第6部第11話
「アッハッハ!! こんなマシンが相手なんて私も軽く見られたものだな。コレならC1を流す程度で十分よ。来な」
いったいどこでどう変わってしまったのだろうか。緒美から聞いた話では、この女はこんな性格ではなかったはずだが…。
事の発端は、高山が滋賀草津でサーティンとキングダムのメンバーを見かけたと報告してきた事から始まった。
1台は晴れ、もう1台は晴れ以外の日に走っているらしいのだ。
そしてその晴れ以外の日に行って見れば、停まっていたのはサーティンデビルズのメンバーの、ミントグリーンにオールペンされた三菱GTO。
こんな重いマシンがここにいる事自体が驚きだ。
そしてそのドライバーはかつて第2部で、バトルのし過ぎで緒美が倒れた時に、その緒美を家まで運んだだけではなく、
おかゆまで彼女に作ってくれたという女だった。
「こんばんは。あなたが野上竜介さんね…。私は神橋 洋子(かみはし ようこ)。緒美ちゃんの先輩だそうね?」
「ええ、まぁ…」
その洋子は竜介のインプレッサを見て、笑い出し…最初のシーンに戻る。
緒美から聞いた話では、もう少し性格が穏やかで優しいという洋子。どこで性格が変わってしまったのだろう、と竜介は困惑する。
だがバトルとなれば話は別だ。重いGTOをこのタイトな峠道で、どうやって操るのか見物である。
「3,2,1、GO!」
バトルはいつものごとくLF下りフルコース。竜介は最初の加速でGTOに少し引き離される。
GTOの加速力は80スープラと並び、国産トップクラス。
洋子はコーナーでは一見大雑把に見えて、丁寧なドライビングで重い車重をものともしないコーナーワークを見せる。
しかしそんなコーナーワークでも、コーナーは軽いインプレッサが速い。
立ち上がりでは互角だが、その後の加速で引き離される展開だ。勝負するとすれば、ブレーキングからコーナリングにかけてだ。
この雨の路面ではタイヤの磨耗を心配する必要はない。なのでがんがん攻めていく。
(そっちの弱点は、ブレーキングだ!)
GTOは車重が、ノーマルで1680キロもある。故に軽量化をしても1400キロが限界だろう。
対して竜介のインプレッサは1100キロまで落とされている。大きくて重い分、洋子はブレーキも早めにしなければいけない。
長い直線から右の緩いコーナーを曲がり、きつい左ヘアピンがすぐ後に来る区間がある。
そこでイン側に寄って、左ヘアピンに備えて右コーナーのブレーキングを始めた洋子だったが、
竜介はアレイレルの時と同じくアウトからブレーキを遅らせて進入。
(そ、そのラインで来るって言うの!?)
横に並びかけられ、ラインが苦しくなった洋子のアウト側からコーナリングしきった竜介。次は左ヘアピンなのでインとアウトが入れ替わり、
ここで洋子を抜き去って決着をつけたのであった。
「個人的な事だけど、首都高チームの街道制圧なんて
あまり興味が無いの。THIRTEEN DEVILSに入って
いれば刺激的なバトルがずっとできる…
ただそれだけなの。」
その翌日は晴れ。PAにはキングダムトゥエルブのメンバーが待っていた。
しかしキングダムのメンバーは、洋子以上の驚きのマシンで来ていた。
何と日産の新型ステージアだ。
「ほう…その青いインプレッサは、野上竜介だな?」
「ああ」
「俺は神惠 清次(かみえ せいじ)ってもんだけど。オマエなんかがわざわざしゃしゃり出てこなくとも、
キングダムトゥエルブが、サーティンデビルズを止めてみせるさ」
「…そのマシンでか?」
その清次の言葉に、思わず後ろの黒いステージアを指差す高山。
「指を指すなよ。失礼だろうが。…まぁいい。俺はこのステージアで、高性能のスポーツカーをカモる事に一種の快感を感じるんだ。
そう。それがオマエのインプレッサでもな?」
コースは下りのフルコース。てっきりこんなマシンだから上りで来るものだと思っていたが、違ったようだ。
「3,2,1、GO!」
LFバトルで竜介が後追いだ。でかいマシンが相手では抜きづらい。洋子のときと同じ作戦が使えればいいが、今回は晴れ。
無理はせずに、後半までおとなしくついていくことにした。
清次のドライビングはとにかくパワー走法。
大柄なステージアをガツンとブレーキングさせ、パワースライドに持ち込み豪快に駆け抜ける。
ステージアは、前のモデルでは4WDのモデルに特別仕様車があった。
しかしこのM35型は特にそういうものは無く、いちばんパワーが出ているモデルを選んだ。駆動方式はFR。
パワーは450馬力は出ていそうだが、竜介のインプレッサも負けてはいない。
後半に行くにつれ、重い車重が段々走りに影響してくるステージア。ブレーキが利かなくなってきた。
(くそ…止まらねぇ。このままじゃ負けるぜ!)
