第6部第4話


(ん、なんだこりゃ…)

翌日。大字を倒し、箱根をあっさりとクリアした竜介の元に1通のメールが届いていた。

高山信幸という人物から、ファンになったとのメールだ。

自分を応援してくれるファンがいることは、やはり気持ちが良い物だ。


箱根を制覇し、次なるステージは何と遠く離れた広島の野呂山

アパートを借りたりするのも面倒なので、アクセラの中で寝泊まりすることにした。

助手席はノーマルなので、リクライニングできるのが救いと言ったところか。

大字を倒して賞金が50万手に入ったので、いつものごとく25万は改造費に回す。

サスペンションを強化し、カム、ピストンを強化品に変える。

広島をどのくらいで制覇できるかと言うのが不安なところだが…向こうでもカテゴリーレースは

行われているらしいので、そこで金を稼ぐしかないだろう。



野呂山は箱根よりも中高速コーナーが多く、スピードが上がりやすい。

反面、直線の後にはきついコーナーやヘアピンカーブが多く、ブレーキングにも気を使わなければいけない。

昼間のカテゴリーレースでコースを覚えることを念頭に、全長4キロちょっとのコースを、下り主体でカテゴリーレースに参加しまくる。

サイドブレーキを使ったFFのドリフトもなんとなく形にはなってきたが、まだまだかと思ったり。


夜は夜で、グリップ走行を主体として地元のライバルたちとのバトルを繰り広げる竜介。

(タックインをうまく使わなければな…)

早めのブレーキングからスパッと向きを変えていくような走り方で、立ち上がり重視のコーナリング。

終盤では全く走りを変えて、ギリギリまで突っ込んで行く突っ込み重視の走り方に変える。あまり序盤で激しい走りをすれば

タイヤが終盤まで持たなくなってしまうからだ。



連日連夜、広島の山を昼も夜も走りこみを続ける。夜のバトルでドリフトバトルを仕掛けてくる奴は、幸運にも1人だけだった。

そしてようやく、野呂山のコースにも慣れてきた頃。ここのスラッシャーからBBSに書き込みがあった。



「公認される前から、広島でずっとテクニックを磨いてきました。

広島の走り屋の期待を一心に受けた自分の走りを見に来て下さい。

広島PAで待っています。」



竜介は返信した後街のショップに向かい、タイヤを新品のものに交換し昼間のレースで少し減らしておく。

タイヤは全くの新品よりも、少し磨り減っていたほうが路面への食いつきが良いのだ。

食いつきが良くなれば停まる距離も短くなるし、コーナリングスピードも少しだけ上がる。



そんなタイヤを履いて、野呂山のPAへ向かった竜介の目の前に現れたのは、1台のこれまた派手なS13顔の、日産のシルエイティだった。

そのシルエイティに近づいていく竜介。だが…。

「誰? お前。ここらじゃ見ない顔だな?」

ドライバーらしき、銀髪の男の言い草にムッとする竜介だが、こらえる。

「ここは俺の遊び場なんだよ。それを無視して勝手に走りやがって。面白くねぇなぁ。ムカつくぜ…」

ずいぶんとガラも口も悪そうだ。


「あんたがここのスラッシャーか?」

「はっ、俺を知っているのか? この久米 隆治(くめ りゅうじ)様を?」

間違いない。でも、こんな奴がここのトップなのかと内心がっくりと竜介。

「そうか、あんたがBBSの…。よくぞここまで来てくれたね!! 広島・野呂山は今までのテクニックが全て試されるテクニカルコースだ」

もう何だか、書き込みとは全然違って色々と駄目だなコイツ、と竜介は思わざるを得なかった。




コースは下りのフルコース。LFバトルで大字のときと同じく、竜介が後追いだ。

最初はパワーのあるシルエイティが、直線でアクセラを引き離していく。240馬力ぐらいは出ていそうだ。

こんな性格だが、走りに対する情熱は物凄い隆治。

あまり人の走っていない日曜の朝方等に猛烈なメニューをこなすなど、スラッシャーの名を持つだけはある努力をしている。

最初は中速S字カーブが連続する区間。ここでアクセラが差を詰める。


(けっ、軽いほうが有利ってか?)

バックミラーでアクセラを確認する隆治だが、前の確認も怠らない。

中速コーナー区間を抜けて、右の緩いカーブからスピードが乗ったまま左ヘアピンへ。

ここでプレッシャーをかけてみようと、空いた隆治のイン側に、竜介はアクセラのノーズを入れる。

(インを取ろうったって、そうはさせるか!)

