Compete in a Different World第1話


このヴィルトディン王国は、この世界の中においては北の方に位置する王国であり、

東の海を挟んだ隣国のエスヴェテレス帝国とは何かと多くの交流がある。

自然が多く、広い領土を持つヴィルトディンに比べてエスヴェテレスは軍国主義で領土も狭い。

南西の森を挟んだ向こう側にはラーフィティアと言う王国があるが、

この国は9ヶ月前に何者かによって1度滅ぼされ、その後半年をかけて再建され今に至る。

何でも更にその王国の南にあるイディリーク帝国からやって来た男達が、内部紛争を経て

国を再建する様に皇帝から命令されたらしい。

つい最近立て直しが完了したばかりの国であるが、このヴィルトディンとも交流を持ち始めている。


だがそんな2つの国に挟まれる形のヴィルトディンにも、暗雲が立ち込めようとしていた。

このヴィルトディン王国は、海を挟んでエスヴェテレス帝国と隣接する国だ。隣国は仲が悪いと良く

言われるものの、この2国の間にはそう言った関係は無く、戦争も小競り合いも特に今までは無かった。

そんなヴィルトディンでは、この所エスヴェテレス帝国が怪しげな動きをしているとの情報が

国王を始めとして一般人の耳にも入って来る様になった。

もちろんそれは騎士団も例外ではなく、王宮騎士団団長であり将軍でもある

エルガー・ザリスバートの耳にも届いている。


妙にいやらしい武器の使い方をする戦い方で有名なエルガー・ザリスバート。ヴィルトディン王国騎士団長として

知られている彼だが、そのいやらしい戦い方としては相手の足元や手元を重点的に狙い、相手がもたついた所から

一気に勝負を仕掛けると言う物が多い。また相手の隙を狙う事も得意なのだが、彼は元々旅人として活動しており

その時に我流で身につけたテクニックだ。その我流交じりの武器術に騎士団の武器術がプラスされる様になったのは、

旅人になった15歳から1年後の16歳の時であった。15歳になった彼は世界を見て回りたいと思い家出をし、

そこから世界各地を1年かけて武術と知識を身につけながら旅をして来て生まれ育ったヴィルトディン王国に戻って来た。

世界各地を見回って彼が感じた事は、この大陸には人間だけでは無く魔物も多く存在している事で人間に被害が

もたらされている事だった。だったらその被害をまずは自分が生まれ育った国からだけでも抑えたいと思ったのが

騎士団に入団した理由だったらしい。そんな思いを抱え込みながら10年後の26歳に騎士団長に昇進し、

32歳になった今でもその地位に揺らぎは無い。


(全く、エスヴェテレスの連中は一体何を考えているんだろう?)

城の中庭で執務を終え、身体を動かす為に剣の素振りをしていたエルガーはふと手を止めて考える。

エスヴェテレスは元々はヴィルトディンからの移民によって開発されて来た国であるが、

現在は独自の生活を築く迄に成長した国であり、好戦的な現在の皇帝が

戦争を仕掛けて来ないとも限らない。

(……とは言っても、今までそんな動きすら見せなかっただけにそれは考えにくい事だな)


「おーい、エルガー!!」

考えに耽っていたエルガーだったが、それも元気の良い声によって中断された。

声のする方を見てみると、そこには自分と同じ黒髪の男が駆け寄って来るのが見える。

「クラデル……」

「御前の副官に聞いたら、中庭の方に行ったって言うから来てみた」

この男はエルガーと同じ将軍職に位置する人物であるが、所属している騎士団が違う。

名前はクラデル・ヴォンクバート。

王都周辺の治安維持に務める王宮騎士団将軍のエルガーとは違い、王城と王都の治安維持に

務める近衛騎士団の団長を務める将軍職の人物だ。

この男のせいでエルガーは余り喋らない訳でも無いのに、勝手に周りから無口認定をされている。


「何の用だ?」

「ああ、御前に案を頼もうと思ってた王都の警備の強化体勢に関する事についてなんだがな。

それとは別に王都周辺の警備も強化しなければならないかもな」

そのクラデルの発言に、エルガーは思い当たる節がある。

「……エスヴェテレスの事か?」

「そうそう。御前の耳にも入ってるんだな。最近は奴等がきな臭い動きをしているらしい。

旅行者を装って密偵を飛ばした結果がこの情報だ。騎士団の訓練にも相当力を

入れているらしいし、軍備の強化も進めているとの事だ。それに……」


そこまで言って、クラデルは一旦言葉を切る。

「……それに何だ?」

「それに、奴等の王様が直々にこっちの渓谷の方へと来たらしい。御前も知っているだろう、ドラゴンの伝説」

「ああ」

この地域には伝説があり、何でも人の言葉を理解するドラゴンが居るとの

伝説が、王国で管理されている文献に書き綴られているのだ。

「普通、何も無しに王様がそうやって来る筈が無い。こっちに来る時には連絡の1本も

親書で入れる筈だからな。だけどそれも無しにこっちまで来たって事は……」

「怪しい動きをしている、と言う事か」

そう言う事だ、とクラデルは大きく頷いて答えた。


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