第6部第7話


矢口とのバトルから数日後。裏六甲の残りの走り屋を撃墜した竜介は、高山から気になる話を聞いた。

晴れた月曜日の夜に、首都高で名を馳せた伝説のチーム「サーティンデビルズ」に呼応するように作られた、

峠のチーム「キングダムトゥエルブ」のメンバーを見かけたというのだ。


まだ倒していない走り屋がいたのか、と気になった竜介は、晴れた日曜日に裏六甲のPAへ向かう。

そこに待っていたのは、そのキングダムトゥエルブのメンバーと思われる、白いスバルの22Bインプレッサ。

そのドライバーは、2人を見かけると話しかけてきた。

「そこの2人、ちょっと良いか?」

「はい?」

「最近「ユウウツな天使」とかいう馬鹿げた走り屋が、この辺に出没するらしいけど、それってオマエの事?」

「いや…違うな。情報では女だと聞いたが…」

「そうか。悪かったな」

しかし竜介は、その名前を聞いて表情には出さないが、内心では驚いていた。

(ここに居るのか…)



そしてもう1台…サーティンデビルズのメンバーの、白いボディにピンクのストライプが入った、

日産S15シルビアが停まっているのを発見した。

「高山…情報では1台だったはずだが?」

「あれ…もしかしたら偶然、2台が走りにきていたのかもしれないなぁ。とにかく行ってみようぜ」

しかし、そのS15シルビアのドライバーを見た瞬間、竜介の顔が変わった。

そしてそのドライバーもこちらに気がつくと、やはり表情に変化が。

「やはりか…」

「え?」

そのS15シルビアのドライバーは、第2部で竜介が、名古屋に緒美と共に遠征した時、一緒に走った事のある女だった。

「あの…あなたもしかして…!」

「久しぶり…だな。ユウウツな天使」

高山は目をぱちくりさせて、2人を交互に見る。

「え…2人って、知り合いなの?」

「そういう大層な物でもないけどな。首都高で走って居た時に、会った事がある人だ」

「あなたとは初めましてですね…飯田 恵(いいだ めぐみ)です」



そう、「ユウウツな天使」こと飯田 恵である。

事情を聞けば、サーティンデビルズは街道サーキットにも勢力を広げるため、チームで乗り込んできたのだとか。

「た、高山です」

「高山さんですね。よろしくお願いします。そう…裏六甲のスラッシャーを倒したアクセラって、竜介さんだったんですね?」

矢口撃墜の話は恵も聞いていたようだ。

「そうだ。峠でどれほどのテクニックを発揮するのか、興味が出てきたな、恵さんに」

その竜介の言葉に、恵の目つきが変わった。

「解りました。では、下りでバトルと…」



しかし、恵が最後まで言葉を言い切る前に、割り込んできた男が1人。

「おい…ちょっと待て。あんたは知り合いだったのか」

声のする方を振り向けば、そこに立っていたのは、さっきのキングダムトゥエルブのインプレッサのドライバー。

「今の話、聞き捨てならないな。まだ首都高から走り屋が乗り込んでこようというのかよ?」

どうも、前に竜介が首都高を走っていた事が聞かれていた様だ。


しかし、それでも冷静に言葉を返す竜介。

「盗み聞きはよくないぞ。あんたは何者だ?」

「まずは礼儀ってか?いいだろう。俺は蛎 勝一(かき しょういち)。キングダムトゥエルブのメンバーだ」

やはりキングダムのメンバーだったようだ。

「丁度良い。今中途半端に名前を売っている野上さんも、ユウウツな天使のあんたも、まとめて潰してやる」

「な、中途半端だと!?」

高山が蛎に食って掛かるが、恵と竜介が引きとめた。

「いいだろう。ならまずあんたとバトルと行こう。その代わり、負けたら恵さんとのバトルは無しだ」

「よーし、その条件乗った。俺の22Bをなめるんじゃねーぞ」


「大丈夫か…あんな事言って? 相手は限定モデルのインプレッサ、22Bだぜ?」

「やってみなければわからないが、この狭いコース、塁って奴のNSXとやった時と同じ攻め方をすれば、多分大丈夫かもしれないな」

「頑張って下さいね…」

恵も何だか心配気味である。カウントはその恵だ。

バトルは蛎、恵の両方とも、塁と同じくLFバトルで下りのフルコース、竜介後追いだ。



「3,2,1、GO!」

最初は4WDのインプレッサが大きくリード。かなりパワーが出ているようだ。

(320馬力の俺のインプレッサに、ついてこれるのかよ?)

バックミラーの中で小さくなっていくアクセラに向けて、やや余裕の言葉を吐き出す蛎。

パワー全開の走りを身上とする蛎は、走りも豪快。

下りでも臆することなくアクセルを踏み込み、ドリフトをかましながら抜けていく。

(いくらコーナーでがんばったところで、所詮はアクセラだろうが!)


ブレーキとハンドルをうまく使い、ギアは2速固定でタイトコーナーを駆け抜けるインプレッサ。

(ハイスピードで突っ込んで、全開で曲がる。せいぜい良く見ておくんだな。ま、見えてるわけ無いがな…はるか後ろだ…)

しかし、バックミラーを見た蛎の表情が固まった。何と、アクセラがすぐ後ろまで来ている。

(離れるどころか張り付いてるだと!? 何故だ! そこまでの腕だって言うのか!)

