第5部第18話
いよいよ最後はフィールド3だ。いちばん遠いところから潰していくため、瑠璃は土曜日に鈴鹿サーキットへ。ここで2周のRPバトルを行うのだ。
ピットに入ると、2台目だったマシンが停まっている。
1台は周二のインプレッサと同じ「JUN」が製作した、こちらもレモンイエローカラーのランエボ5、「JUNハイパーレモンエボ5」。
もう1台はロードスターにドラッグマシンのような太いタイヤをリアに履かせた、ドラッグ仕様のNA8Cロードスター。直線番長そうだ。
そのドライバーは瑠璃に気がつくと、2人同時にこっちに来た。
「どうもこんにちは」
「人間なんてのは、みんな自分の事しか考えていない……。あ、こんちは…」
「あ、どうもこんにちは…。貴方達が挑戦を?」
「はい、俺が挑戦を申し込みました。俺は西山(にしやま)です。直樹と慎太郎がお世話になったそうで」
聞けば、あのマインズR34の奴と、HKSアルテッツァの奴とは「D3」という、80スープラだけのチームを組んでいるのだとか。
「相当走りこんでいるという噂、俺は聞いていますよ。走り続ければいつかは辿り着く。最速の称号にな」
「ですね。私も負けられません」
「ボス格登場か…。私は白石瑠璃です。…あなたは?」
「新一(しんいち)です…。RPバトルのマスターです」
しかし、どうも何だかこの新一という男、元気がない。
「大丈夫…ですか?」
「あ…ああ。でも今日は大丈夫だと思いますよ」
((本当に大丈夫なのかよ…))
西山と瑠璃は同時に心の中で、全く同じ言葉を呟いた。
ポールポジションは新一のロードスター。2番手に西山のエボ5。3番手が瑠璃のS2000だ。
シグナルがレッドからブルーに変わり、バトルスタート。
最初はやはりドラッグ仕様なのだろう。新一のロードスターが、4WDのエボ5に負けないスタートダッシュを見せる。
西山もいいクラッチミートだったが、新一を追い抜かすことは出来なかった。
新一がトップのまま1コーナーへ。しかし新一、ここで痛恨のアンダーステア! コーナーは駄目そうであったがやはり予想通り。
横からやすやすと瑠璃と西山が追い抜かす。
(あいつの出番…これで終わりか?)
(あっけなさ過ぎる! こんなはずは無い! 絶対あの新一って人は、私と西山さんにどこかで仕掛けてくる)
S字はS2000とエボ5は互角。突っ込みのS2000、立ち上がりのエボ5だ。
(くーう! スープラより断然加速がいいな、このエボ5! それでもあの白石って女はついてくるか。たいしたもんだ)
(突っ込みでは勝ってるけど、立ち上がりでは向こうに軍配があるか。後は直線ね)
デグナーからヘアピン、そしてスプーンコーナーまでサイドバイサイドを繰り返す2台。
スプーンでは瑠璃は立ち上がり重視の走りをし、エボ5に引き離されないようにする。ストレートスピードはそんなに変わらないようだ…が。
(ゴルァァァァァァァァァァッ!!!)
西山と瑠璃はバックミラーに殺気を感じ、後ろを振り返った。
(え!?)
(おお…お…!? そんな直線番長っぷりは無しだろ…)
物凄い勢いで横からパスされる瑠璃と西山。まさにこれこそ直線番長だ。
そのまま新一トップで2周目に突入。最終シケインで差を詰めた2台だが、ホームストレートでまた引き離される。
(このまま行かせるかよ!)
(まだ私も負けないわ!)
連続S字に差し掛かり、コーナリングスピードでは圧倒的にエボ5とS2000が勝るので、ダートに半分突っ込みつつもまた新一を追い抜く2人。
(あいつの直線は恐ろしいな…)
(バックストレートでは要注意ね)
デグナーに差し掛かり、突っ込みで少し差を詰める瑠璃。
西山はこの先のヘアピンで抜く!
(さあ…勝負!)
思いっきりアウトからアプローチした瑠璃。それに気を取られた西山のインが若干広めに開く。
そこに思いっきりフルブレーキングでラインを変えて、瑠璃は飛び込んだ!
(そ、そんな鋭い突っ込みを!?)
西山はアンダーを出してしまい、これで瑠璃がトップに浮上。後は新一が来るのをどう対処するだけだが…。
(でも、後ろの西山って人が抜かれないために、多分ブロックするかもね)
その西山は、後ろから追い抜きにかかってきそうなロードスターの動きに集中していた。
(あいつがどうくるかだよ…)
バックストレートに進入し、アクセル全開の西山。その後ろからまた殺気が…!
(来たぁーーーーーー!)
その殺気に少し涙目になりそうになりながらも、必死にブロックする西山。
そしてエボ5とロードスターは並んだまま130Rへ!
だが!
(オゥ…!! オーバーランしたぜ…)
(ヤバ、スピン!?)
新一、オーバースピードでコース外へ。西山、スピードの落としすぎでオーバーステア。
コース外へ出た新一は、スピードを保ったままコースへ復帰し、2位に。
勝負は1位が瑠璃、2位が新一、3位が西山であった。
西山は「俺が本当に求めているものは勝ち負けじゃない」と、後で語ったらしい。
新一はレース後に瑠璃の元へ行き、こう語った。
「まだお前のようなヤツもいたんだな……。また……上を目指してみるかな」