Compete in a Different World第10話


ロサヴェンはなかなか向かって来ないエルガーに痺れを切らし、自分から

先にエルガーに仕掛ける事にした。ここまではさっきのクラデルとティラストの

バトルとは逆の展開だ。

「ふっ!」

息を吐いて両手剣を構えて一気に飛び込むロサヴェン。

彼の使う両手剣はバスタードソードの類の様だ。パワーは確かにありそうだが

どう取り回して来るのかと言う所が対するエルガーには1番気になる所である。


「……」

突っ込んで来たロサヴェンに正面から打ち合う様な真似はせず、なるべく

横に回り込んだり後ろに下がったりしながら隙を窺うエルガー。

一見大振りな様に見えるのだが、しっかりと狙った場所に攻撃を打ち込みつつ

打ち込んだ後は間合いを取って隙をなるべく作らない様にする。

(それなりに厄介そうだな)

やはり名うての傭兵と言うだけの事はあるか、とエルガーはロングソードを構えながら

チャンスを見出そうとする。

(クラデルと模擬戦は良くやるが、それと同じ要領で行けば良いのか……?)

同じくパワー系の相手をして貰っているクラデルと手合わせをする時には、自分は

クラデルの隙を見つけて反撃して来た。しかしさっきはティラストも同じ様にやっている。


となればやはりロサヴェンとティラストもお互いに武器を交えている可能性が高いと

踏んだエルガーは、唯一の自分の利点である素早さを武器にした一か八かの

突っ込み勝負をするしか無いと考える。

(のるかそるかのワンチャンス!!)

ある程度頭の中に攻撃パターンは浮かんでいるが、相手のロサヴェンも相当な

使い手な上に実戦経験で言えば自分よりも上と言う可能性が無きにしも非ずだ。

(それでも私はやるだけだ)

ふう、と息を吐いて今度は自分からロサヴェンに向かう。

それを見たロサヴェンは素早い動きで両手剣を振り回すが、間合いに入る直前で

エルガーは素早く踏ん張って急停止。

「……!!」


両手剣はその大きさと長さでパワーはあるが取り回しが利き難い上に、スピードで言えば

エルガーのロングソードが有利なのでその両手剣を振り切って行くまで若干のロスが出た

ロサヴェンの腰目掛けてタックルして、そのままマウントポジションに持ち込みつつ

ロングソードを横向きに首筋に突きつけた。

「残念だったな」

「……俺の負け、か」

最後は何とか強引に勝ちをもぎ取り、王国の騎士団長としての面子は保てたらしい。


そうして謁見の間に戻ったロサヴェンとティラストは、リルザからその戦い振りに祝辞を貰う。

「良し、御前達の実力は申し分無い物だ。見事だったぞ」

「ありがとうございます」

再びひざまずいている2人に、宰相のジェリバーから紙が配られる事に。

「御二方、こちらが登録用の用紙でございます。こちらに必要事項を記入して契約します。

と言っても今更説明は不要ですね」

こうしてロサヴェンとティラストはヴィルトディン王国側の人員として戦争に参加する事になった。

しかし、この登録がヴィルトディンにとって吉と出るか凶と出るかはまだこの時は誰にも分からないのであった。


「……え?」

「私達はクーイトリック山脈には行かないんですか?」

てっきり自分達が前線へ赴くものだとばっかり思っていた傭兵コンビの2人だったが、まさかの

エルガーからの通達に目を丸くしてきょとんとした。

「ああ、御前達にはこの王都の守護に当たって貰いたい。後方支援に回ってくれ。

私とクラデル、それから私達の副官達も前線に向かうからこちらがどうしても手薄になってしまうのだ」

「そう言う事か」

警備が手薄になるから腕の立つ2人にこの王宮、それから王都全域の守護を任せる事にする。


それは主力部隊をクーイトリック山脈で食い止める為に、どうしても人員を前線へと回さなければ

いけなかった。しかしそうなって来ると王宮や王都の守備が手薄になってしまう。そこでこの2人に

守備の一端を担って貰う作戦だ。

「1つ聞くが、部隊とかを指揮した経験は?」

「いや、全くと言って良い程無い」

「私もです」

「そうか。だったらとにかく敵が来たら全力で打ち倒せ。それだけだ」

自分の問い掛けに否定で答えられたクラデルは、勇気付ける様な口調で傭兵コンビの肩を

ポンポンと同時に片方ずつ両手で叩いてガッツを入れた。


「さぁ、開戦だ」

リルザは静かに、しかし力強い声で一言発する。

日が昇り切る前から、ヴィルトディン王国軍は戦争の前線となるクーイトリック山脈へと

進撃を開始するのであった。

騎士団の誰もが、自分達の国に攻め込んで来ると言うのなら全力でこちらもその侵略者を

迎え撃ってやると言う強い気持ちを胸に持ちながら。


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