第1部第9話
大塚に勝利し、新環状に戻ってきた京介。その新環状に新たに出現してきたチームを倒していく。
沢村に大塚とバトルしたことを伝え、更に流斗とのバトルで感じたパワー不足を訴えた。
その結果、沢村は特別価格で京介のFDをパワーアップさせた。
パワーは550馬力にまでアップし、更にエアロパーツもマツダスピードのGT−Cのキットを装着。
外観、エンジンルーム共に派手になった。
それに加えてボディ剛性をあげるためにロールバーを組み込み、軽量化も少しだけ施す。
軽量化はあまりやりすぎると、ふらつくからだ。
その後、仁史の元へと向かう京介。
「…大塚と走ってきたのか。それは面白かっただろう?」
「ええ。でもやっぱりバイクレーサーでも、レースのプロは速いですね。油断してたら絶対負けてたと思いました」
「あまり無茶させるなよ。聞いたぞ、大がかりなチューンをしたんだってな?」
仁史から更にレベルの高いコーナリングの特訓を受けるために、と同時にFDの慣らしもかねて、京介は新環状までやってきた。
「じゃあナビに乗せてくれ」
「了解です!」
加速やコーナリング性能がアップしていることに仁史は驚く。
「凄いな…パワーが違いすぎる」
「ええ! これなら大抵の奴には負けないと思いますよ!」
慣らしということであまり無理をさせずに攻め込む。
と、その時。バックミラーにパッシングの光が。
「1台来てますね?」
「ああ。バトルか。慣らしは500キロくらい走ったのか?」
「大体450くらいでしょうか?」
「なら受けても大丈夫か。…いや待て、あれは…」
仁史の顔が変わる。
「まずいのに遭遇したな。サーティンデビルズのメンバーだ」
「え!?」
しかし、また仁史の顔が変わる。
「だが……このFDなら勝てない車ではなさそうだな。受けてやれよ」
「…はい!」
ハザードを点滅させ、消して全開に移る。後ろの車は…?
新環状右回りでバトルが始まった。
仁史から後ろの車とドライバーについて、説明が入る。
「サーティンデビルズの1人、「シタール兼山」だな。車はトヨタの30ソアラだ」
「ソアラって…あのチェイサーの2ドア版みたいな奴ですか?」
「うーん…2ドア版といっていいのか分からないが、スペック的には似たようなもんだし、積んでるエンジンも同じ1JZだからな。
奴は結構集中力が高いと評判だ。あきらめが悪いだろうから、振り切ってやればいい」
「よっしゃあ!行くぜ!」
仁史からアドバイスをもらいつつ、兼山とのバトルだ。
現在位置は、C1と新環状の分岐後にある右コーナーを超えた所。
兼山のコーナリングはかなりクイック。早めのブレーキングからスパッと向きを変え、立ち上がりで食いついてくる。
(噂には聞いていたが、あれが兼山のコーナリングか)
仁史も感心している模様だ。
S字を抜けて高速セクションへ。ここでしっかりと京介は加速し、ソアラをぐんぐん引き離す。
今回のコースは超高速コースの湾岸線方面。待ちかまえるのは長い長いストレート。
ここで一気にパワーでソアラを振りきり、京介は兼山に勝ったのだった。
兼山とのバトルから3日後。京介の元に1通の手紙が届いた。
内容はこうだ。何でも今夜11時、台場PAで待っているとの情報。どうやら挑戦状らしい。
目印は緑の、TRDのスープラという話だ。
というわけでPAまでやってきた京介。そのスープラを発見したが、周りからは黄色い声が聞こえてきている。
「キャ〜! アレイレルさーん! こっち向いてください!」
「アレイレルさん、チョコ作ってきたんです!」
「アレイレルさん! 今日も決まってますね!」
…どうやらものすごく女性に人気があるらしい。そのアレイレルという男は…。
京介はそんな様子を見て、がっくりと肩を落とした。
(うわあ…俺には彼女の「か」の字も無いというのに、今度の奴は女にモテモテかよ!)
ともかく、そのスープラに近づいていく京介。
「あーちょっと良いか? 俺、そのアレイレルって人に用事が…」
すると、スープラから男が降りてきた。
その男は名前から大体想像できたが外人。銀髪に青い目をしたイケメンだ。
「宝条というのは、あんたか?」
日本語ペラペラ。おまけにやたら筋肉質で、ゲイにもてそうな身体だ。
「そうです。この手紙の主は、あんたか?」
スープラの男はこくりと頷いた。
「アレイレル・エスイトクスだ。何でも、俺の弟子の大塚と兼山を倒したらしいな?」
「弟子!? え、あの人達って弟子なんですか?」
何とあの2人、このアレイレルの弟子らしい。
「今日は俺の応援に来てくれているはずだが…。あ、居た」
アレイレルの目線の先には大塚、そして兼山らしき人物が。
その2人は京介の元へと歩いてくる。そして大塚、兼山の順に口を開いた。
「…よう。今日は師匠にチャレンジって訳か? せいぜいがんばるんだな」
「君と直接会うのは初めてか。兼山 信也(かねやま のぶや)だ。この前はどうも。俺は負けたが、師匠は本気で速い。振り切られても文句は言うなよ?」
どうやら味方はいないみたいだ。
「アレイレルさん、がんばってくださいね!」
「こんな人に負けないでくださいね!」
「応援してますからね…って、何で俺まで応援してるんだよ!」
釣られて京介も応援してしまった。…敵を。
(いや、あんたの自爆だろ…どう見ても)
その場の空気が一瞬にして、固まったことは言うまでもない。京介は場を凍らせることが得意なようだ。
「…………ルールは?」
これ以上気まずくさせたくないため、京介は話題変更。
「ここからスタートして、1周して戻ってくる。先にゴールした方が勝ち。…兼山、カウント頼む」
「分かりました!」
FDとスープラが横に並び、アクセルをふかす。
首都高サーキット、新環状のバトルもいよいよ大詰めといったところであろう。
「じゃあ行くぞ! 5,4,3,2,1,GO!」
兼山の手が振り下ろされ、2台が飛び出していった。前を取ったのはスープラ。
(やっぱり2JZは速いな。アリストと違うのは車重が少し軽いところか。それでもこっちの方が軽いがな!)
