Crisis of Empire第2話
「良いか、気を抜くなよ」
「分かってる」
警備責任者として、バルコニーの上の皇帝のすぐ傍で警備の任に
当たる事になっているのはこのファルス帝国の精鋭騎士団団長である
ルザロ・ファラウスと帝国警備隊総隊長のシャラード・クノファンだった。
重要なイベントがある時はこうして警備責任者として借り出される事が
彼等の主な任務の1つであり、気を張り詰めて警備の任に当たる。
ファルス帝国騎士団の中で魔力が生まれつき高かったり、何か武芸に秀でた者で
あったりと言う様なエリートのみを集めて構成された文字通りの精鋭騎士団の
団長がルザロ・ファラウスであり、このファルス帝国の将軍だ。
ルザロはその中で武芸に秀でたクラスとして、剣の腕でのし上がって来た
苦労人の将軍と言う事でも有名な存在である。
副団長のミアフィンの様に武術大会で上位に入賞する等して成績を
国に示して最初から精鋭騎士団に配属される者も居るし、ルザロの様に
最初は左翼騎士団所属でその後に精鋭騎士団に配属されると言う叩き上げの者も居る。
この様に経験が短かったり長かったりと言う一見ちぐはぐなメンバーが
揃っている様に見えるが、精鋭騎士団所属にそうしたちぐはぐさをなるべく
横一線にする為に経験の浅い者は基礎から徹底的に教え込むし、経験が長い者は
そうした経験の浅い者の講師に着く等して技術面や精神面で若手とベテランの差を
出来る限りゼロになる様にするのがファルス帝国騎士団なのだ。
それだけに騎士団の士気も実力も武人国家ファルス帝国の中でトップの存在であるし、
事実バーレンとの戦争で活躍した騎士団の割合が最も高かったのもこの精鋭騎士団なのである。
そうしたファルス帝国騎士団のベテラン組で将軍の座に叩き上げで
抜擢されたルザロであったが、彼は元々は孤児院で暮らしていたと言う過去を持つ。
平民出身の彼は、父親が炭鉱で働いて母親が帝都の土産物屋で働いていた。
ある日の朝、炭鉱に出かけた父親が弁当を忘れて行ったのを母親が届けに行ったのだが、
既に父親が炭鉱に着いており、母親はその炭鉱で弁当を渡した。
だが、その時運悪く大規模な落盤事故が発生して両親共に安全圏に居た筈が
範囲が広過ぎて巻き添えを食らってしまい、そのまま帰らぬ人となってしまった。
その知らせを聞き、結果的に孤児院へと入れられる事になったルザロだったが
自分が弁当を届けに行っていれば、と悔やむ日々が続いていた。
それに加えて自分が何も出来ない無力な人間だと言う悔しさも同時に
襲い掛かって来て、なるべく多くの人の役に立ちたいと言う事で孤児院時代から
武術や馬術の腕を磨いて帝国騎士団に入団し、魔物や盗賊から国民の
安全を守りたいと思う様になった。
そして12歳の時に孤児院に入院してから3年間は町の武術学校に通って
剣術や馬術の腕を磨き、15歳の時に帝国騎士団の入団試験を受けて
トップクラスの成績で入団する事になった。
だが入団してからもルザロは常に高みを目指して努力に努力を重ね、
1年後の16歳には見習い騎士から正騎士へ昇格し、そこから左翼騎士団で
多くの功績を残し、エリートの存在である精鋭騎士団に僅か20歳で抜擢される。
そうしてその8年後に精鋭騎士団の騎士団長として、そして帝国の騎士団を
纏める存在の将軍として若くして勤める事になった現在34歳の
ルザロはクールで冷静沈着で、実力も勿論セヴィストに武術を
教える事もある位の腕前なので国民からも相当人気が高い。
同じく将軍職になっているシャラードとは将軍同士でコンビを組んでおり、
帝国騎士団と帝国警備隊をそれぞれサポートする形で2人は活動している。
勿論今回のこの重要発表がされるイベントにおいても、ルザロは帝国
騎士団のトップの存在なので必然的にセヴィストの護衛をする事になる。
今までこうした大々的なイベントの時に何かトラブルがあった等と言う事は
せいぜい羽目を外し過ぎた酔っ払いの客が暴れたとかそう言う物位
だったのだが、「今回も何も無いだろう」では無く「今回は何かあるかもしれない」
と言う気持ちを何時も持っている事が大事であると常日頃からルザロは部下に
教え込んでいるのであった。