Crisis of Empire第12話
「待て御前達……少しは冷静に考えてみろ」
「え?」
「俺達は別にこのクラブに酒を呑みに来た訳で無ければ会員になりに
来た訳でも無いだろう。ここに来た目的は今回の事件に関する情報の
手掛かりがこのクラブの会員証だったからだ。それ以上でもそれ以下でも無い。
あの男がこのクラブの会員証を持っていたんだとしたら、きっとあの男に関する
情報がこのクラブでは手に入る筈だ。今はそれだけを考えろ」
冷静な口調だが力強いそのルザロの言葉に、シャラードとラシェンは
「自分達は何を戸惑っていたんだろう」とハッとした顔つきになった。
「ああ、そうだな。俺達は事件解決の為にここに来た。別に服装も
物乞いみたいなもんじゃねぇ、ちゃんとした俺達の服装だ」
「だったら迷う必要はありませんね。行きましょう!」
シャラードもラシェンも決心した所で、騎士団の5人はクラブへと足を進める。
だがどうも前途多難の様で……。
「この会員証は使えない?」
何と店の人間に聞いた所によれば、あの男のポケットから出て来た会員証は
1人1人にシリアルナンバーが割り当てられている物で、そのシリアルナンバーと
一緒に何と会員の似顔絵まで書いてあるのでその会員の似顔絵と照らし合わせて
本人かどうかを確認するシステムであったらしい。
そうなるとこの会員証を何故騎士団が持っているのかと言う状況になるのだが、
その状況を怪しんでいる様子の店の人間にルザロは正直に全てを話す。
「恐らくこの店にも情報は届いている筈だ。今、俺達帝国騎士団は陛下の
暗殺事件を調べている。そしてその捜査を進めている内に、この会員証を
持っている人物が死んでいるのが見つかった。だから俺達はここに来た。
騎士団の権限により、このクラブの中を家宅捜索させて貰う」
そのルザロと店の人間の会話に気がついたのか、店の奥から1人の若い銀髪の
男がゆったりとした足取りで姿を現した。
「何だ、騎士団がこの店に何か用か?」
今ルザロが言った内容を今度は簡潔にシャラードが説明する。
ついでに騎士団のバッジも見せると銀髪の男は1つ頷いた。
「成る程、そっちの言い分は分かった。……が、答えはNOだ」
「何でだよ?」
「こんな所にそんな暗殺を企てる様な人間が来るとでも思うのか? 少しは
場所を考えてみろ。仮にその白髪の男が会員だったとしても、こっちは
そんな人間は見た事が無いな」
その銀髪の男のふてぶてしい態度にイライラする騎士団員達だが、そんな中で
1人の男が騎士団員達の目を盗んでこっそりと何処かへ行こうとしているのを
目ざとくシャラードが気がついた。
「おい、待てっ!!」
咄嗟にその男の肩を掴んだが男に突き飛ばされそうになったので、つい反射的に
シャラードは前蹴りを食らわせてしまい男の身体が宙を舞って近くのテーブルを
粉々に破壊する。
当然そうなればクラブの中は大騒ぎになりざわめきが走る事になる。
「待て、シャラード落ち着け!」
「あいつ、俺達の事を誰かに知らせようとしていたみたいだぜ!?」
ルザロがシャラードを手で制するが、シャラードのボルテージは上がったままだ。
それを見た銀髪の男はフーッと溜め息を吐くと、首を横に振って手でクラブの中を
指し示して諦めにも似た声を出した。
「分かったよ、店を壊される位だったらこっちもそれは御免だから存分に探せ」
その言葉で捜索許可を得た騎士団員達はぞろぞろと店の中に入り、早速捜査を
進める事にした。
落ち着いた雰囲気の店には美しく着飾った男女が優雅に酒を呑んで
談笑をしており、城下町の普通の酒場とは違った材質の壁や床で造られている
店内は確かに高級そうなイメージが一見して伝わって来る。
それでも談笑の合間合間にチラチラと騎士団員達に視線が注がれる。
やはり先程のシャラードの一撃が色々な意味で効いているらしい。
何かセヴィストの暗殺の証拠になる様な物は無いか、他の暗殺者の手掛かりに
なる物は無いかと言う事を用心深く、どんな小さな手がかりも逃さないとばかりに
騎士団の面々は捜索を続けるが、この後に起こる予想もしない出来事を彼等は
まだ知る由も無かったのである。