第6部第10話
藤岡を倒した翌日。高山と竜介の元に1通のメールが。
「KINGDOM TWELVEの久保秀明という者です。
蛎や三上が君とバトルをして敗れたという話を聞いて、
俺としてはTHIRTEEN DEVILSなんかより、
君に興味津々なんだ。バトルしてくれるよな!!
妙義山PAで待つ!!」
メールに返信して妙義山へ向かうと、確かにキングダムトゥエルブのメンバーが待っていた。
車は年代物の、最も古いモデル…SA22C型のマツダ・RX−7。
その横に立っていたのは、ヒゲを生やした中年の男だった。その男は竜介達に気がつくと、歩み寄ってくる。
「あんたか…?」
「はい?」
「メールでバトルの申し込みをした俺に、快く返信してくれたのは」
「は、はあ…あの、あなたがキングダムの…?」
「ウハッ、来た来た!! 本当に来たぜ!! メールってのも便利なモンだな。早速バトルだ!!」
中年男は、テンションが一気に跳ね上がったようだ…。
「おっと、自己紹介が遅れたな。俺はメールでも書いた久保 秀明(くぼ しゅうめい)。そちらの連れの方は、FD3Sに乗っているようだが…?」
高山のFD3Sに興味が出てきたような、この中年男。
「はい、確かにこのFDは俺の車ですが…」
「そうか。最近は気合の入っていないロータリー乗りが多くてな。まぁ、今日は連れのあんたではなく、
そっちのインプレッサとバトルする訳だが…噂は聞かせてもらっているよ」
「ありがとうございます」
しかし、てっきりほめ言葉だと思っていた竜介は、久保の目つきが変わった事に内心で焦りを感じた。
「ほめてなどいない。俺らはサーティンデビルズを止めるために結成されたチームだ。SA22Cでもまだ存分に戦えることを証明する意味もある。
これ以上、俺等キングダムトゥエルブの看板に、泥を塗らせるわけには行かない!」
気合の入った言葉に、竜介は思わず身震いをした。
「大丈夫か? 竜介らしくないぞ?」
「心配ない。…それで…バトル形式は?」
「下りのLF。先行させてもらうよ。…俺に勝ったら、このトランスミッションキットをやるよ」
そう言って久保が取り出した物は、最高級品のトランスミッションキット。
「え…いいんですか?」
「その代わり、負けたらそれ相応の金を払ってもらう。どうだ?」
ギャンブリングバトルは金だけではなく、パーツをかけても行われる。賭けバトルはそういう物だ。
「3,2,1、GO!」
SA22Cは加速こそインプレッサに負けるが、コーナリングはカミソリのように切れる。
FD3Sよりもシャープかつピーキーで、生半可な腕では壁とお友達になったり、谷底へまっ逆さまなマシンだ。
ヤワなFCやFDのRX−7では、到底追いつけはしない、とキングダムの中でも言われている久保。
(古いマシンだからと言ってよくバカにされるが、そういう奴らを打ち負かすと気分がいいんだよ)
エンジンは極限まで改造され、足回りも何回もセッティングし直されており、
現代でも十分通用するレベルに仕上がっている。
(この人、かなり上手い。コーナーが上手い!)
この狭い妙義のコース。抜くとしたらもう少し先にある右コーナーだ。そこは違う道に続く分岐があり、道幅が広くなっている。
バックミラーに映るインプレッサが、少しだけ離れ始めた。
(スローダウン? あいつ、何を考えている?)
不信感を覚えながらも左コーナーを曲がる久保。
しかしその瞬間、物凄い勢いでインプレッサが接近してくる。目の前には道幅が広くなっている右コーナーが。
(行くぞ! 久保さん!)
竜介は久保のコーナー立ち上がりに詰まらないように、加速力を生かした戦法を取った。
加速力を直線で存分に生かすために、わざと距離を置き、次の道幅の広くなる右コーナーでSA22Cのインに
インプレッサをねじ込ませ、分岐が終わる前に土手に少々乗り上げつつも、ギリギリで久保を抜き去った。
(そこのラインを使ったのか…!?)