だがその願いは虚しく、長い直線からの左ヘアピンへのフルブレーキング。
ここでアウトに寄った清次のステージアのインにスパッと飛び込んだ竜介は、コーナリングであっさりとパス。
立ち上がりでも4WDの加速力を活かし、ゴールまで引き離し続けて勝利したのである。
「>例の走り屋くん
君もこの王国の一員にならないか??
その資質が十分にあると思うんだがね・・」
翌日。2人は群馬のお隣、栃木県の日光市にある第2いろは坂へとやってきた。
前は第1いろは坂と第2いろは坂の、両方が走れていたらしい。
しかし今では、第1いろは坂はコースの荒れがひどすぎて、危険だと判断されて閉鎖され、走ることが出来なくなってしまった。
なので第1で腕を磨いていた走り屋達は、全員こっちに流れてきたのだとか。
そうして日光にたどり着いた2人だったが、高山がここで竜介にバトルを申し込んだ。
RX−7は竜介がバトルバトルの日々だった時、ちょっとずつ改造されてきていたのだ。
今の馬力は400馬力をたたき出す。
「手加減はしないぞ、高山」
「ああ、いいぜ。俺だって負けられないんだ」
先行後追いで竜介が先行。お互いにこのコースを走るのは初めてなので、条件はイーブンだ。
最初はスタートダッシュでインプレッサがRX−7を引き離すが、高山はコーナーで追い詰める。
高山はRX−7を乗りこなし始めていた。
ヘアピンの連続が続くいろは坂は、志賀草津よりも運転が忙しい。碓氷ほどではないが……。
コーナーというコーナーでインプレッサのテールをつつく高山に、竜介は本気で逃げる。
(くっ…すごい、な…!)
正直、最初に出会った頃には想像もつかなかった。ここまで上手くなるとは…!
そのバトルの中で、竜介は高山に対してあることを考えていた。
(俺はこいつにいつか抜かれるな。その時は…あの計画の事を話そう。それまでに金を貯めなければな)
勝負は竜介が逃げ切って終わったが、終始高山に煽られっぱなしだった。
高山とのコースの下見をかねてのバトルを終え、カテゴリーレースに参加する2人。
ヘアピンが多いのでドリフトポイントが稼ぎやすく、賞金も稼ぎやすい。
夜は夜で、ヘアピン立ち上がりで相手を突き放す竜介、突っ込みで差をつける高山という感じでバトルを繰り返す。
そんな日々が数日続き、負けた事もあったがライバルはあらかた倒した。
賞金も稼いだしプライズもゲットした。
すると、BBSにスラッシャーからの挑戦状が書き込まれていたのを高山が発見。
「例の走り屋くんは、相当キレモノで瞬時の判断力もかなり凄いときている。
この日光最速の私と、その能力はどちらが上か試したくはないかい??
