Crisis of Empire第9話


「済まなかった……俺、てっきりお前が陛下の命を狙っているのかと

早とちりして暴走しちまった」

「いいえ、良いんです。私も団長も人間ですから間違う事は幾らでも

ありますよ。しかし……あの動きは余程手馴れた動きですね」

自分より4つ年下の上司に胸倉を掴まれて窓に押し付けられた事を

別に気にしていない、とまるで諭す様に穏やかな笑みを浮かべて、

あの時の暗殺者達の動きを思い返しているカノレル。


そんなカノレル・エードレイは貴族出身の右翼騎士団副長。

貴族と言うと傲慢な者が多いのだが、カノレルはそんな態度を微塵も出さず

その物腰の柔らかさで貴族も平民も騎士団も警備隊も関係無く慕われている。

マイペースでのほほんとした性格から女のファンも多く、下町で食事を

摂る事も多い彼は看板娘のウェイトレスから告白された事もある位だ。

彼には兄が2人居て、実家は長男が継ぐ事になっているし次男は

帝国のギルドの職員として活動しているので、三男の彼は悠々自適に

自分の道を選んで活動する事が出来た結果が帝国騎士団への入団だった。


闘技場では無く一般試験で合格したのが17歳の時であり、右翼騎士団に

配属された彼はそこで剣術や馬術等を学び、そこから色々魔物や盗賊等の

討伐に出陣して行った。山脈を越えた先の町を幾つか転々として部署移動も

あったが、最終的には帝都に戻って来てその長い勤続年数から右翼騎士団の

副騎士団長に選抜される。彼は斧が1番使い易いと言う事で、片手で使う

バトルアックスを現在は使用。リーチの短さは否めないが、マイペースな性格

故に相手はリズムを何だか崩されてしまう事が殆んどで、その点もまたカノレルの

実力の高さが窺える。もう37歳なのでそろそろ結婚相手が欲しいと思っているが、

本当に好きな女が現れる迄は結婚しないと心に誓っているらしい。


とりあえず窓から城の中へと戻ったラシェンとカノレルは、そのまま

カルソンの執務室へと向かう。

「カルソン様!」

「ああ、無事でしたか!! 良かった……」

カルソンは2人が執務室にやって来たのを見て、ほっと胸を撫で下ろした。

「陛下は!?」

「奥の私のベッドで寝かせております故、警備も万全です」

「そうですか……」


その時、同じく胸を撫で下ろしたカノレルとラシェンの目に奥の部屋から現れた

ルザロとテトティス、それから警備隊の総隊長であるシャラードの姿が映った。

「やはりあの集団は懲りもせず陛下を狙っていたか……」

腕を組んでポツリと呟くルザロは、自分が廊下を歩いていたら外にその

暗殺者達の影を見つけた事、嫌な予感がしてすぐにセヴィストが寝ている

部屋へ駆けつけた事をカルソンとテトティス、それから騒ぎを聞きつけてやって来た

シャラードに話していたので、同じ事を今度はカノレルとラシェンに話した。


「だから俺に、セヴィスト陛下の服を着てベッドで寝てろとおっしゃったんですね」

「そう言う事。つまり囮だ」

あの時ルザロが話した作戦は、まずラシェンがセヴィストと同じく金髪である事を

利用して、部屋着に着替えて別の場所においてあったセヴィストの服をラシェンに

そのまま着せて、顔が見えない様に上手くベッドに潜り込んで貰っていた。

それからテトティスとカノレルには気配を極限まで殺して貰い、2人ともベッドの下に

スペースがあったのでそこに隠れて貰っていたのである。


そうして隠れていた所で暗殺者達が窓を破ってこそこそと侵入して来たので、

ラシェンが腰にぶら下げたままだった双剣を自分で毛布を剥ぎ取ると同時に

引き抜いて暗殺者の首筋に突きつけ、それによって暗殺者達に同様が生じた所で

ベッドの下から素早くカノレルとテトティスが這い出て武器をそれぞれ残りの暗殺者に

突きつける事に成功したのであった。

ではセヴィストは一体何処に行ってしまったのかと言えば、騒ぎを聞きつけてやって来た

カルソンにも手伝って貰って2人掛かりでセヴィストを担いでカルソンの執務室へ。


その途中でシャラードにも出会ったので、3人でカルソンの執務室の奥にある就寝の

為の小部屋に眠ったままのセヴィストを運び入れたと言う訳であった。

こうしてセヴィストを暗殺者達の手から守る事に成功し、2度目の暗殺計画に関しても

失敗させる事が出来た。

「それで、上手く暗殺者達を捕らえる事が出来たのか?」

そのシャラードの問い掛けに、未だにセヴィストの服を着ているラシェンは首を横に振った。

「いえ……全部で4人居まして、2人が死亡し2人には逃げられました」

「そうか……それでも全員に逃げられるよりはましだったな。だったらその2人の死体を

運び出すぞ。暗殺しようとした下種な輩の顔を拝める絶好の機会だ。俺の部屋へ持って来い」

「はい!」

ラシェンが元気良く返事をし、セヴィストの服を汚さない様にする為に一旦自分の騎士団の

制服へと着替えた後に行動を開始し始めるのであった。


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