Crisis of Empire第10話
「この人達がセヴィスト陛下を狙っていたんですね……」
シャラードの執務室に運ばれた2つの暗殺者達の死体を見つめ、
赤毛のまだ何処かあどけなさを残している位若く見える女が口を開いた。
「この2人にどなたか見覚えはございますか?」
集まった将軍と副将軍達に声をかけるカルソンだったが、どの人間も
首を横に振って黙るばかりだった。
「ミアフィンも知らないのか?」
「全然。見た事なんて全くありませんね、こんな人達!」
帝国精鋭騎士団の副長を勤めるミアフィン・アントゥシャも自分の実力で
のし上がって来た騎士団員の1人だ。ミアフィンは生まれつき他の人間より
魔力が高く、それ故に子供の頃から強力な魔術を使う事が出来ていた。
しかしまだ子供ではどれ位魔術を使って良いかコントロールする事も出来ず、
水属性の魔術で他人の家を一軒水浸しにしてしまった事もある。
幸い貴族の出身であったので、ミアフィンはこってりと親に絞られただけで済んだので
あったが、それ以降魔術は余り使いたく無いと心に誓っていた。
しかし歳を取るに従って魔術を何か人の役に立つ事に使いたいと
考える様になり始め、その結果として魔術で凶悪な魔物を駆除する為に
帝国騎士団に入団する事を15歳の時に決意。
まずは色々な魔術を覚える為にファルスから一旦飛び出してシュアへと
向かった彼女は、そこで魔法学院に留学して魔術の基礎から
応用迄を2年間学んだ後に帰国し、更に帰国後には2年間
講師をつけて貰って剣術や馬術等の武術面、それから兵法も勉強していた。
そんな時に彼女の耳に飛び込んで来たのが武術大会の話であり、
今迄の成果を試す為にと持ち前の魔術の強さを最大の武器にして
気合を入れてその武術大会に臨んだ結果、見事4位に入賞する事が出来た。
予選から始まって、決勝はトーナメントで行われる武術大会のベスト4の4人が
帝国騎士団への入団資格を毎年得る事になるので、ミアフィンはギリギリで
その資格を手にして19歳で騎士団へと入団。
そこからまた剣術、馬術、兵法等を学びつつ見習いとして頑張って、入団から
1年後に見習いから正騎士になったミアフィンに大きな試練が襲い掛かって来た。
それは隣国バーレンとの戦争であり、そこに正騎士になった彼女も勿論出陣。
そうしてバーレンとの戦争の最中、彼女の提案で敵を1箇所に誘い出し
そこに魔術と矢で集中攻撃を浴びせると言う策を編み出す。
その作戦は見事に成功し、彼女はその功績を認められて一気に副騎士団長へと
まだ20歳と言う若さでステップアップし、現在の30歳になった今でも副騎士団長として
帝国騎士団で活躍しているのである。
そんなミアフィンの解答にカルソンはアゴに手を当てて考え込む。
「私もこの方達は全く知りませんね……」
カルソンの視線の先に置いてある2つの死体の内、まず1つは黒髪を
肩までかかる位に伸ばしており、暗闇では分からなかったが首には
紫っぽいピンクのスカーフを巻いている若い男。その横には彼の使っていた
武器として長い両手斧が置かれていた。
もう1つの死体は対照的な白髪の男の死体で、髪の長さは黒髪の男と
同じ肩までかかる位の長髪で、それ以外に黒髪の男と違うポイントと言えば
眼鏡をかけている所位だった。
「目が悪かったのでしょう。それにしても……こちらの方は魔導師だったのでしょうか?」
カルソンがそんな疑問を呈した視線の先には、彼が持っていた魔導師の為の杖と
あの時ラシェンを突き刺そうとした暗殺用のナイフが置かれている。
だが、その2人の身体を漁って何か証拠が無いかを確認し始めたルザロとシャラードが
思いがけない発見をするのであった。
シャラードが漁っていた白髪の男の死体からは何も出て来なかったのだが、ルザロが
漁っていた黒髪の男のスカーフの中から1枚のメモが発見された。
「これは……何でしょう?」
訝しげにそのメモをルザロから受け取ったカルソンは、次の瞬間そのメモに
とんでもない事が書かれていると知って目を見開くしか無かった。