Compete in a Different World第7話


その男を見て、ジェディスの顔も変わった。

「あ、あの人ってまさか……傭兵の?」

「そうだな」

「伝説的なフリーの傭兵、ロサヴェンさんじゃないのか!?」

するとその声に気がついたらしいその男が、自分の持っている酒の入った

木で出来ているコップを持って2人の座るテーブルにやって来た。

「お、おいこっち来るぞ?」

「……」


ひそひそとそう言うジェディスと、クールな表情のロイティンと言う対照的な

2人だが、男はそれに構わず2人に話しかける。

「ここ、空いているか?」

「え? ええ」

「騎士団の副長同士だな。少し話したい事がある。座るぞ」

そうして座った男をジェディスは再確認し、やはりと言う様に口を開く。

「あ、あの……ロサヴェン・ヴィレイスさんですよね? 傭兵の」

「そうだが」

「やっぱりそうか。俺、噂は良く聞いてますよ!」


ヴィルトディン王国はもとより、このカシュラーゼ大陸全土にその名前を轟かせている凄腕の傭兵として

知られているのが四捨五入してギリギリ30代の34歳、ロサヴェン・ヴィレイス。

ロサヴェンは傭兵として大陸中を回っている男であり、傭兵募集の張り紙を見ては積極的に応募して経験を

重ねて来た過去を持ち、現在はヴィルトディン王国に根付いている。実際の所、もっともっと自分の力を

試す事が出来るのでは無いかと言う事で再び旅に出ようと考えてはいるのだが、意外とヴィルトディン王国が

暮らしやすい事に気がついてしまったので現在は王国から仕事を請け負う事が多くなっている。

傭兵になった理由は元々両親を8歳の時に亡くしてしまった為にファルス帝国にある元騎士団員だった叔父の家で

育てられていたのだが、その叔父が16歳の時に病死してしまい独りぼっちになってしまった事で傭兵家業を始めた。

剣術や体術、世の中の知識についてはその叔父から修行を通して身につけていったのである。

ただ、ファルス帝国騎士団仕込みの剣術は傭兵生活を続ける内にとうの昔に薄れてしまい、ほぼ我流の剣術となって

彼の身を守っている。たまに人目に付かない所で趣味の歌を歌っているが、お世辞にも上手いとは言いがたいのを

本人が1番気にしている。


「それはどうも。ところで、俺の話をして良いかな?」

「あ、え、は、はい!」

ジェディスから了承を貰い、いざ話そうとロサヴェンが口を開きかけたその時

食堂の入口のドアが開いて1人の男が入って来た。

その方向にロサヴェンが顔を向けると、緑髪の男が見えたので手を振る。

「こっちだ」


その男にも見覚えがあるジェディスとロイティン。ロサヴェンと長い付き合いの傭兵だ。

「どうも初めまして。ティラストです」

その穏やかで物腰の柔らかい性格から貴族の出身では無いのかと何回も勘違いされる事があるが、実際は

商家の出身なので完全な平民であるのがロサヴェンと行動を共にしているティラスト・フラード、26歳。

外の世界を見てみたいと思い生まれ育ったヴィルトディンを17歳で飛び出し、大陸中を旅している時に

ロサヴェンとヴィーンラディ王国で19歳の時に出会った。それからの付き合いなのでロサヴェンとは

旧知の仲として一緒に依頼を請け負ったり時には対立したりと言う様々な人間ドラマが生まれて来た。

現在は生まれ育ったヴィルトディン王国に戻って住んでおり、ロサヴェンと同じく王国からの依頼を

受ける事が多い。ロングソードを武器として使用するが他にも一通り武器の鍛錬を積んでおり、尚且つ

ロサヴェンとは違って魔術が使えるので魔法剣士の傭兵として魔術が必要な場面で活躍する事もある。

彼自身も武器よりは魔術の方が得意であり、攻撃魔術から回復魔術まで幅広いオールラウンドタイプとして広く知られている。


そしてその2人が何故この副長コンビに接近して来たのかが、

次のティラストとの会話で明かされる事になる。

一通りロサヴェンから、ここで偶然この2人と出会った事を聞かされたティラストは

いきなり本題に乗り出した。

「では本題に入ります。私とロサヴェンさんも、今度の戦争に参加します。

ヴィルトディン王国側の兵力としてね」

その言葉に、目が点になるジェディスとあくまでクールな素振りだったが

内心では驚きを隠しきれないロイティンであった。


そのジェディスとロイティンの反応を見て、ロサヴェンが今度は話を切り出した。

「そう言う事だ。俺達は今回ヴィルトディン王国側につく事にした。

きな臭い動きをエスヴェテレスの奴等がしているのは向こうに行っていた時に

聞いたから、これはひょっとするとヴィルトディンと一悶着あるんじゃないかと思ってな」

「それは頼もしい限りです。まさか貴方方の様な名のある傭兵の方までもが、

こちら側についてくれるなんて。それでは陛下の元に謁見に向かいましょう。

ぜひ1度、陛下にお会いして頂きたいのです」

そうロイティンに言われ、ロサヴェンとティラストは2人の副長と一緒に王城へと向かう事になった。


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