Compete in a Different World第9話


吹っ飛ばされたクラデルはすぐさま体勢を立て直すが、何が起こったのかが

未だに頭が混乱していて理解が出来ない状況だ。

そんなクラデルを見てチャンスとばかりにティラストは一気に攻めの姿勢に転じる。

まずはクラデルに対して飛び込みながら、今度は同じく左手で水の弾を

クラデルにぶつけようとする。しかしそれはクラデルも横に身体をそらして回避。

だがその動きがティラストの計算する所であり、彼はクラデルの両足を目掛けて

ロングソードを股の間に突き入れて上手く関節の部分を刃の部分で折り曲げさせ、

強制的に膝を地面につかせる事に成功。

「ぬお……ぐあ!」


そのままロングソードを握らないもう片方の手を地面につきながら身体を反転させつつ

ティラストはクラデルの顔面に低い位置での回し蹴り。

クリーンヒットはしたがパワーの差で余り効きはしなかったらしいクラデルが何とか体勢を

立て直したが、ハルバードを構え直すよりも速く今度はティラストが飛び蹴りを

かまそうとして来たのが見えたので咄嗟に横に身体をそらした。

「ぐっ!?」

……のだったが、何とティラストは飛びながら両足を広げてその身体をそらしたクラデルの

顔面に右足をクリーンヒットさせつつ着地。


そんな顔面に続けてキックを食らったクラデルは体勢を立て直すのが遅れ、その間に

素早く180度ターンしたティラストがクラデルのアゴ目掛けて全身全霊の飛び膝蹴り。

「ぶおっ!!」

人間の急所の1つであるアゴにダイレクトに膝蹴りを受け、流石のクラデルもふらついてしまう。

だがティラストの追撃はそれでも終わらず、思いっ切り今度は飛びながら両足でクラデルを

蹴り倒す事に成功。そのまま倒れ込んだクラデルにロングソードを突きつけ、このバトルは

ティラストの勝利となった。


「しょ、勝者、ティラスト・フラード!!」

戸惑いながらのリルザの宣言が上がり、エルガーもジェリバーも、そして周りの騎士団員達も

呆然とした表情だ。何せ、自国の騎士団の中のトップの1人でもある男が傭兵に負けてしまうと言う

大番狂わせが起こったのだから。

「……起きれますか?」

「ああ……」

ティラストは自分の手に掴まりながら起き上がるクラデルに、何やらブツブツと呪文を唱え始める。

すると左手が淡く光りだし、クラデルの顔色が見る見る良くなって行く。

「治癒魔法です」

「わりぃな、助かるぜ」


「お前は攻撃魔術も治癒魔術も使えるのか」

「ええ、武器よりは魔術の方が得意でして」

感心した様に尋ねるリルザに、ティラストは緩く笑みを浮かべながらそう返した。

そんな2人の後ろで、エルガーは戸惑った表情になる。

(確かにこの2人の実力は相当高い。まさかクラデルが負けるとはな……)

よもや自分の相棒とも言える存在のクラデルが、模擬戦とは言えども敗北を喫してしまった事で

エルガーはチラリと横目でロサヴェンを見る。

そんなロサヴェンは自分の相棒がこれだけの偉業を成し得た事で満足そうな表情だ。


クラデルがティラストと共に下がったのを見て、ジェリバーがエルガーの方を向く。

「それでは次はエルガー将軍に出て貰うとしましょう」

「はっ……」

やはり自分がロサヴェンと戦う様で、エルガーはジェリバーに一礼して前に出る。

「俺の相手は王宮騎士団長か。よろしく頼むぞ」

「こちらこそ。クラデルが負けた以上、私は負ける訳には行かないからそのつもりで」

「さて、それはどうかな?」

不敵な笑みを浮かべるロサヴェンだったが、エルガーはそれに全く動じずにロングソードを抜いた。

「準備は良いですね? それでは模擬試合……始め!!」

ジェリバーの宣言がされて、王宮騎士団長と名うての傭兵のバトルが今スタートした。


エルガーがロングソードなのに対して、ロサヴェンの武器は両手剣だ。

となると先程のクラデルvsティラストのバトルとはパワーや素早さの点では逆になる。

ロサヴェンがパワーで勝るのに対して、エルガーはロングソードの機動力を活かした

戦い方がキーポイントになりそうだ。

(迂闊に突っ込むとまずい……か)

ティラストがやった様に自分もやりたい所ではあるのだが、相手の出方が分からない以上

同じ戦法を取るのはまずそうだ。それに確証は無いが、相棒として長い間一緒にロサヴェンと

ティラストは行動していたと言うので手合わせもしているかもしれない。

(けど……私は負けたくは無い)

相手に対して不安な気持ちや弱気な態度はそれだけで隙になる。必ずチャンスは

巡って来るとばかりにエルガーは対峙するロサヴェンを見据えた。


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