第6部第8話


裏六甲と来れば、次は表六甲だろう、ということで、今度は表六甲へと向かう高山と竜介。

表六甲は石田も友也も走ってきたコースだ。高山と竜介も、例に漏れず表六甲へとやってきた。

裏六甲よりは似たような景色が無い分、走りやすいと思ったのが第一印象だ。


高山はますます実力をつけ、段々攻め方も過激に、しかし抑えるところはきっちりと抑えてくるようになってきた。

(これは…やばいかもな)

近々、強敵として現れるだろうと不安になる竜介であった。


カテゴリーレース、夜のレース共に全戦全勝…とは行かなかった。ハイパワーマシンも増えてきたために

ちょっとのミスが命取りになり負けてしまったこともあった。

松沢、矢部、矢口、蛎、恵を倒してもらった金は、実はあまり手をつけていないのだ。そろそろ車を買い換えようかなぁ、と思う竜介。

それでも倒せるライバルは全て倒し、表六甲のスラッシャーから挑戦状が来た。



「街道でのあらゆるテクニックは、ラリーの世界で使えるし、その逆もまた然り。

ラリーの世界に生きた自分を試すことが出来るのが唯一、この街道なのです。

さあ、噂の走り屋よ。僕にバトルを挑んで来て下さい。」



自分と同じく、ラリーをやっていたのか…と竜介は親近感を感じる。

PAに行くと、そこには赤く塗装された三菱・ランサーエボリューション8…しかも出たばかりの、GSRのMRだ。

その横にはオレンジの髪をした男が1人。


「お…あなたですか? 俺の書き込みに返信をくれた人は?」

「そうだと思うが…スラッシャーの人か?」

「はい。俺は宮本(みやもと)って言います。下りのフルコースで俺が先行で。エボ8MRは前のエボ8から買いかえたばかりなんだ。

車の変更によるパワーアップではなく、テクニック向上によるパワーアップを俺とのバトルで体感してくれ」

「…そうか。まぁ、走ってみてからのお楽しみだな」


カウントは例のごとく高山が入れる。

「行くぜ!3,2,1,GO!」

最初はトラクションが良いエボ8がアクセラを引き離すが、それは直線での話。

すぐに連続タイトコーナーセクションに入る。

最初のストレートを抜ければ、コーナリングの勝負へ移り変わっていく。踏める所もほとんど無い。

(アクセラのあいつの走りも、なかなかのものだ。気を許したら負ける)

宮本はミラーでアクセラの突っ込みに驚いている。

竜介はアクセラの軽さと小柄なボディを活かし、少しでもスペースがあれば抜けるとばかりに鼻面をねじ込んでくる。

突っ込み勝負では軽いアクセラに軍配が上がるので、立ち上がり加速で差をつける宮本。

必要最低限のテールスライド、立ち上がり重視の走り。

サイドブレーキターンを上手く使い、トラクションの差で宮本はアクセラを引き離す。

(ブレーキングとコーナリングでは差をつめられるが、立ち上がりはこっちの方が断然有利だ。突っ込みで追いつかれても、立ち上がりで引き離せる!)


(速い…! 今まで立ち上がり勝負で、ここまで引き離されることはなかった!)

唯一ランエボより利点である軽量ボディを頼りに、竜介はギリギリのブレーキングで進入。

中盤の2連続ヘアピンの、右コーナーで宮本のエボ8を追い抜いた。

(あ…くそっ! 抜かれた!)


その後に来る橋のストレートで、140までスピードを出す竜介。

そして思い切り手前からブレーキングも併用してサイドを引き、アクセラを横にしてきつめの右コーナーをクリア!

ちょっとリアがぶつかったが、その反動を利用して左コーナーもクリア。

それを見て宮本はショックを受け、エボ8をスローダウンさせた。

(この狭い六甲で、あそこから車を横にして突っ込むか!? 俺にはあんな真似できねぇぜ!)



