Crisis of Empire第4話


セヴィストがフールベリア城のバルコニーに出て来た時、それまでザワザワとしていた

民衆が一斉に静かになった。この国の指導者の話に耳を傾ける為だ。

そんな民衆達をセヴィストはバルコニーの上から尊大に見下ろして、良く通る声で

民衆への演説を始めた。

「すでに我が国ではチラホラと噂が出ている様だが……この度、我がファルス帝国は

古代の遺跡を発見する事が出来た」

するとまだそれしか言っていないのに、ザワザワと民衆がざわつき始める。


「静かに!!」

宰相のカルソンの声で民衆達のざわめきが収まり、1つ咳払いをして

セヴィストが再び演説を続ける。

「まだこの程度で驚いて貰っては困る。その古代の遺跡に関してだが、

今の所は調査中だ。だがどうやらこの遺跡は……世界に伝わる伝説のドラゴンに

関する遺跡では無いかと言われている。そう、あの人間の言葉を理解する上に

かつて古代にそのドラゴンの国を建国していたとされるドラゴンの1匹だ」

今度は民衆からのざわめきは無かった。驚いているのか、はたまた呆然としているのか。


それに構わずセヴィストの演説はまだ続く。

「しかし、依然として余り調査は進んではいない。何故ならこの遺跡には封印が

施されている様で、我が国では封印を解く為に現在も調査を進めている。もしこの

封印が解けた時には、我が国の歴史に新たな1ページが刻まれる事になるだろう。

皆の者、心して待っていてくれ」

と、そこで1人の国民からの質問が飛んで来た。調査内容については具体的に

何処まで進んでいるのかと言う事だった。

「それに関してだが、封印以外に関しては遺跡の劣化状況等から少なくとも1000年

以上前に造られた物だと聞いている。それ以上はまだ分かっていない。またある程度

調査が進んだら諸君等にも報告をさせて貰いたい」


古代の遺跡が自国で発見された。それだけでも大きなニュースであるが、その遺跡が

もしかしたらこのヘルヴァナールと言う世界のおとぎ話としても使われている伝説のドラゴンに

まつわる遺跡であるかもしれない。その遺跡の封印が解ければこの国は他の国に対して

一気に文明の謎を解いた事へのリードを保てると言う事になる。

その演説を聴いて、期待や一種の不安等で再び民衆がザワザワしだした。

「そう言う事だ、それではこの後に中庭でせっかく皆が来てくれたのでな。

俺は執務で参加出来ないが料理でも用意させて貰うとしよう」

そのセヴィストの一言で今度は軽い食事会が開催される事になったのだが、

バルコニーから出る為にセヴィスト、ルザロ、シャラードが中庭に対して

背を向けた……その時!!


「うぐぉ!?」

ドスッと言う音と、セヴィストの苦しそうな声がルザロとシャラードの意識を彼に向かせる。

「陛下っ!?」

何と、何処からか射られた矢がセヴィストの背中に突き刺さっていたのであった。

苦鳴を上げながらセヴィストがバルコニーに膝をつくと同時に、その様子に気がついた

バルコニーの他の警備隊員と騎士団員達、更には民衆達がだんだんとパニックになって行く。

「おい、医者を早く呼べ!!」

「くっ……」

周りの警備に当たっている者達に命じたシャラードと、矢が射られたと思われる方向を

即座に見渡すルザロ。


するとそのルザロの紫の瞳が、遠くに立っている中庭の木の影から

ススーッと下りて来る怪しい人影を発見した。

「あそこだ!! あいつだっ!!」

「お、おいルザロっ!?」

バルコニーから飛び降りて駆け出して行った自分の相棒を見て、シャラードは警備に

当たっている他の者達にセヴィストをここから一刻も早く避難させる様に命じてから

ルザロの後を追いかけ始めた。

「どうしたんだ一体!?」

「矢を撃って来た犯人を見つけた!! 絶対に逃がすなっ!!」

「何だって!?」


まさかのルザロの発言にシャラードは驚くが、この男とは長い付き合いなので

こんな非常事態に嘘を言う様な男では無いと分かっている。

「あの木だ、あそこの木から下りて行く人影を見つけた!」

「あそこからって……かなり距離があるぜ!?」

「それだけ腕の良い奴だと言う事だろう。だが俺達の失態である事にも変わりは無い。

この王城の門を全て封鎖しろ! この中に閉じ込めてしまえ!」

「分かったっ!!」

シャラードにそう指示を出して封鎖を頼んだルザロは1人で犯人を追いかけて行くのだった。


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