第5部第19話


日曜日には、前日の鈴鹿を早めに出てからずっと走り続けて、瑠璃は日光サーキットへ。

ここではDPバトルのマスターと、バトルの約束があったはずだが……。

(えーと…あのアルテッツァかな?)

ど派手な水色のアルテッツァ。多分この人がそうだろう。金髪に茶色の目の外人だ。


「…あなたは?」

「白石瑠璃と申します。あなたがDPバトルのマスターの方ですか?」

しかし…。

「いや、違いますけど…」

「あ…失礼しました!」

「多分その人、向こうにいるS14の人かな…」

外人が指差した方には、黄緑色に塗られたS14シルビアが1台。

「どうも失礼しました。ありがとうございます」


そう言って立ち去ろうとする瑠璃だったが、外人は瑠璃を引き止める。

「あっ、あの! 白石さん…でしたっけ?」

「え? …はい」

「俺、あなたに挑戦を申し込んだワンダラーのレナドって言います。初めまして」

「あ…」

このレナドという男、実は瑠璃に挑戦を申し込んだのだ。

「俺のところに来たのは、あながち間違いではなかったと思いますよ。今日はお互い、がんばりましょう」

「あ…はい。よろしくお願いします」


レナドと別れ、続いてはS14シルビアの元へと向かう。そこにいたのは赤髪が特徴的な男。

「俺に何か用かい?」

「あの、DPバトルのマスターの方ですか?」

「ああ…そうだよ。本名は谷本 仁史(たにもと ひとし)だ。君の噂は聞いてるよ。白石さんだろう」

「はい。今日はよろしくお願いします」

「ああ。悪いがヒヨッコは相手にしない。普段はな。今日は本気でやらせてもらうぜ」



まずはレナドとのDPバトルだ。レナドのアルテッツァはNAのままで、あまりパワーは出ていなさそうだ。

が、外から見るとやたら軽快に振り回しているではないか。

よっぽど軽量化しているのであろう。普通のアルテッツァではあんな動きはまずしない。

(俺の目指す物は、もっともっと高いところにある!)

そんな思いのレナドが操るアルテッツァが出したポイントは、1周で23.000。


勝てない相手ではない。そう思い瑠璃が続いてスタート。

最初の左コーナーはブレーキングドリフトで進入。アウトまで膨らみ過ぎないようにアクセルコントロール。

右直角コーナーはサイドブレーキドリフトで突入。イン側をかすめてジャンプしながらクリア。

(…くっ!)

右高速コーナーはサイドブレーキからアクセルをほぼ全開のまま、速いスピードを維持してクリアする。

最終コーナーはサイドブレーキで2つのコーナーと考えて分けてクリア。


最終的に出たポイントは24.549ポイントであった。

「あーあ、負けちゃったか…」

「でも、あなたもすごかったです」

「いや、君の方がすごいさ……。最高のバトルだった。またいつか会ったときには闘おう!」

がっちりと、2人は握手を交わして別れたのであった。



続いては仁史とのバトル。DPのマスターということで走り出した彼は、確かにすごい。1コーナーから速いスピードを保ったまま

S14を振り出し、いい角度をつけてコーナリング。

直角コーナーまでで出したポイントは13.000ポイント。この区間で勝負するとなると、かなりの強敵だろう。


続いて瑠璃がスタート。最初は少なくとも6.500以上は稼がなくては。

なるべくアウト側いっぱいから振り出し、小刻みにアクセルをコントロールして角度を微調整。

アウト側はダートになっているので、そこにリアタイヤを落として挙動を乱さないようにしっかりコントロール。

そのままハンドルを戻して立ち上がり、続いては右直角コーナーへ。

ここもアウトいっぱいから振り出し、サイドブレーキを小刻みに引いてドリフトを維持しつつ、区間いっぱいまで使ってポイントを稼ぐ。

そして出たポイントは…13.137ポイント!

まさにラインもポイントも、いろいろな意味でぎりぎりだったといえよう。

(あんなの…マグレだぜ。…マグレとはいえ、大したもんだ)

瑠璃の実力を認めたくは無いが、どうしても認めざるを得ない仁史であった。



日光サーキットへ行った日曜日の週の土曜日は、いよいよSPバトルのマスターに会いに首都高サーキット内回りへと向かう瑠璃。

これで走り納めか…と思うと、少し寂しい気もしてくるが…。

最後の相手はいったいどんな車に乗っているのだろう、と思って見に行くと、以外にも普通の車だった。

日産のV35スカイラインクーペ。


ピットにはそのマシンとガタイのいい男が1人。

「…何か用か?」

「あ、あの…SPバトルのマスターの方ですか?」

「…そうだけど」

「私、白石瑠璃って言うんですけれど、あなたから挑戦があったというのでここに来ました」

「…ああ」


作業する手を止め、軍手を外して瑠璃に向き直る男。

黒羽 真治(くろば しんじ)だ。お遊びで走っているなら俺には到底勝てんぞ」

寡黙な性格なのか、口数が少ないこの黒羽という男。しかし体中からは殺気が感じられる。

「私は本気で走っていますよ。それを見せます」

「そうか。お互いに良いバトルをしよう」


いよいよ最後、SPバトルがスタートする。最初はトルクのある、V35の黒羽が先行した。

最初の下り坂をフルアクセルで駆け抜け、トンネル内のコーナリング。そこではS2000が差を詰める。

しかしうまくブロックされて、なかなか抜けない。

かなり上手いブロックをしてくるこの黒羽真治。立ち上がりの加速もトルクフルでいい感じだ。


銀座のストレート、中央分離帯ゾーンを一気に駆け抜ける。パワーは同じくらいだろう。

(結構上手い…流石SPバトルマスター!)

この先はヘアピンに近い左コーナーがある江戸橋のジャンクション。仕掛けるならここだ!

(大きくアウトに振って…!)

そのS2000の動きを見ていた真治は、ブロックしようとアウト側へ車を振る。


だが、西山や流斗の時と同じように、瑠璃はフェイントをかましたのだ。

(…!)

アウトアウトアウトで回った黒羽、インインインで回った瑠璃。ここで前と後ろが逆転した。

この先は高速連続コーナーの続く区間。

軽快にコーナリングしていくS2000に、重いV35は着いて行くことができず、

黒羽はゆっくりとアクセルから足を離したのだった。

(戦場では一瞬の判断ミスが死につながる……。この戦場で、俺は死んだのか…)


第5部第20話(エピローグ)

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