日光PAに是非来てくれ。」
PAに行くと、そこにはドイツの高級車、アウディが待ち構えていた。しかもポルシェによってチューニングされた、RS6のセダンだ。
そんな車を乗り回しているということは、相当の金持ちだろう。
「こんばんは。あなたですね? 私の挑戦を受けてくださったのは?」
「…あんたは?」
「これは失礼。私は小笠原 雄也(おがさわら ゆうや)と申します。いろは坂のスラッシャーです。よろしく」
「こ、このアウディって…あんたが?」
高山がやや困惑気味に、雄也に問いかける。
「ええ。外車自体が街道サーキットでは珍しいですが…私はこの外車が愛車なんです。何か問題でも?」
「い、いいえ…」
「そうですか。それでは始めましょう。先行後追いでコースは下り。私が先行します。
一見、ドリフトには不向きと思われる車体から繰り出されるドリフトを見たら、君も鳥肌が立つぜ!!」
アウディの排気音がボクサーエンジンの音を掻き消す。かなりうるさい。
「3,2,1、GO!」
いつもより2倍大声を上げてカウントを入れた高山。その高山の横を2台が通り過ぎ、バトルスタート。
季節はもう秋になろうとしており、落ち葉が散っている。
アウディは大きなボディに4WDという、洋子のGTOと同じようなマシンだが、排気量がGTOよりでかいので加速がいい。
4リッターを越える排気量のエンジン。燃費が悪く反エコロジー極まりない。
(アウディとはまた珍しいマシンを持ってきたが…腕もそこそこ…チャンプを名乗るだけのことはあるか……)
竜介は後ろからじっくり観察し、雄也のアウディをどこで追い抜くか考える。
雄也の走り方は立ち上がり重視の走りだが、ブレーキングに若干苦手意識があるのかふらついている。
重いマシンでふらつくというのも珍しいことだ。
立ち上がりでも喰らいつけるこのインプレッサで、竜介はヘアピン区間に入るまでに我慢の走り。
そしてヘアピンでグラッと来たアウディを、インからあっけなくパス。
しかし竜介が振り切るまで勝負は終わらない。雄也も必死にインプレッサとの距離を離されないように踏ん張る。
が…その奮闘むなしく、終盤の超高速ストレート区間で一気に100mの差をつけられ、敗北してしまった雄也であった。
ステージ3のラストバトルを見物する2人・・・・
「どう思う? 今のバトル?」
「うーむ。非常に荒削りなラインを取る走り屋だけど、けっして遅い訳でも無い。
明らかにレース出身者では無いな…」
「オレもそう思う。ヤツは根っからの自己流でここまで来て、そしてオレ等にバトルを挑むつもりだ」
「まぁこちらとしては、逃げ隠れする理由なんて1つも無い。ただヤツの申し入れを受け入れるだけだ」
「上等。どちらが上かハッキリさせてやるよ。レース出身のオレのテクニックに破綻は無いんだ…」
「しかし気になるな・・・・あの走りはどこで身につけたんだ?」
後の会話はスキール音にかき消され、殆ど聞き取れない。
ただ判る事は、この2人もバトルをしている走り屋と同じくタダ者では無いという事だ。
…ファイナルステージの幕が、今、明けようとしている。
「あの第一いろはの佐藤などより、よっぽど知的である!!
こんな走り屋を見たのは1年ぶりだ。
そう、去年の冬以来・・」
それから2日後。日光の残りのライバルを倒し、ここでもまた、サーティンとキングダムのメンバーに遭遇した2人。
雄也敗北の噂を聞きつけ、2人が同時にメールで挑戦状を送ってきたのである。
「Ryuくん。
今までのTHIRTEENDEVILSじゃ
到底抑えられないなんて事は
とうに解っていたよ。
流れをとめるのはどう考えたって俺なんだ。
日光PAに来てくれ。
そのテクニックの差をまざまざと感じるだろう」
「悪く思わんでくれ。
君を堕とすのも、リーダーからの命令なんだ。
街道にとって君が良い影響を与えているとか、
そうゆう事はあまり関係無いんだ。
日光PAで待っているぜ。」
サーティン、キングダムの順番で返信して日光PAに向かうと、そこに待っていたのは緑色のランエボ8MRと、
FC3S後期型・マツダRX−7だった。しかも仲良く隣同士で駐車している。
「…あいつらみたいだぜ?」
「そうみたいだな。行くぞ、高山」
しかしその内、エボ8の方はまたしても変な奴だった。
「またか……」
「ああ…」
榛名の矢部と同じく、こいつも露出狂だった。しかも更にひどい。
パンツ一丁ならまだしも、緑のタオル一丁という、いろんな意味で危険極まりない格好。
「あの、すいません…」
「はい?」
「寒くないんですか?」
いや、突っ込むところはそこじゃないだろう、と高山に対して心に思う竜介。
「いーや? 俺は全然寒くないぜ? 見ろよこの筋肉。すげーだろ?」
何だこいつは…と思いつつ、メールで挑戦状を送ってきただろうと問いただす。
するとRX−7の男もそれを聞いていたのか、近寄ってきた。
「ああ、あんた等がそうなのか?」
「あんたは…まともそうだな?」
「当たり前だ。あんたは緒美ちゃんの先輩だろ? 知ってるぜ。それに俺はこんな露出狂より、100倍はマシだって。
俺は沢田 弘樹(さわだ ひろき)。サーティンデビルズのメンバーだ」
「言ってくれるじゃねえかよ。軽部 龍一(かるべ りゅういち)だ。キングダムトゥエルブのメンバーだぜ。さぁ、俺か沢田か、どっちと先にバトルするんだ?」
取り合えず、まともな弘樹からバトルすることにした。
「俺とか? わかった。じゃあ下りのLFで、俺が先行だ。チューン・セッティングも最近は完成の域に達してね…最高のコンディションで君を堕とすぜ。
FCだからってなめるなよ。そっちのFDと劣らないくらいの走りを見せてやる!」
「いいだろう。是非テクニックの差を見せてくれ」
RX−7とインプレッサが縦一線に並んだ。
「3,2,1、GO!」
スタートダッシュで前に出ようとする竜介だが、上手くブロックして簡単には抜かせない弘樹。コーナー区間に入る2台だが
弘樹のRX−7はコーナーが速い。さすがにバトル前、あれだけのことを言うだけはある。
(さぁ、どこまでついて来れるんだ!?)