「以前にも俺のテクニックを否定するかの様な走りをする走り屋がいた…。

昨日の走り屋の人よ…これを見ていたら教えてくれ。

俺のこの走りの何が一体ダメなのかを!!」



数日後。表六甲と裏六甲の残りの走り屋を撃墜した竜介は、高山から気になる話を聞いた。

サーティンデビルズと、キングダムトゥエルブのメンバーを、榛名と赤城で見かけたという情報がBBSに書き込まれていたのだ。

まだ倒していない走り屋がいたのか、と気になった竜介はまず、榛名のPAへ向かう。

そこにいた榛名最速と自負しているチームを撃破し、晴れた翌日の水曜日に再び榛名に向かった2人の前に現れたのは、

黄色いマツダのFD3S・RX−7だった。


「ん…何だあんた? 俺に何か用か?」

「俺とバトルしてもらいたいんだが。サーティンデビルズのメンバーだな?」

「へーえ、俺とバトルか? いいだろう。俺は高崎 和人(たかさき かずと)だ。あんたは?」

「野上だ」


すると、名前を聞いた途端、和人の顔が変わった。

「野上…? 恵が噂していた、野上竜介って人か。確か、山下緒美って…」

「そいつなら、俺の後輩だが」

「やっぱりな。恵から色々話は聞いてるよ。緒美ちゃんはこの前サーキットで見かけたな。確か緒美ちゃんに走りを教えていたらしいが?」

「ああ」

「そっか。なら、そのテクニックを見せてもらおうか? 下りの先行後追いバトルで、あんたが先行だ。

街道のレベル、どの程度なのか、この高崎が先陣切って見てみる事にしようか…」


珍しく竜介が先行することになった。タイヤは履き替えてきたので、多分大丈夫だとは思う。

だが、緒美から聞いていた事と1つだけ、和人には違うところがあったので聞いてみる。

「ちょっと小耳に挟んだんだがな…」

「ん?」

「あんた…S13に乗っていたって話だったような?」

「ああ。俺は確かにS13に乗っていたな。だが今、俺はサーキットでS15に乗っているもんでな。

テクニックの幅を広げる為に、このFDを購入したんだ。まだ買ったばかりだけど、燃費が悪くてな…財布が寂しいよ」

大丈夫なのか…と思いつつ、勝負をすることに。



「3,2,1、GO!」

高山の手が振り下ろされ、バトルスタート。最初から追い抜きにかかってくる和人だが、そう簡単には抜かせない。

竜介先行のまま第1コーナーへ突っ込む。アクセラの方が軽いので突っ込みは速い。

だが立ち上がりではRX−7が巻き返してくる。さすがにパワーがあるだけあって、侮れない。

(これは…ストレートに入る前になるべく引き離しておいたほうがいいな)


丁寧に1つずつ、慎重にグリップ走行でコーナーを駆け抜ける竜介。

そして、まずは最初のスケートリンクへの入り口があるストレートへ。そこでRX−7が巻き返してくる…かと思いきや、

なぜか差を詰めてこない。バックミラーで見ても不気味だ。

その後、連続S字コーナーを駆け抜けて行くが一向に差を詰めてこない。むしろ引き離されていく和人。

(俺が追いつけないだと? バカな…向こうは明らかに格下のアクセラだぞ…!)

ありえないと思いつつも、必死にアクセラを追う和人。だが追いつけない…。

何とか振り切られずに最後まで走りきってゴールはしたが、負けてしまったのは事実であった。

(やっぱFD3Sじゃ、ダメか…。俺に合ってるのはシルビアだな…)



しかし、翌週の雨の月曜日に出会った、キングダムトゥエルブの赤いBNR34・日産スカイラインGT−Rはめちゃくちゃ速かった。

赤い髪に碧眼の男が運転していたのだが…。

「あんただな? 蛎を倒したって野上って人は?」

「そういうあんたは?」

「俺? 俺は坂上 利樹(さかがみ としき)ってもんだよ。R34を乗ったら俺程の腕前を持つ人間はそういないと思う。

キングダムの尊厳を守る走りを見せるよ」


その通りだった。雨で塗れた路面に加え、相手は4WD。しかもパワー差がありすぎる上に、俊樹が先行。

下り勾配をもってしても、最初の直線であっさりと振り切られてしまった。

コーナーで詰める竜介だが、スケートリンク前のストレートでいとも簡単に、また差を広げられていく。

(目一杯コーナーで詰めても、全開区間であっさり取り戻される! …これが、パワーの差、か…)

