Crisis of Empire第17話


「……こ、これは!」

執務室に近付くに連れて、恐らく見回りに出ていたのであろう騎士団員達が倒れているのが

ぽつぽつと目に入る様になって来た。

「恐らく増援を呼ばれる前に倒されてしまったんだろう」

「ええ……その怪しそうな騎士団員はそれだけの実力があると言う事になりますね!」

テトティスはそのラシェンとリアンの会話を聞いていて自責の念にかられかけていたが、

今はとにかく被害をこれ以上出さない様にすると言う事を念頭に置く様にして一旦その思考を

振り切り、1分でも1秒でも早く執務室へと辿り着く為に足を動かした。


そうして執務室まで走って来た4人は、見張りの騎士団員が執務室の前に

4人程居た筈なのに全員やられてしまっているのが目に入った。

更に執務室の中からは激しく争う音も聞こえて来る。

それと同時にもう1人騎士団員が倒れているのが分かったが、その騎士団員は

リアンにとって最も身近な存在の人間であった。

「てぃ、ティハーン!?」

何と左翼騎士団副団長のティハーンが、ボコボコにやられて出血したまま

呻(うめ)いているのが発見された。


ティハーン・アヴィバールは現在30歳と言う若さであるが、実はカルソンの弓の師匠に

当たる人間として知られている。そのカルソンの師匠であると言う事の認知度は城の中だけでは

無く他国の騎士団でもまあまあ知られている事である。宰相であるカルソンが直々に師事を頼む

だけあり、弓の技術は左翼騎士団だけではなく全騎士団の中で1.2を争う腕前になっている。

元々彼は団長のリアンと同じく貴族出身組の騎士団員であるが、余り他人との関わりを

持とうとしないタイプでもあった。その代わり自分の弓の腕前には自信を持っており、今はもう

引退してしまったもののかつて世界中で弓を教える旅を若い頃にしていたと言う自分の父親から

直々に受け継いだテクニックが彼にある。


そんな弓の達人である彼は5歳から弓に触れ、そのテクニックを城に招かれた時に

演舞で父親と一緒に披露した所で騎士団へのスカウトを受けたのが切っ掛けで

騎士団に入団した。この時僅か17歳と言う若さだったが、逆に言えばその年齢

だったからこそまだまだ伸びしろがあったと言えるだろう。

ティハーンはそこから見習い騎士になり、弓以外の武器や馬術も覚え、兵法も学んで

一流の騎士団員になるべく訓練を重ねて行った。元々貴族出身の為に礼儀作法に

関しては厳しく躾けられたので騎士団の生活に馴染むのは割と早かった方だったが、

どちらかと言えば1人で居る事の方が多かったので今でも余り友人は多く無い方である。


やがて正規の騎士団員になった彼は、やはりと言うべきかメインの武器を弓にして

戦場では後方支援部隊を指揮する立場へと成り上がって行く。

弓の射程距離や攻撃方法、また欠点等も熟知している彼はヒットアンドアウェイ

戦法で、弓を射た後にはすぐ退避すると言う戦法をメインにして来た。

そう行った戦法で着実に成果を上げて来た彼を左翼騎士団長にと言う話もあったが、当時の

彼自身は余り昇進や地位には興味が無かったらしく一般兵のままで良いと考えていた。が、周囲の

強い希望で仕方無く副騎士団長に就任する事になってしまったと言うエピソードがある。現在では

教官の1人として弓兵達を鍛える姿が目撃されている他、バーレンとシュアの弓使いであるグラルダーと

ヒーヴォリーにはひっそりとライバル意識を燃やしている事は誰もが知っている事実である。


だがそんなティハーンが常日頃から愛用している弓は真っ二つに折られており、

彼がやられてしまった事は誰がどう見ても明白だった。

「カノレル、ティハーンを頼む!!」

「は、はい!」

リアンはカノレルにティハーンを任せる事にして、ラシェンと目配せしてお互いの武器を抜き放つと

ためらいも何も無くカルソンの執務室へと飛び込んだ。

そしてその中ではカルソンと1人の白髪の男が戦っているのがまず騎士団長達の視界に入って

来たが、騎士団長達が執務室に武器を抜いて入って来た事で一瞬カルソンの注意が

逸れたのを相手の男は見逃さなかった。


Crisis of Empire第18話へ

HPGサイドへ戻る