後追いから京介はスープラを観察。さすがにこの前の2人の師匠だけはある。
大塚と兼山も速かったが、アレイレルはそれ以上だ。
ブレーキングは流斗に負けているが、それでも突っ込みのスピードは速い。
パワーこそこっちが勝っているみたいだが…加速を見る限り、スープラは400馬力ちょいと言った所だろう。
(過剰に減速するのは変わりないが…でも前から比べると突っ込みのスピードが速い。気合い入れるぞ!)
(タイヤの状態が一番良いところでスパートをかければ、がたいの重いこの80スープラでも余裕で振り切れる)
油断を見せることが無く、冷静沈着な判断力が持ち味のアレイレル。
アクセルを踏み込み、なめらかな操作でFD3Sとバトルを繰り広げる。
途中の湾岸線上りのストレートで、パワーの差で京介にパスされたが、それでもちらりと京介を見ただけで眉1つ動かさない。
(抜かれたからと言って焦ったらそこで終わりだ。もっとも、焦るのはそっちだろうがな)
FDのテールを見つめつつ、スリップに入って加速。
じりじりと京介にアレイレルは引き離されていくが、それでも新環状線最初の大きな左コーナーで、FDに追いついて行く。
(やっぱりそう簡単には…振り切れないよな!)
バトルはまだ始まったばかり。あの2人の師匠だろうと、京介は負けるわけにはいかない。
アレイレルは京介の弱点を見抜いていた。
(踏み方が荒い。FDのような軽量FRターボなら、もう少しなめらかに踏むべきだろう。それだとタイヤに負担がかかるからな)
だがまだ、アレイレルは仕掛けない。
じっくりと後ろから観察し、京介がタイヤのコントロールをできなくなってきた所で追い抜く作戦だ。
コースは2回目の銀座に突入。下り坂を一気に駆け抜け、ここでRX−7がスープラとの差を少し広げる。
しかしその後の分離帯コーナーで、スープラに一気に食いつかれる。
(くそ…離れない!)
アレイレルのスープラが全然離れない。だが京介は気を落ち着かせ、その後自分を奮い立たせる。
(…焦るな。ストレートに入れば引き離せる! レインボーブリッジまで我慢だ!)
そう思っていたが…。
(…そこだ!)
汐留S字でプレッシャーからアンダーを出した京介を、インからスパッと抜いたアレイレル。
(……くっ)
少し早いが、京介はここからペースアップを図る。それに併せてアレイレルもペースアップ。
2台のエキゾーストノートが明らかに変化していた。
(ついてこれるものなら、ついてきてみるんだな!)
高速コーナーでは、左足ブレーキを使ってコーナリングするアレイレルのスープラ。
それに対して、アクセルオフのみで対応する京介のRX−7。
(こうなった以上、綺麗な勝ち方にこだわっていられない! 何としてもあのスープラを抜いてやる!)
レインボーブリッジの上は長いストレート。アザーカーまで使ってスリップを駆使し、京介はアレイレルにストレートで右から並ぶ。
(来た!)
RX−7の方に顔を動かして、姿を確認するアレイレル。この後の突っ込みで勝負する気だと、アレイレルは確信した。
そしてアレイレルのスープラがわずかにブレーキ。
だが京介は、少しアクセルオフしただけで突っ込んでいく!
(な…!?)
アレイレルの口元が引きつる。
スープラはやはり重い。それ故にこのコーナーは、少しスピードを落とさないと曲がれない。
しかしRX−7は軽く、わずかなアクセルオフで抜けていける。車重の差だ。
もしアレイレルが同じFDに乗っていれば、アレイレルの勝利だったかもしれない。
今回は京介の勝ちだ。
アレイレルと京介が戻ってきた。アレイレルが負けた事実を知り、取り巻きの女達は落胆の声を上げる。
「ええ〜!? アレイレル様が負けちゃったの!? 信じらんない!」
「きっとイカサマよ、イカサマ! 何かズルしたに違いないわよ!」
「そうよそうよ!」
「…おい…お前ら……!」
思わず京介は女達に切れかかってしまう。
しかしそれをアレイレルは手で制した。
「俺の負けだ。こいつは本当に速かった。悪く言わないでくれ」
「…アレイレルさんがそう言うなら…」
取り巻き連中の女どもは本当にうっとおしいなと思いつつ、改めてアレイレルに向き直る京介。
「…さて、残りの十三鬼将なんですが…」
「……そうだな。このまま俺らも黙ってるわけにはいかない。四天王が出てくるだろうな」
「…四天王?」
多分流斗の言っていた奴らのことだろうな、と京介は思った。
「そのうちの1人は環状線に行けば会えるはずだ。青い3000GTに乗っているからな。それじゃあ」
アレイレル、兼山、大塚は3台まとめてPAから出て行った。
(3000GT…って、何だ?)
その意味を京介が知るのは、もう少し後のことである。