ますます気合を入れて下りを攻める蛎だが、アクセラは離れない。

(俺のドリフトについてこれるのか…!?)

パワーで攻める蛎は、逆に言えば大雑把な走り方で、ロスも多い。


対してロスを最大限無くして、無駄の無いように走ってきた竜介は、現状でも食いついてきているのだ。

(だ、だが…このまま行けば、俺の勝ちだぜ!)

気持ちを落ち着かせ、アクセルを踏み込んでインプレッサを加速させる。


その蛎に対し、竜介は、このロスが多いインプレッサをどう抜くか考える。

パワー走法をされたのでは、あまりにも狭い道なので危険だ。

(立ち上がりでもロスが出てきているな。抜くならそこだ!)

突っ込みで一気に食いつき、立ち上がりでパワーをかけて加速する蛎のインプレッサに、これまた強引に並びかける竜介。

少々の強引さも必要だ。



パワーでは勝っているはずなのに、並びかけられた蛎はマジで驚いた。

(く! そんなバカな…!)

アクセルを踏み込みたいが、並びかけられたこの状況では無理に踏めばぶつかってしまう。

もうすぐこの連続タイトコーナー区間も終わる。

その前にどうしても抜いておきたかった竜介は次のコーナーで、突っ込み重視のブレーキングで

インプレッサをアウトから抜き去る。


(くっ…くそったれがあああああああ!!)

抜かれた蛎は、まだ勝負は終わらないと思い最後まで走りきる。

しかし最後まで抜き返すことは出来ず、竜介の勝利となった。



「くそ…なんで俺が負けたんだ…」

「あんたの走りにはロスが多い。速い事は速いが、そこを直せばもっとよくなると思うぞ」

「上から目線でアドバイスかよ? お前は、そこまでの立場なのかよ!?」

負けた悔しさもあいまって、竜介に蛎が食って掛かった。

「ああ…俺は元ラリードライバーだったんだ…プロのな」

「何…?」

「ちょっとした事情で、今はここに流れ着いてきたというわけだ。インプレッサ…大事に乗ってやれよ」

少ししんみりした顔つきで、蛎に諭すように話しかける竜介であった。



「さて、次は恵さんだな」

「そうですね。でも、手加減はしません。今の私は、サーティンデビルズのメンバーです」

顔つきがさっきとは全然違う。よほど気合が入っているのだろう。

そしてシルビアは首都高で見たときよりも、更にパワーアップしていそうだ。


「3,2,1、GO!」

高山のカウントでバトル開始。パワーに勝るシルビアがまずはアクセラを引き離す。

だが、蛎との勝負でフロントタイヤが心配だ。サイドブレーキを使い、なるべくリヤタイヤでコーナリングしていく竜介。

アンダーステアをサイドブレーキで消すことが出来るFFは、この点で有利だ。


一方の恵はシルビアを上手く操り、恐ろしい程の突っ込みからコーナリング。

(速い…俺にもいけるか!?)

タイヤを全て使い切る勢いで、シルビアに喰らいつく竜介。タイトコーナーの連続では差がつきにくいのが救いだ。

(バトル…速けりゃ勝つし、それ以外は私にとってあり得ない事。私の前をウロチョロしないで…)

ドリフト気味のコーナリングを繰り返し、バックミラーでアクセラを確認する恵。

そのままタイトコーナー区間を抜け、勝負は中盤から終盤へ。2台のスピードもどんどん上がっていく。


(残りのコーナーの数が少ない…ここら辺で勝負ね!)

恵はそこで、更なるペースアップを図った。

(く…やばい! あんな突っ込み、今のアクセラじゃ無理だ!)

あきらめモードに入りそうな竜介だったが、その時前方のシルビアを見て危険を感じたのか、アクセルからブレーキへ足を移動させる。

(アクセラがついてこない……はっ!)

恵は突っ込みのスピードを上げすぎ、オーバースピードで右タイトコーナーに進入してしまった。

(駄目…立て直せない! スピンで逃げるしか!)

ブレーキとクラッチを踏んで、シルビアを何とかぶつけずにスピンさせる恵。

(こっちもスピンで止まらないとな…)

竜介はサイドブレーキを引いて車をスピンさせた。狭い峠ではスピンさせて止めた方が、安全な場合もある。

勝負は無事、2戦とも竜介の勝利で終わった。


バトル後、竜介に蛎がパーツを手渡してきた。

「あ…あの、さっきは悪かったな。いきなりケンカ腰で。これ、俺が前に使っていたコンピュータのロムなんだけど、良かったら」

「いいのか?」

「ああ。だが、俺等の活動はまだ終わったわけじゃない。俺は他のメンバーにもこの事を伝える。覚悟しておくんだな」

「私も…他のサーティンデビルズのメンバーに伝えておきます。それでは…」

こうして、サーティンデビルズとキングダムトゥエルブ、2つのチームから目をつけられる事になった竜介であった。



「KINGDOM TWELVEにバトルを挑んで勝つという事は、

自らTHIRTEEN DEVILSを迎え撃つという意味でも

ある事を、昨日の走り屋の人は自覚して欲しいぜ。」



「私が負けた所で、THIRTEEN DEVILSの勢力図が

崩れる事は無いのよ…」


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