼げねぇからな。
そろそろ他の国へと移動させて貰おうと思っていた訳でよ。ネルディアに寄ったのは
その下準備の為って訳さ。御前達みたいなネズミもこうしてまだ俺達の周りを
チョロチョロしている事だし……よぉっ！！」
その最後のよぉっ、と同時に拘束されているカリフォンの顔面に強烈なキックを入れる。
「ぐっへ！！」
「か、カリフォン隊長！」
口と鼻から血を流しながら悶絶するカリフォンを何とか助けてあげたいロオンだったが、
ジェイルザートの部下達がそうさせようとはしなかった。
「じゃあ、俺はこれで失礼するよ。エルフィル、ハーヴィス、こいつ等を後は始末しておけ。
水の大陸なら重りでもつけて水の中にでも沈めておいてやったら良いんじゃねぇか？」
「分かりました、ジェイルザート様」
「おら達も後で追いつきますので、先に向かってて下さい」
おとなしそうなイメージを与える水色のヘアスタイルをしている若い男はどうやら魔導師、
そして一人称が「おら」の上半身がタンクトップの姿の青髪の男が槍使いの様だ。
この２人はジェイルザートの部下の中でも幹部クラスの人間らしい。
「と言う訳で、おら達は特に個人的に恨みは無いけど……これも仕事なんだ」
「余計な事に首を突っ込むからこうしてむざむざ死ぬ事になるんだよ。残念だがここまでだった様だな」
２人の幹部はいやらしい笑みをそれぞれ浮かべながら、ジェイルザートの指示通りに２人の隊長の
足に重りをつけ始めた……その時！！
「ぐああっ！！」
「えっ？ は、ハーヴィス？」
タンクトップの槍使いハーヴィスの肩に何時の間にか２本の矢が突き刺さっている。
そしてその矢が飛んで来た方からは、バタバタと慌ただしい足音が数十人……いや、恐らくそれ以上の
単位で聞こえて来た。
「全員武器を捨てて諦めて投稿しろぉ！！」
「バーレン皇国騎士団だ！！ 抵抗するのなら容赦はしないぞ！！」
「あ、あれは……」
「グラルダー隊長にシュソン隊長、それからジェクト副隊長にアイリーナ副隊長とファルレナ副隊長も！」
そう、あの時応援部隊を呼びに行っていた３人が多くの部隊を引き連れて駆けつけてくれた。
ハーヴィスはその後も弓隊に何本も矢を打ち込まれて絶命し、もう１人の幹部であるエルフィルも
抵抗したものの数の暴力の前には成す術も無く敵わなく、下手に抵抗したのが仇となって斧隊の
斧の餌食になって死亡してしまうのであった。
「ふぅ危ない危ない、間一髪だったな！！」
「間に合って良かったです」
各隊長のグラルダーとシュソンが２人の重りを外し、その間にジェクトが魔法でカリフォンの
顔の怪我を綺麗さっぱりと治療していた。
「でも、まだ戦いは終わっていないですよ」
「そうですね、あの主犯格と見られる２人が逃げています。追わないといけません！」
そのアイリーナとファルレナの一言で、カリフォンとロオンはハッとした顔つきになる。
「そ、そうだ、あいつ等をこのまま逃がす訳にはいかねぇ！！」
「まだそれほど遠くには行っていない筈です！ ここから先はまだ一本道が続く筈。ですから
急いで追いかければ何とか追いつけるかもしれません！！」
「だったらここは私達に任せて、隊長達はすぐにあの２人を追いかけて下さい」
「休暇を台無しにされた恨みを、今こそ存分に晴らす時ですよ！！」
「さぁ行け、後は俺達に任せておけ」
アイリーナ、ファルレナ、ジェクトと３人の副隊長にも後押しされ、カリフォンとロオンは
先程そそくさとこの場を立ち去ったあの憎き２人を急いで追いかけて走り出し始めるのであった。
全ては潰された休暇の恨みを晴らす事と、この事件をしっかりと解決する為に。