Compete in a Different World第8話


そしてその翌日、ロサヴェンとティラストはリルザに謁見をして傭兵として登録する事になった。

「承知した。御前達の噂は余も良く知っている。何でも半年前は

クーイトリックの山賊30人を2人で壊滅させたらしいな。それから2年前に

起きた魔物の王都襲撃未遂事件も御前達の活躍を聞いている。

今回も我が国に協力してくれると言うのならこちらとしてもありがたい。

それなりの見返りも後方支援もさせて貰おう」

「ありがたき幸せ」


頭を垂れてひざまずくロサヴェンがリルザに感謝の意を述べたが、ここで

リルザが意外な事を言い出した。

「……とは言うものの。それだけの活躍をしているのであれば実戦経験も豊富なのは分かる。

もし良ければだが、余の配下を相手にして模擬戦をしてみてくれないか?」

「模擬戦……ですか?」

きょとんとした顔つきで問い返すティラストに、リルザは真面目な顔つきで頷く。

「そうだ。実際にこの目で自分で確かめてみたい。別にこれが登用するかしないかのテストと

言う訳では無いが、是非御前達の腕前を見たいのだ」

その言葉にロサヴェンとティラストは顔を見合わせて頷いた。

「分かりました、陛下の願いとあらば」


と言う訳で模擬戦が急遽行われる事になった。行われる場所は場内にある

騎士団員達が鍛錬をしている鍛錬城である。

ただし今の時間帯は訓練している騎士達が余り居ない時間帯。だが裏を返せば

それだけ戦いやすい状況であると言う事だ。

自主練習に励んでいた騎士団員達も、突然鍛錬場に現れた自分達の主君の姿に何事かと

手を止めて興味津々な顔つきになっている。

「良し、ここなら存分に戦えるでしょう。ルールは簡単。それぞれ1対1の勝負で、相手に武器を

突きつけるか相手の武器を飛ばせば勝ちです」

宰相のジェリバーからそうルール説明をされ、最初に出て行くのはティラストだった。


「相手は俺がやる。それで構いませんよね?」

「ええ、良いでしょう」

ジェリバーに名乗りを上げたのは近衛騎士団長のクラデルだった。

「近衛団長が直々に相手をして下さるとは、私としても光栄ですよ」

「だけど手加減はしないぞ」

「分かりました。こっちだって伊達や酔狂で腕を磨いて来た訳ではありません。存分に行かせて貰います」

そう言いながら腰に吊ったロングソードを抜いたティラストを見て、クラデルもにやりと笑いハルバードを構えた。

「準備は良いな? では……始め!!」

リルザが直々に号令をかけ、近衛騎士団長と傭兵の試合が開始。

最初に仕掛けたのはクラデル。積極的に前に出て行くタイプなのとリーチが長い自分の方が有利だと踏んで

一気に勝負を仕掛けに行く。


そんなクラデルを迎え撃つティラストだが、彼はどちらかと言えば積極的に前に出るタイプでは無く

相手の隙を読んで反撃に転ずるエルガーと似たタイプだ。

エルガーの様にいやらしい戦法は余り使わないが、そんな彼にはエルガーには出来ない物があった。

それはクラデルにも出来ない物であり、これを使ってクラデルとのパワーさとリーチ差を補う作戦である。

(まともに真っ向勝負をしても勝ち目は薄い。ならば!)

ロングソード以外にも隙を見てローキックやハイキック、足払いを繰り出すがこれはクラデルにも出来る。

逆にクラデルが同じ様に足払いをかけようとするが、素早さに関してはティラストの方が武器の

取り回し易さと体格で上なので避けるのは簡単だ。


打ち合うよりは、回避と防御、そして隙を見ての反撃に徹するティラストに対して

パワーで押し切ろうとするクラデルの対決と言う所だ。

しかしこのままでは避ける方にエネルギーを使い過ぎて自分が先にバテてしまうと悟った

ティラストは、大体のクラデルの攻撃パターンも分かって来たので自分から反撃に出る。

と言っても根本的なファイトスタイルは変えずに、相変わらずの隙を見ながらの反撃。

(やりにくい相手だなー……)

クラデルは生半可な鍛え方をしていない分まだまだパワーが有り余っているが、このままでは

何時までたっても決着がつかないと判断し始める。


だが、ティラストは次の瞬間とんでもない行動に出る。

まずはクラデルの横薙ぎを回避し、一気に懐に飛び込んで左手の手のひらをクラデルの

腹に押し付ける。それだけでは勿論クラデルを押す事も出来ない……筈なのだが。

「ぐお!?」

いきなりクラデルが何かに弾かれたかの様に吹っ飛んだ。

(まさか、今のは……)

最初からその状況を見ていたエルガーは、ティラストが何をしたのかが薄々分かった。

(魔術……彼は魔法剣士か。となるとクラデルは厄介だな!!)


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