Despair and hope第12話
シェリス・ノリフィルは若くしてバーレン皇国を治める君主だ。今はまだ31歳なのだが、
25歳の時には既に国のトップとして自国を収める立場になったのである。それ以前は
自他共に認める放浪癖のある男として知られており、城を頻繁に抜け出しては
国の家臣を困らせてよく叱られていた。その時の当人にとっては何処吹く風だったのだが。
しかしそんなシェリスも25歳になって父王が病死してしまい国を担う立場として引っ張って
行かなければならないのであった。
それからと言うもの自分が国のトップになった事を実感したシェリスは、何かに
とりつかれたかの様に猛勉強しながら国政に励む様になり結果として今の
バーレン皇国の存続に繋がっている。だが国自体の纏め方に関してはまだ後1歩の
所があり、財政に関しては余裕が余り無い状況が今も続いているのでそこが今後の
課題になっている。その原因は他にもあり、それが以前起きたファルス帝国との戦争だ。
これはバーレン皇国側から領土拡大の為に仕掛けて最初は優勢だったものの、
ファルスの圧倒的な武力を前にして次第に逆転され、結果として逆にバーレン皇国に
攻め込まれてしまう結果になった。その時はファルスよりも広い地形や自然が多いと
言う地の利を活かしてファルスを苦しめたが、最終的には武力で押し切られてしまい
大敗北に終わってしまった上に国家予算も結構使ってしまったのである。
その国家予算を使った事は今も結構響いており、ファルスとは休戦協定を
結んではいるものの何時また攻め込まれるか分からないと言った状況でもある。
今の情勢から考えてファルスが攻め込んで来る気配は無いにせよ油断は出来ない。
何時か国のトップである自分も戦わなければいけない時が来るのでは無いかと思い、
ロオンに武術の稽古をつけて貰っているのが現状だ。実の所、元々の放浪癖を含めた
自由奔放な性格から帝王学等の学問よりも武術等の身体を動かす事ばかりに興味を
持っており、執務室に居る時間よりも鍛錬場で武器を使っている時間の方が長いと
30歳を超えた今でも言われている。
しかしそれでも政務は割と真面目に取り組んでいる様子であり、文字通り一国一城の
主としての責務はきちんと果たしている。もう30代に入った事もあって貫禄も徐々に
ついて来た彼だが、自分より年下の国王である東の隣国シュアのレフナスには素直に
自分より年下でまだ子供っぽさを残している所もあるのに国を纏め上げていて凄いと言う
イメージを持っているらしい。それと同時に西の隣国であるイディリークの皇帝リュシュターに
対しても、孤児から一気に皇帝と言う信じられない位の身分の違いを経験しながらも、
その境遇を物ともせずに国を纏めている彼の事を少なからず尊敬している。
ただ、同じ皇帝でも北の隣国であるファルスの皇帝セヴィストには余り良いイメージが
無いと言う。その理由として、セヴィストは皇帝として確かに威厳を持たなければ
ならないのは分かるとしても、どうにも偉そうにし過ぎる嫌いがあって権力を振りかざす様な
独裁的な国づくりのイメージを隣国に向かわせている密偵から聞いているので、ある意味
反面教師として役に立つと思いながらもやっぱりイメージ的に良くは無いらしい。
自分も一国のトップとして、だけどその権力を使って再び国を窮地に陥らせる
訳にはいかない。そんな経験はファルス帝国との戦いでもう十分だ。
その思いを常に忘れる事無く、彼は今日も自分の国である川や湖が多い「水の大陸」
バーレン皇国を引っ張って行く存在として活動している。
(厄介だな、裏社会の大物が今回の事件に絡んでいるなんて。これは我が国の危機だ!)
そんな彼はカリフォンとロオンの報告を聞いて、また厄介な事件が起こってしまったのかと
頭を悩ませていた。しかも裏社会の大物絡みの事件となるととにかく一刻も早くその
ジャレティと言う男を見つけ出す事をカリフォンとロオンに命じさせると同時に、ロナにも
もっとそのジャレティの事について調べ上げる様に頼んで3人を見送ったのであった。