(む…コーナーが速いな)
コーナーでは敵わない。となれば、勝負できるのは直線しかない。コーナリングでの勝負を捨て、立ち上がり重視の走り方をする。
早めにアクセルを踏めるようなラインを取って、RX−7を追いかける。
コーナーではRX−7、直線でインプレッサだ。
(アクセルを踏む時間を、少しでも長く取る!)
ヘアピンの連続区間を抜け、終盤の長い直線に入る。ここで竜介がRX−7に並んでいこうとするが、弘樹はブロックしてきた。
(悪いが俺も、これ以上サーティンデビルズに泥を塗るわけには行かないんでな!)
右に寄れば右に、左に寄れば左に。
進路妨害同然のブロックを受けて、竜介の中で何かがはじけた。
(そこまでするのか…! そっちがそのつもりなら、俺だって!)
一旦距離を置き、左に寄ると見せ掛けて右に寄る。そしてアクセル全開のまま、強引に突っ込む!
それにより、RX−7とインプレッサがぶつかり合う。
「おわっ!?」
まさかそこまでしてくるとは思っていなかった弘樹は、予想外の出来事にふらついてしまう。
それにより加速が鈍った所で、完全に竜介が前に出た。
その後の左ヘアピンのブレーキングでは、竜介がきっちり弘樹を抑えてクリアし、弘樹の敗北が決定した。
「次は俺だな。悪く思わんでくれよ、これもキングダムトゥエルブのリーダーからのお達しなんだ。君を堕とせってね」
「…そうか」
「ちぇっ、冷めてやがるぜ…」
竜介の返答にムッとしながらも、2戦目、龍一とのバトルがスタートした。
弘樹と同様に下りフルコースのLFバトルだ。発売したばかりで、まだまだパーツが少ないエボ8MR。
しかしそこは自分自身のテクニックで何とかカバーしているのが、軽部龍一だ。
龍一は弘樹とは逆に、直線で差をつけていくタイプ。コーナーはそこそこだが、鬼のような加速力で直線で引き離す。
しかしここはコーナーの多いいろは坂。
ヘアピンというヘアピンで、タイヤを使い切るつもりでコーナリングし、龍一のエボ8を煽りまくる。
(くっ…そこまで曲がるか!?)
こんな速いコーナリングする奴は今まで見たことが無いと、バックミラーのインプレッサを見て驚く龍一。
そしてエボ8よりインプレッサは断然軽い。
コーナーで詰まってきた竜介は、次のヘアピンに向けてアウトに寄ったエボ8のイン側に、ブレーキを遅らせて飛び込む!
(ここだ!)
イン側の壁にぶつけるぐらいまで切り込み、立ち上がりにかけて加速される前に前に出てブロック。
そのままヘアピンというヘアピンでどんどん引き離す。
(俺が…負けるのか…!?)
引き離される自分のエボ8。視界から遠ざかっていくインプレッサを見て、龍一は盛大なくしゃみをした。
「へ…ヘックション!」
タオル一丁で運転していた龍一のくしゃみは、いろは坂の闇夜に吸い込まれていった。
「THIRTEEN DEVILSはまだ沢山いるんだ。
街道の走り屋なんてものは、リーダーが本気を出せば
1ヶ月で制圧も可能だろう…
それをやらないのは…
単に遊んでいるだけだからさ。」
「昨日、あの走り屋とバトルをして思った事は、
彼は物凄い勢いで進化しているぜ。この書き込みを
見たTHIRTEEN DEVILSも少しビビるんじゃないのかな?」