Despair and hope第14話
バーレン皇国騎士団弓隊隊長の地位についている41歳のグラルダー・セフバートは、
とにかく豪快と言う言葉がぴったりな男で、細かい事は気にしないタイプ。
ただし、それは普段の生活上での話だけであり弓隊においては自分が隊長を務めている故に
弓の正確さに関してはかなり細かい。ファルスとシュアの弓使いの事を勝手に
ライバル視しており、弓の鍛練は毎日絶対に欠かさない事を信条として
日々の職務に励んでいる。最近は副長のアイリーナの事を集中的に鍛えているが、
最近彼女に「隊長、身体臭いです」と言われてそのショックを未だに引きずっているらしい。
そんな彼は元々ジェクトと同じく商家の一員として生まれ育ったが、実家を継ぐよりも
もっと色々な世界を見てみたいと思い、世界中で活躍する事の出来る騎士団に入る事を
強く希望していた。趣味は狩りで、弓を使って小さな魔物を狩って来てはそれを料理にして
食べていた事もあって、自然と弓の腕前も上達したのだ。
しかし、彼が騎士団に入りたいと思う理由はその理由の他にもう1つ
存在していた。それは1回狩りの中で死に掛けた経験があった事による。
何時もの様にある日狩りに出かけていた18歳の彼は、川の近くの
狩場で狩りをしていた所でいきなりその辺りを縄張りとする盗賊連中に襲われた。
最初は勿論逃げようとしたが結構な大所帯だったらしく囲まれて逃げ場が無くなって
しまい、いきなり踊りかかって来た1人の盗賊を矢で撃ち殺してしまった事が盗賊相手の
バトル開始の合図になった。勿論その中で狩りの為に持って来ていた矢を人間に
向かって放つ事になったのだが、単純な頭脳しか持たない事が多い魔物とは違って
知能がある人間相手には上手く矢を避けられたり武器で弾かれたりした為に次第に
劣勢に追い込まれて行く。が、ここでグラルダーはある事に気が付いた。
それは近くの川の中に自分から飛び込んで行く事である。その場所は川の水深が浅い
場所……とは言え大人の身長でも膝まで漬かってしまう様な場所だった。
しかしそれを逆に利用し、川に誘い込んだグラルダーはどっしりと安定した場所から弓を
弾き、彼を追いかけて川に入って来た盗賊達が水の抵抗でまともに動けなくなって
しまった所を集中的に狙って確実に仕留めて行った。
同じく弓を持っていた盗賊団のメンバーでは彼の当時の弓のテクニックに敵わなく、
その弓使いのメンバーから優先的に倒す様にして結果的に盗賊を追い払う事に成功。
武器を持っていても間合いにさえ入らなければ弓の方が断然有利だった事と、地形を
上手く利用したその戦い方を咄嗟に思いついた事が彼の命を救った。
そうして近くの村人達が通報してやって来た騎士団員達に盗賊団達は連れて行かれ、
その時の活躍が認められて皇国騎士団の弓隊へとスカウトされる切っ掛けになった。
元々騎士団への入団を強く望んでいた事もあって2つ返事でその誘いに乗った彼は、
弓以外の武器も訓練してから弓隊へと正式配属され、そこから騎士団のテクニックを学び
弓のテクニックを更に上げる事になっていった。
20歳の時に騎士団の正騎士昇格試験を突破して早21年。狩りで培った目の良さ、それから
弓の技術に山を駆け回った事で手に入れた足腰の強さを武器にして、特に野外でのミッションでは
その強さを遺憾無く発揮。その功績が徐々に認められて行き、28歳の時に弓隊の隊長に
抜擢されて今もその座を譲る事はしていない。足腰の強さと同時に大柄な身体も手に入れた彼は、
弓を弾くのに背筋の強さが半端では無いのだ。それ故に騎士団の中でも身体を他の隊長達より
2倍程鍛えているので、筋肉の付き方も服を脱げばがっしりとしたボディビル体型である。
ちなみに酔うと泣き上戸になり、部下に愚痴をこぼす事が良くあるらしい。
それと、野外のミッションにおいてはロナにアドバイスや作戦立案の手伝いを
求められる事が多く、ファルス帝国との戦争があった時にもグラルダーのアドバイスが
ロナの戦略を更にレベルアップさせた事でファルス帝国を苦しめる1つの原因になった。
勿論その中には自分が使った川に誘い込むと言うテクニックも含まれており、事実川の中に
誘い込まれたファルス帝国騎士団はその時の盗賊と同じく川の中に入って来た所で弓隊に
一斉射撃を食らって大きな被害を出したエピソードがある。