そして連続ヘアピンまでたどり着く前に、200mの差をつけられて敗北してしまった竜介であった。

「まぁ、そう落ち込むことも無いさ。これは単純に車の差だ。もっと良い車に乗り換えたら、俺は晴れ以外の月曜か火曜なら、またバトルしてやるよ。

ここのサーティンデビルズはRX−7に乗ってるから、晴れてなければ勝てるだろ」



この敗北をきっかけに、竜介は車を買い換える事を決意した。

今まで貯めた資金+和人を倒してもらった金、更にアクセラを売って、総額240万。

その金を使い、ついにこの車を買う事にした。

スバルのインプレッサだ。

限定車である蛎の22Bとは違い、普通に売られていたWRXのSTiバージョン5。型式はGC8になる。

色は青で、最初から少しライトチューンが施されていた。

前はこれより1つ後のバージョン6に乗っていたのだが、バージョン5とはエアロパーツが少し違うだけで性能的には変わりない。


更に走りに行く前にBBSをチェックすると、和人から書き込みが。

その書き込みに竜介は思わず苦笑い。



「いいか!!このBBSを見ている榛名のバカ共!!

昨日のバトルでは俺は負けたが、これはまだ我が

THIRTEEN DEVILSの一片にしか過ぎん!!

それを憶えておくんだな!!」



インプレッサに乗り換えた竜介が、数ヶ月前の勘を取り戻すまでには、そう時間はかからなかった。

そして、蛎からもらったスポーツロムもつけて、セッティングも加速重視に施す。

そうして、翌週の火曜日。雨が降ったので再び俊樹の元へと向かう。

「待たせたな」

「へえ…買い換えたのか? インプレッサか…。相手にとって不足はない。ルールはこの前と同じだ」


再びバトルがスタートした。

相変わらずパワーで引き離す俊樹のR34だが、アクセラの時と違ってそんなに引き離されない。

そしてコーナーでは、R34より軽いインプレッサが速い。

新型のモデルのGDBでは重くなってしまったインプレッサだが、GC8では1260キロという軽い車重が武器になる。


昔乗っていたときと同じ、派手なアクションは一切せずにこの雨の路面でも路面に吸い付くように、前を走るR34を追い掛け回す竜介。

そして軽い車重を活かし、中盤のスケートリンク前の直線で加速で抜き去る!

(お、俺のR34の加速が…負けた!?)

その後の中速コーナーセクションでも、軽い車重だからできる高速コーナリングで、R34をぶっちぎって勝負をつけたのであった。



「昨日の走り屋は、確実に首都高のヤツ等とも違う

雰囲気を醸し出していた…ヤツは

KINGDOM TWELVEにとって敵なのか味方なのか??」



「そうか…竜介が車を買い換えたんだったら、俺も買い換えるかな?」

高山は竜介に合わせて車を買い換えるつもりらしい。もう少し金が貯まってからになるそうだが…。


それはともかく、翌日、次は赤城へと向かう2人。

天気は快晴。昼のカテゴリーレースで賞金を稼ぎ、夜はPAへ向かう。

そこに待っていたのは黄色のトヨタ・ヴェロッサと、紫のトヨタの80スープラであった。

その2人のドライバーの内、ヴェロッサのドライバーも、和人と同じく竜介の事を知っているようだ。


「あんたが野上竜介さん?」

「そうだが…」

「恵と和人から聞いたけど、あの緒美ちゃんの先輩だって言うのか。あ、俺は鈴木 流斗(すずき りゅうと)だ。

俺はサーティンデビルズのメンバーとして、あんたにバトルを挑むぜ」

「そうか。手加減はしない」

「ああ。首都高だろうが、街道だろうが操る車は一緒。破綻の無い運転技術は正に神業の領域。それを見せてやるよ」



しかし、明らかにシカトされているドライバーが1人。

「おいちょっと! サーティンデビルズが、今ここのPAに来ているんだ!! どこの誰か解らんが、討伐の邪魔をしないでくれよ」

「あ…ああ、すまん。ところであんたは…?」

「俺はキングダムトゥエルブのメンバー、三上(みかみ)だ。…あれ? そのインプレッサは…ああ、なるほど。

あんたが俊樹が話してた、野上竜介って人か。俊樹から話は聞いてるよ。かなり速いらしいな」

「……そうかもな」

とぼけた感じの返答を返し、まずはその三上とバトルすることにした竜介。

三上はFLなので、竜介が先行。流斗はLFで竜介が後追いだ。2人とも下りフルコースでの勝負。

80スープラとのバトルはあの露出狂を思い出すが、この三上はどうなのだろうか?




