Despair and hope第15話


弓隊副隊長であるアイリーナ・イアディンは、少々癖のある性格を持つ

女として騎士団では知られている存在だ。基本的には口数の少ない

寡黙な性格で、冷静に意見をぼそぼそと言うタイプでもありしかも

ずばずばとそう言って来るのでストレートに言われて傷ついたと言う

人間も少なくない。事実、彼女の上司で弓隊の隊長である

グラルダーも前に「隊長、身体臭いです」と言われてショックを受けている。

それでも弓の腕前は副長の座についているだけの事はあって抜群の

物であるし、隊長のグラルダーから直々に弓の指導を受けている為に

日々そのテクニックは研ぎ澄まされている。


だがその一方で料理を作らせると逆の意味で凄い事になってしまう事も

彼女の特徴の1つとして有名な物となっている。つまり、凄く不味いのだ。

そこまで不味い料理をどうやって作れるのだ、と言う位にその料理は不味く、

壊滅的故に「魔物を多分殺せる味」との評価を受けた事もある位だ。なので

彼女は自分とは正反対に料理の腕前が抜群な斧隊副長のファルレナに

料理を教わっているが、センスが無いのでさっぱり上達しないのが自他共に

彼女の料理の評価となっている。

「残酷なのは言い方だけで無く料理もなんだな……」

とは魔法剣士隊副隊長ジェクトの弁でもあるらしい。


そんな彼女はファルスの警備隊の副総隊長を務めているテトティスと、シュアで

第3騎士団の団長の座についているメリラとは知り合いの関係にある。バーレンに

魔術を習いにやって来たテトティスとアイリーナが知り合い、更にその後

シュア王国に遠征に行った際にメリラと知り合いになる。メリラとテトティスも

知り合いでライバル関係らしく、その事実を知ったアイリーナも同じ女の軍人同士で

負けられないと密かに闘志を燃やしているライバルだ。


平民も平民、ど田舎の山奥の村で生まれ育った彼女は何時か都へ

出てみたいと言うそんな野望を胸に秘めながら田舎の暮らしを続けていた。

そして田舎の暮らしの中で彼女は弓を使った狩りが得意になっていったのである。

何故得意になったのかと言えば、弓を使ってその日の獲物をゲットする事が

出来なければ上等な食料にありつく事が出来なかったので、生き延びて行く上で

なるべく豪華な食事をする為にその弓のテクニックを磨かなければいけなかったと

言う必然性が彼女の生い立ちには存在していた。


しかし彼女が関わっていたのはそこまでであり、そこから先の獲物の解体や

料理方法に関しては全て彼女の両親……特に解体には力が必要な為、主に

父がその担当となっていたので彼女は料理をする事が滅多に無かった。

それでも特に何とも言われる事が無かった為に、弓を使った仮の腕前は日々上達して

いったがそこから先の料理に関しては全くのど素人のまま育って来たので、今日(こんにち)の

彼女の料理の壊滅的な不味さの原因になってしまったとも言える。


そんな彼女が皇都のネルディアに行く切っ掛けになったのは、ネルディアで

一般参加者のみを対象にした弓の大会が開かれる事になった。それを

知り合いが冗談交じりにビラを持って来た事が切っ掛けになり、1度は

ネルディアを見せておくのも良いだろうと言う事で両親と共にネルディアへと

向かった彼女だったが、これが彼女の騎士団への入団の切っ掛けになろうとは

この時その本人も含めて誰も知る由も無かった。

結論から言えば大自然の中で獲物を追い掛け回し、しっかりと獲物を仕留める為に

急所を正確に狙う事が出来なければならない狩りの日々の中で鍛えられたその弓の

テクニックで、彼女は圧倒的な大差を2位以下につけて優勝してしまった。


そこでそのまま騎士団への入団があれよあれよと言う間に決まってしまい、両親も

そのまま田舎からネルディアへと移住する事になってしまったのだった。

この時、アイリーナはまだ17歳だったのだがそんな少女がどうやってそんな弓のテクニックを

何処で身につけたのだろうと言う事で一躍有名になった。

今では両親は城下町で田舎の料理を出す料理屋を経営しており、一方で入団

17年目の32歳になった弓隊副隊長のアイリーナはグラルダーの元で更なる弓の修行に励んでいる。


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