その後はコーナーでつめても、立ち上がりで突き放されるのでは勝てない。
久保秀明は敗北を認め、スローダウンしていった。
「この新設コースにも、首都高のヤツが出るのかと
思っていて、結構走り回ったけど、速いヤツは、
あの例の走り屋しかいないみたいだな。」
インプレッサ用のトランスミッションキットをゲットし、早速組み込んでセッティングする竜介。
前よりもシフトロスが無くなり、加速力が良くなった。
久保とのバトルを終わらせて時間が余ったので、高山と共に今度は碓氷峠へと向かう。
何故かと言えば、サーティンデビルズのメンバーから挑戦状がメールでやって来たからだ。
「この、THIRTEEN DEVILSのアレイレルとバトルをするなんて
事は相当名誉な事なんだぜ。俺から声を掛けて来た
事を光栄に思うんだな…碓氷峠PAで
バトルの準備をして待っているぜ…」
碓氷峠もショートコースだ。直線は無いと言っても過言ではなく、細かなコーナーが頂上から麓まで延々と続く。
サーキットになった今では距離が短いが、それでも狭い上に切り返しが多いので、普通に走ってもハンドル操作が忙しい。
タイトでテクニカルな峠道だ。某漫画で名物になった「C121」という高速コーナーは、残念ながら範囲には含まれていない。
そんな訳で、高山のRX−7はパワーを持て余し気味だ。
「パワーを持て余し気味でイライラするぜ…その点、竜介は良いよなぁ」
「腕次第だ。サイドブレーキを使ってコーナリングするのも、また良い物だ」
竜介は小刻みにサイドブレーキを使い、裏六甲の時と同じく2速から3速にギアは固定したまま、ジムカーナみたいに
くるくるとインプレッサを曲げていく。ショートコースなだけあり、コースを覚えるのにそう時間はかからない。
3日も走れば何とかコースレイアウトは、朧気(おぼろげ)ながらも頭に入ってきた。
とは言っても間に晴れ以外の日を挟んだため、飛び飛びだったのだが。
そんな訳で、2人は再び再び碓氷峠へ。
そこでまたメダリストに出会った高山と竜介。シルバーのC−WESTのエアロを着けた、S2000に乗ったドライバーだ。
「この辺で、いい走りをする走り屋がいるって聞いたんだが、それは君の事?? どう、一回被写体になってよ。
あ…俺は高田。高田 友之(たかだ ともゆき)。よろしく」
「写真を撮られるのは、あまり好きじゃないんだがな…」
勝負はSPバトル。この狭い碓氷で2台並んでスタートしようというのだ。
「3,2,1、GO!」
高山の手が振り下ろされ、何とかぶつけずに先行できた竜介。
しかし、高田もぴったりとついてくる。プレッシャーを盛大にかけ、いつでも抜いてやるぞとばかりにパッシングもかましてくる。
それを見た竜介はバックミラーをひっくり返した。
(危険だな…)
しかし、ブロックでも何でもしようが、この狭い碓氷峠では先に前に出ていれば半分はもらったもの。
後の半分は、つまらないミスや強引な追い抜きで抜かれたり負けたりしてしまう。
竜介は冷静沈着に、前だけを見て爆走する。
サイドブレーキを使ってうまくターンし、S2000を嫌でも前に出させはしない。そのまま逆転することなく、
先行で逃げ切ってプライズをゲットした。
頂上のPAに戻ってきた竜介に、高山が声をかける。
「やったな…これで何個目だよ、プライズ?」
「1、2…7個目か」
「それに確か、カテゴリーレースでもプライズゲットしてたよな?」
「ああ。大体20個くらいは集まったと思うぞ?」
すると、その会話を聞いていた男が2人に近寄ってきた。何と銀髪碧眼の外国人だ。
「…相当の腕を持っているらしいな」
「あん? 何だあんたは?」
「インプレッサの野上って、あんたか?」
「それなら俺の事だが…」
「そうか。俺のメールでの挑戦状、受け取ってくれたみたいだな。礼を言う」
その外人の後ろに停まっているのは、何とピンクの80スープラだ。と言う事はこのセリフから…。
「ああ、あんたがあのメールを俺に送ってきたんだな? …外人か?」
「イギリス人だ。メールは確かに俺が送った。俺はアレイレル・エスイトクス。…あの緒美ちゃんの先輩だそうだな。噂は和人や恵から聞いている。
街道に対する知識不足の俺にも、オマエの速さはヒシヒシと伝わってくるぜ。正にサーティンデビルズの獲物って訳だ」
勝負は竜介後追いで下りフルコース。高田の時とは逆の立場だ。
「3,2,1、GO!」
どこでどうやって抜くかが鍵になりそうだ。短いので早めに抜かないと逃げ切られてしまう。
このコースではハイパワーな80スープラでも、存分にパワーは発揮できないはず。
竜介と同じく、落ち着いたクールな性格のアレイレルは、走りもグリップ走行だ。
その性格は走りにも活かされ、どんなわずかな勝機も逃さない。先行の時も油断する事がない。
しかしインプレッサと違って重い80スープラは、少しずつだが各コーナーでロスが出てきている。
(外人だからと甘く見ていたが、思ったよりやるな。だが…抜けない訳じゃない!)
目いっぱいコース幅を使うアレイレルに対し、竜介はコーナーでのラインを変える。
アウトから目いっぱいアプローチするのは同じだが、イン寄りのラインで立ち上がる。
その後の加速は2駆のスープラより上だ。
(次のコーナーで抜く!)
左コーナーを立ち上がりアクセル全開の竜介! そのまま狭いこの碓氷でアレイレルの横に並ぶ。
(な…バカか!? この狭いコースで追い抜きなんてのは、無しだろ!)
冷静沈着なアレイレルが珍しく動揺する。
そんなアレイレルを横目で見つつ、アウトから軽い車重を活かして、竜介は右コーナーへのブレーキをアレイレルより遅らせる!
(信じらんねえ…)
ブレーキング勝負で、まさか抜かれると思っていなかったアレイレルはあっさりと抜かれ、また1人サーティンデビルズが敗北していった。
「こんなムナクソ悪いバトルは初めてだ…
しかもあんな格下っぽい奴に負けるなんて。
俺の自尊心がガタガタ崩れてしまったぜ。」