Despair and hope第11話


ロナ・ディクスはバーレン皇国の若き宰相として知られており、バーレンにおける

魔術の分野を受け持っているのもこの男だ。そもそも彼自身が魔導師の為に、

国の政策においても魔術関係の装置や設備等の導入を魔導師の観点から進め、

結果的に武術と魔術がバランス良くミックスしたバーレン皇国を創り上げて来た1人でもある。

武術の面に関しては一応彼も鍛錬を積んではいるものの、本来は魔導師なので騎士団の

各隊長やシェリスと比べてしまうとどうしてもまだまだだ。


彼は基本的に宰相と言う立場の為前線には出ないのだが、戦う時は魔法を攻撃用途として

使う他に、魔力が切れてしまった場合の策として懐に短剣を忍ばせている。

また戦場では軍師としても活躍し、ファルス帝国との戦争においては地の利を活かした

戦術を打ち立てた事でファルス帝国を苦しめた。それ以外でも常に魔法の勉強は欠かさないし、

ファルスやシュアの情勢にも宰相として日々目を光らせている冷静沈着な魔導師の男なのである。

勿論気にかけているのはそのファルスやシュアだけでは無く、その他の国……例えば

西の国境で繋がっているイディリーク帝国もそうだし、北の方で繋がっているヴィルトディン

王国だって気にかけなければいけない存在だ。


そんなこんなで常に各国の動きに目を光らせなければならないのは別に自分だけに

限った事では無く、何処の国でもそうであろうと言うのがロナ自身の見解だった。

ただ、そんなロナは時たま大胆な事を仕出かす事がある。そんな大胆な事の

エピソードの1つが、隣国シュアの魔導師として知られているアーロスを自国の

講師としてスカウトした事だった。彼曰くこれは冗談でも何でも無く本気でスカウトした

つもりだったのだが、その時にはもうシュア王国の騎士団の一員であったアーロスには

当然断られてしまう結果になってしまった。


スカウトに失敗した彼だったが、実はその外にもう1人気になっている人物が存在している。

自分は魔法以外にも短剣をいざと言う時の為に懐に忍ばせているだけで無く、きちんとその

短剣の特訓もたまにカリフォンと手合わせをして貰う事がある。しかし彼等より大きな

武器を使う人間をファルス帝国との戦争の時に見かけた事があり、その人物に1度武器の

戦い方を自国まで呼び寄せて見せて貰った事があった。その人物と言うのはファルス帝国に

自分の左翼騎士団を率いて乗り込んで来たリアン・カナリスだった。

リアンは大剣使いとして有名な存在であり、あの特段厚みのある身体では無いのに

どうやったらあんな大剣を振り回す事が出来るのだろうかと気になっていたらしい。


魔法剣士隊の副隊長であるジェクトも大剣を振り回す事で有名だが、彼の場合は結構

筋肉が付いているからこそ振り回す事が出来ると言うのをロナ自身も知っていた。

だが、リアンを実際に呼び寄せて演武を見せて貰った後に彼にその疑問を尋ねてみると、

どうやら彼も同じく騎士団の制服の下はがっしりと筋肉質で、しっかりと力の使い方を

熟知して大剣を振り回すだけの筋肉がついている事が分かってしまい何だか期待外れな

結果に終わってしまったエピソードがあった。

結局その後は自分は自分で出来るだけの戦い方をしようと言う事で、自分なりの短剣を

使った戦い方を騎士団から学びつつ魔法も組み合わせた我流交じりのテクニックとして

今では鍛錬に励んでいる。


だが、宰相と言う立場であるが為にそうした鍛錬の時間も普段はほとんど取れなくなって

いるのが現状であり、今のカリフォンとロオンがかかわり始めた事件においてこちらでも調べを

進めて行かなければならない状況になっているのでそうした生活スタイルが彼の日常だ。

元々貴族の出身であり、自分が生まれ育った貴族が宰相のポジションに近い

家庭であったが為に彼が宰相になるのはある意味当然であったとも言えるだろう。

そうして宰相になった彼は、若き君主のシェリスを支える為に今日も活動するのである。


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