読み切りコラボ車小説第3作目
リア友Mとのコラボです。
(人物の年齢は2007年8月のもの)
登場人物
竹中 正一郎(たけなか しょういちろう)…伝説のシュナイダー
2010年9月25日、土曜日。茨城県筑波サーキット。
伝説のシュナイダー、竹中正一郎は横浜を離れ、ここに遠征へとやってきていた。
車もピンクのランエボ8からピンクのラリーアートのコルトに乗り換え、イメチェン度も満点だ。
(横浜とは全然違うが、たまにはこういうサーキットで走るのも、良いもんだな)
そして、ここでは今まで見かける事の無かった男が1人。「アブソリュートビッチ」と呼ばれるワンダラー、松本明政。
普段はフィールド2のTIサーキットで走っているのだが、こう言うこじんまりとしたサーキットは苦手なので、
克服の為に筑波までやってきたのだ。
(さすがに大阪環状やTIみたいにスピードが乗らないな。ましてやFFにはきついコースだな)
車を暗めな青のDC2のインテRから暗めの青のCR−Xデルソルに変更し、ライバルを求めてコースに飛び出していく。
松本が2周目に入った時、横を竹中のコルトが追い抜いていく。
そのエンジン音を聞いていた松本。
(お前のエンジン、ずいぶんいい音させてるな。今日はきっといい線行くと思うぞ)
松本はエンジン音を聞いただけで、そのエンジンの調子が分かるという魔法の耳の持ち主。
ポリシーとして、慣らしが終了する「走行距離500km以上」の車両しか相手にしない。
慣らしを終わらせていると見た松本は、竹中にパッシングをしてSPバトルに持ち込む。
(パッシング…?)
街道ではそんな事をされなかった竹中だが、とりあえずここのルールはインターネットで調べてきたので
バトルの合図だな、と確認する。断る理由も無いし、相手はCR−Xデルソル。
見慣れない派手なエアロが着いているが、性能的にはこちらとどれくらい違うのだろうか。
最近意気消沈していた事もあり、気晴らしにバトルを受ける事に。
2台の車内に取り付けられたSPゲージが反応し、ゲージ一杯までたまった瞬間、アクセル全開。
ホームストレートを加速し、ヘアピン状の第1コーナーへ。
ここで松本のデルソルがインを差し、竹中は後追いから行く事に。
かつては横浜のトップ争いをしていただけあり、腕は確かな竹中。生半可な走り屋には負けない。
(まずは少し走らせて、どう出るかを見るか)
後追いでじっくり松本の走りを見よう、という作戦に出る竹中だ。
松本は北海道から岡山県へ移住し、TIサーキットで腕を磨いてきた。
自分のショップの看板を背負っているだけあり、簡単に負ける訳には行かない。
(加速力は互角…か? やはりエンジンは快調の様だな)
S字から1ヘアピンへのブレーキング。ここで竹中が松本にテールトゥノーズ。
そのままダンロップコーナーへ。松本は元々、結構パワーが出ているインテRを走らせていた為、
アンダーパワーな車の扱いにはあまり慣れていない。しかし、そこは今まで培ってきた経験とテクニックでカバーする。
これでも、今年でドライバー暦は12年になるのだ。
19歳の時に免許を取り、今までずっと走って来た経験で勝負をかけに行く。
(思ったよりやるな。けど、負ける相手じゃない!)
車は互角。後は腕。左高速コーナーから2ヘアピンを回り、バックストレートへ。
ここでスリップストリームに入り、ブレーキング競争に出る竹中。
SPゲージは無限に在る訳では無いので、早めに抜いて置きたい。
しかし…。
(くっ、抜けない!)
ギリギリで届かない竹中のブレーキング。松本の突っ込みも凄いのだ。
(俺はこれ以上行けないギリギリで走っているのに、全然離れない! どうなってんだ…!?)
松本も竹中の突っ込みに驚きを隠せ無い。
両者の腕は互角。後は集中力と運だろう。
2台ともテールトゥノーズで、バトルは2周目に突入。
(これ以上前に居られたらSPがまずいな。勝負はこの先で!)
竹中は焦る気持ちを押さえ、1コーナーを1周目とは違うラインで回る。
相手の車と加速力が互角でも、対抗できる技がある。
(立ち上がり重視のコーナリングで勝負だ!)
クリッピングポイントを奥目に取り、コーナーの先に車が居ない事を確認。
アクセルを全開にして、デルソルの右から横に並んでいく。
(う、嘘だろ!? ここで並んで来るなんて…!?)
松本はまさかの事態に驚きを隠せないが、このまま行けば自分がヘアピンでイン側になる。
呼吸を整えて、冷静に状況を分析。
(大丈夫…まだ、大丈夫だ)
ヘアピンではイン側の松本が竹中を抑えるが、竹中はそれでも、ダンロップコーナーでもアウトから仕掛けていく。
(また外から…?)
左高速コーナーでもアウトから仕掛け、第2ヘアピンへと突っ込む2台。
ここでも竹中はアウトにコルトを振る。
(なら、ブロックしてやる!)
しかし、そのアクションが竹中の待ち望んでいた事だった。
早めにブレーキングし、インを開けた松本のデルソルの横に、半ば強引にコルトを突っ込ませる竹中。
前に乗っていた族車エアロのランエボでは、絶対にぶつかってしまう。
車が小さいコルトでも、イン側の縁石を越えて草地に右の2本のタイヤがはみ出て、煙を上げながらコーナリング。
(し…しまったああ!!)
松本は竹中のフェイント作戦にはまってしまった。どっかのハチロクトレノが、R32GT−Rを追い抜いた時の様に…。
立ち上がり重視のコーナリングをした竹中、突っ込み重視のコーナリングの松本。
その後のバックストレートで竹中が前に出るのは、明らかな事であった。
(まあいい、何が悪いかはすでに分かった。俺もまだ、未熟だって事だな…)
自分のテクニックにはまだ悪い部分があると悟った松本、ここで大人しくスローダウンし、マイペースに走る事を決めた。
(ふう…何とか、勝ったか…)
久々に熱いバトルをした竹中の顔からは、意気消沈気味な表情が消えていた。
(まだ俺は、走り続けられるって事だな…)
人間は、どこで自信をなくすか、自信をつけるか、わからないものである。
完