Compete in a Different World第2話


確かに一国の皇帝がそんな行動をすれば、嫌でも目立ってしまう。

「国境の警備兵はもちろんその姿を見かけたんだよな?」

「当たり前だ。そうしなければこっちには渡ってこれないしな。引き連れていたのは

護衛の騎士団長やらお偉いさん方ばかりだ。奴等は観光って言う名目でこっちに

入って来たと警備兵は聞いたと言っていたが、それでも怪しさは拭いきれない」

「……陛下の耳にも届いているんだろう?」

「ああ。と言うか御前の耳には届いていなかったのか?」

「いや私には全然」

「何だよそれ」


王都周辺の警備は御前達の役目だろとクラデルは突っ込みたくなったが、最初に

届いたのが近衛騎士団を通じて自分の耳へ、それから陛下の耳にも入ったので

遅れたのは仕方ないのかなとクラデルは強引に自分を納得させる。

「とにかくだ。陛下や宰相と共にこれから先の事を話すべきだと俺は思う」

「わかった」

エルガーは頷き、剣を鞘に戻してクラデルと共に国王陛下の元へと向かった。


大柄な身体を活かしたパワー重視の戦い方をするクラデル・ヴォンクバート。

エルガーとは同じ騎士団長コンビとしてヴィルトディン王国の「双璧の将軍」と言われている内の1人だ。

良く口が動く男であり、そのせいでエルガーが無口だと思われてしまっている原因がここにある。

それだけ良く喋る現在35歳の男ではあるが、エルガーと肩を並べるだけの将軍の地位に居るだけの事はあって

朗らかで明るい性格も相まって部下からは慕われている存在だ。貴族出身ではあるが特にそう言う自分の出身を

意識する事は無いまっすぐな性格でもあり、その性格もまた部下に好かれる要素の1つだ。エルガーと同じく

色々武器を使いこなせるが、やはりパワーを使う武器が得意な様で大きなハルバードで豪快に敵をなぎ払う

姿が戦場では良く目撃されている。



「ああ、余の元にもしっかりとその事は伝わっている」

エルガーとクラデルの前で、ヴィルトディン王国の国王リルザ・アイヴィジュが

落ち着いた様子で答える。今年で30歳になるこの国王は、若いながらもしっかりと国を治めている事で

周辺諸国には有名だ。

「その観光とやらの内容を確認する為の手紙をエスヴェテレスに送っておこう。

その上で会談の場を設けようと思う」

「承知しました、陛下。その時は私とクラデルを護衛にお付け下さい」

「ああ、頼むぞ」

その渓谷には伝説の飛竜が住んでいたとされる遺跡が存在しており、そこから発掘された

飛竜の尻尾らしき化石は現在でも国宝として、王国の宝物庫に保管されている。


自分の執務室へと戻ったエルガーは、すぐに副官のジェディス・ケレイファンを呼び寄せ

今までの事態を説明しつつ、近衛師団団長の執務室に居るクラデルの元へと向かった。

そこにはクラデルともう1人、彼の副官であるロイティン・ユイグレスの姿がある。

「来たか、そこに座ってくれ」

クラデルに言われてエルガーはクラデルの隣に、ジェディスはロイティンの隣の椅子に座った。

「さて、隣国のエスヴェテレスがこの所不審な動きをしているとの話だが、御前達の耳にも入ったな?」

「はっ」

「はい」

エルガーの言葉に、ジェディスとロイティンは短い返事を返す。


「王都の警備体勢の強化をしなければならないし、王都周辺もそうだ。それから国境付近の

警備も強化しなければならない。エスヴェテレスからの侵入者には厳しい検査を設けるつもりだ。後は……」

「こちらも戦争の用意だな。私達も準備しておく事に越した事は無い」

「攻めて来るのであれば、こちらは地の利を活かした戦術で迎え撃つ計画が良さそうだ」

不審な動きを見せていたエスヴェテレスがこのヴィルトディンに戦争を仕掛けて来るのであれば、こちらも

しっかりと迎え撃たなければいけない。ヴィルトディンは元々畜産や農業が盛んな国だが、エスヴェテレスの

影響もあって軍事には力を入れ始めているのである。

ただし、その軍事力の面に関しては国王が穏健派な為にどうしても一歩エスヴェテレスに

劣ってしまう事は否めず、こちら側に攻めて来るのであればこっちは

地元の利を活かした作戦が必要になるのでは無いかと4人は考えていた。


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