良いブロックを見せ、何とか前を守る隆治。そのまま次のコーナーへと突入して行く2台。


ここからスピード領域が少しだけ上がる。

(くっつきすぎるとあの言葉どおり、本当にデンジャラスになるかもな。大字って奴と同じように、早めに追い抜いて終わらせよう)

揺さぶりをかけてシルエイティの挙動がぶれるのを待つ。

しかし相手は腐ってもスラッシャー。ちょっとやそっとでは乱れない。ましてバトル自体の経験が、第2部での阪神高速で少しやったくらい。

その後はまたラリーに戻っていたため、ほとんど竜介は忘れている。

箱根でちょっとだけ、また経験ができたというべきだろう。


(かなり上手い奴だけど、抜けない相手じゃない。あまりのんびりしてるとブレーキが終わる。今のうちに仕掛けるか)

目の前には緩い左カーブからの右ヘアピン。

ここでインをあけた隆治のイン側から、思いきりいい突っ込みを見せる竜介。それにびびる隆治。

(く…わ!)

突っ込みの鋭さに驚いてふらつく隆治を尻目に、竜介はシルエイティの前に出る。

(くっそおおお! 一瞬ぶつけられると思ってびびっちまったぜ!)

前に出られた隆治だが、このままでは済まさないと考えて、とんでもない作戦を考えていた。

(こっちからBBSで仕掛けたバトルで負けたら、俺は野呂山中の笑いものにされて再起不能だ! たとえ引き分けに持ち込んでも、俺のメンツは保って見せるぜ!)

ヘアピンを抜けた後は、やや高速に近い中速コーナーが続く区間へ。

(このバトルの結末は、ダブルクラッシュと行こうぜ!)

パワーを活かして、コーナーとコーナーの間でアクセラに並びかける隆治。そして左に思いっきりハンドルを切る。


(ぶつけてくるつもりか!?)

警戒心を抱いた竜介は、次のややきつい右コーナーに向けて少し早めにハンドルを切って、サイドブレーキを引く。

それが功を奏し、上手くぶつかってくるシルエイティをかわすことに成功。

「のおおおおおおおおおおおお!?」

隆治のシルエイティは、そのまま行き場を失ってガードレールに激突し、1回転してしまった。

(自業自得だろ…あいつは)

ぶつかりはしたが、あの程度では大した怪我ではないだろうし、ぶつけてくるような奴を

竜介は助けようという気にもならなかった。



「天性の才能は、一瞬にして多くの経験を否定してしまうものなのか・・??

昨日の走り屋は、まだまだこの先、

テクニックをさらに伸ばしそうな感じだったな。」



それから3日後。残りのライバルを倒し終わった竜介は、広島から東京に戻ろうと考えたが、最後の日なのでもう1度だけ野呂山へ。

すると見慣れない、初期型の青いFCのRX−7を発見。

そのドライバーは竜介に気がつくと、向こうから声をかけてきた。

「どうもこんばんは。君だよね? ここのスラッシャーを倒したアクセラの人は」

「そうですが…何か?」

「俺は向井(むかい)という者だけど、俺とバトルしてもらえないか? 勝ったらこのメダルをあげるよ」

メダリストだ。広島にもメダリストが居た。

「わかりました。勝負方法は?」

「下りのSPバトルで。このFCの熟成度合い、君のその目で確かめて欲しいな」


最初はパワーのあるRX−7が先行。マツダ同士の戦いという事でなんとなく力が入る竜介。

コーナリングマシンといわれるRX−7だが、竜介の目から見る限りあまりコーナリングは上手くないようだ。

直線番長といったところであろうか。

(食いついてくるか…このRX−7に!)

コーナーで差を詰め、左ヘアピンコーナーの入り口でふらついたRX−7を追い抜く竜介。

そしてそのまま引き離して向井のSPを全て削り取り、2個目のメダルをゲットした。




新参者の「走り屋」がステージ1に属する街道サーキットで、かなり大暴れしているというニュースは、

瞬く間にメールやBBSで1日のウチに響き渡る。


「どうやらタダ者では無いらしいぞ・・!?」

「目的はあの、アブソルートエンペラーに殴り込みをかける事らしい・・」

「ミラクレスサミットが、その新参者の腕を試す為に新たな走り屋を送り出したらしい・・」


たったの一晩で自らの地位がガタ崩れするこの世界・・・・

自分以外は全てライバル。

誰しもが戦々恐々とし、そのプライドの確保に躍起になっていた。


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