「3,2,1、GO!」

三上の討伐対象である流斗にカウントを入れてもらい、バトルがスタート。

インプレッサの加速性能を活かし、まずは最初の直線で三上のスープラを引き離す竜介。

(やっぱ4WDか…雨の日だったら確実に負けていたぜ)

だが三上も、このままあっけなく終わるはずが無かった。三上は重い車を、まるで軽自動車のように操るテクニックの持ち主。

前へ前へと押し出すような少々の強引さも持っている。

80スープラの加速力も手伝い、序盤の連続コーナーセクションでは喰らい付いている。


(軽いこのインプレッサについてくるのか!)

コーナーがいかに速いか、というのがバックミラー越しでも竜介はよく判るので、これはペースをあげるか迷うところ。

しかし竜介は冷静に、終盤でスピードレンジが上がるのでそこでペースをあげることに。

まだヴェロッサとのバトルが残っている以上、無駄にタイヤを減らすことは出来ない。

あの蛎と恵とのバトルで、それを学習した。


突っ込みで食いついてくるスープラだが、立ち上がりで4WDの加速力を活かして引き離す竜介。

あの重たい80スープラで、突っ込みで差を詰めてくるのがすごいことだ。

軽い車ほど停まる距離が短くなるというのに…! このブレーキング技術には竜介も驚く程だった。


だがコーナー出口では、やはりインプレッサ有利だ。

(くっそ…追いつけない…!)

突っ込みで食いついても立ち上がりで引き離され、後半ではスピードが上がっていくので徐々に引き離される三上。

結局そのままゴールして、竜介は流斗とのバトルに移る。



「12王国を倒したのか…だが、俺はどうかな? セダンだからってなめていると、痛い目見るぞ?」

「油断はしない。どんな相手にも、全力で勝負する」

「そうか。なら俺も全力で相手するぜ! 2ドアボディしか認めていない和人に、4ドアセダンの性能の良さを見せ付けてやらなきゃな!」

インプレッサのタイヤのグリップは、まだ半分ほど残っている。

この鈴木流斗は、80スープラより更に重く、コーナリングもしにくい4ドアのヴェロッサでどのような走りを見せるのだろうか?

そして何だか、裏切りのジャックナイフの和人とは、車のボディタイプで確執があるみたいだが…。


「3,2,1、GO!」

今度は高山がカウントを入れ、2台が飛び出していった。流斗は抜かれないようにブロックして、連続コーナーセクションへ。

(そう簡単には抜かせないって!)

コーナーでもインに飛び込まれるのを恐れ、イン・イン・インで回って行く流斗。コーナー立ち上がりでは

ヴェロッサの大きいボディでしっかりインプレッサをブロック。

それを見た竜介は、ヴェロッサのアウト側から何度も仕掛ける。しかし抜けない。

(無理無理、そんな強引なラインじゃあ)

中盤の竜介が露出狂を抜いた所でも、しっかりとブロックして前には出させない流斗。


段々イライラしてきたが、そのたびに深呼吸して気持ちを落ち着ける竜介。

(仕方ない…インから行けないと言うのなら!)

中盤の中速S字コーナー区間を抜け、終盤の高速セクションへ。

ここで同じようにイン側に寄ってブレーキングする流斗だが、竜介はかなりブレーキを遅らせてアウトから進入!

(ば、バカ! そんなラインから、そこまでの突っ込みは見たことないぜ!?)


だが唖然とする流斗を尻目に、軽いボディを活かしてギリギリのラインでコーナリングしきった竜介。

(危なかった…! 俺もヒヤヒヤしたぜ!)

竜介自身も、かなり危険な突っ込みだとわかってはいたが、ブロックされて抜けないまま終わるくらいなら、

これくらいのことをしてでも抜いたほうがいいだろう、と思ったからこそ、勝負に出たのであった。

結局流斗も最後まで着いて行ったが、もう1度前に出ることは無く、竜介の勝利でバトルは終わった。


翌日、BBSをチェックすると、そのトヨタ2人組から書き込みが。

まずは三上、そして流斗の順でチェック。



「何か俺たちKINGDOM TWELVEが出るまでも無く

アイツが首都高のヤツ等を倒してくれる様な

気がするぜ。本当はこんな事言っちゃいけないんだけ

ど、でもそんな気にさせるんだよね。」



「>例の走り屋へ

これ以上、俺達の走りを邪魔するのなら、

悪いが走り屋生命を終わらせてやってもいいんだよ。

その辺、良く考えてみたまえ。」


サーティンデビルズは街道では印象悪いな、と思いつつ、その日も走りこみに出かける竜介だった。


第6部第9話へ

HPGサイドへ戻る