Crisis of Empire第5話
(素早い!!)
ルザロは逃げて行く狙撃者を必死に追いかけて行く。狙撃者は
顔を見られない様にする為か、頭には顔を隠す為の黒い布が巻かれている。
(でも……あいつはここからどうやって逃げるんだ?)
城門はシャラードによって全て封鎖されているから、例え王宮から出られたとしても
捕まるのは時間の問題だろう。なのでこのまま追いかけていれば何時か何処かに
あの狙撃者を追い詰められる筈。
だが、そう考えていたルザロの目の前で信じられない光景が繰り広げられる事になった。
走りながらガサゴソと何かを懐から取り出した狙撃者は、それを城門の一部に向かって
思いっ切り投げつける。
するとその瞬間ボンッと言う音と共に爆発が起こり、人1人がやっと通れる位の穴が
城門に開いてしまったでは無いか!
「なっ!?」
その光景にルザロが走りながら唖然としている間に、スライディングしながら穴に向かって
飛び込んで行った狙撃者は若干引っかかりながらもルザロに追いつかれる前に穴の外へ
逃げる事に成功。
(なら俺も……)
当然ルザロもスライディングで飛び込んで後を追うつもりだったのだが、その穴はルザロの
着込んでいる胸当てや肩当てを含めた身体の大きさより小さい物だったらしい。
当然そうなれば頭は通ったものの肩から先は通す事が出来ず、何とも間抜けな格好で
狙撃者を逃がしてしまう事になってしまうのであった。
「ちっ……!!」
悔しさの余り歯軋りするルザロは、穴から頭を抜き戻して舌打ちをするのだった。
「……幸い急所は外れていましたし、もしもの時の為に服の下に鎖かたびらを陛下は
着込んでおられたので命に別状はありません。今は鎮痛剤を含めた睡眠薬でベッドで
安静にして頂いております」
宰相のカルソンが、自身の執務室に落ち込んでやって来た2人の警備責任者の前で
現在のセヴィストの様子を説明していた。
「申し訳ありません、俺達がついていながらこんな……」
「しかも俺は犯人を取り逃がしました。どんな処罰でも俺は受ける所存です」
シャラードもルザロも自分達があれだけ傍に居ながら、易々と自分達の主君を狙撃されて
しまった事に対して大きな自責の念を抱いていた。
しかし、カルソンはそんな2人を責める事はしなかった。
「いいえ……あれは仕方が無い事です。聞いた話によれば大木の影から矢を射られたとの事。
矢が放たれたポイントをある程度現場検証で立ててみましたが、あれは私の弓の腕では無理な
場所です。恐らく、相当に弓の扱いと射程距離を熟知していなければ出来ない芸当ですね。
私でも思いつきませんよ、あんな場所から1発で陛下に当てる等、神業の様な技術でしょう」
自分も弓使いであるが故に、そんなカルソンの言葉には凄い説得力があった。
(私よりも優れた弓の使い手が居るとは。不謹慎だが凄い腕だ。世界は広いな……)
心の中でそう考えをめぐらせながら自分の執務室の椅子へと座ったカルソン・ノレイクは、
セヴィストと長い付き合いがあるのは当然の事である。
何故ならカルソンがまだ赤ん坊の頃からの付き合いであり、そもそもセヴィストと
カルソンはそれぞれ従兄弟の関係にあるのだ。
勿論これは国民も知っている事で、王族関係者と言うだけで宰相になったのでは
無いかと言う事も囁かれていたが、それをカルソンは実力を見せ付けて
自分の力でセヴィストをサポートしている証明として黙らせて来た。
確かに王族関係ではあるし、カルソンもそれは知っていたが
一般的に言う所の親の七光りとは違って帝王学等も学ばなければいけないし、
王族であるが故に礼儀作法に関しても厳しく躾けられて来た。
また宰相だからと言って安全な訳では無く、何時自分が暗殺されるかとか
主君であるセヴィストをもしもの時に守れる様にならなければいけないとかと
言う事もあって武術の特訓も勿論して来た。
今も腰にロングソードをぶら下げてはいるが、カルソンの場合はそのロングソードと
同時に弓を扱うと言う荒業を見せるスタイルなのだ。
勿論全く同時にと言うのは不可能なので、基本的には遠距離の敵には
弓を使って矢を飛ばし、接近してくる敵が居ればその都度ロングソードに
武器をチェンジして戦うと言うスタイルを取っている。
こうする事で、遠距離でも近距離でも苦戦する事無く戦っていけるのだ。
ただ、彼自身が戦場の前線に出る事は宰相であるが故に滅多に無く、
戦争が勃発した時は軍師として兵達を操っている。
バーレン皇国との戦争があった時もそれは同じ事で、その時にも彼は軍師として
活動してバーレン皇国を打ち負かす事に成功したのであった。
そんなカルソンも闘技場で戦った事は何回もあり、以前にまだ旅人だった頃の
バーレン皇国の剣士隊隊長であるカリフォンをエキシビジョンマッチで
打ち破る程の実績を持っている。それから以前シュア王国からやって来た
第2騎士団団長のエリフィルに興味を持っており、若いながらも騎士団長の
1人であると言う事でカルソンはその剣の腕前を知りたいと35歳になった現在に
おいても思っているらしい。