第5部第15話


いよいよ最後、SPバトルの舞台である首都高サーキット内回りへ。

夜限定のこの場所。昼間にRPバトルをしてきたばかりだが、どうせなら一気にやってしまおうと言うことで

タイヤを履き替えて、ブレーキパッドを交換してここに来たのである。

ギア比はやや加速重視にセッティング。内回りは外回りよりもスピードが乗りにくい。



そしてここにも有名どころのデモカーがずらっと勢ぞろい。

岡山のチューニングショップ「サンラインオート」が手がけたシルビアのデモカー、サンラインオートS15。

兵庫のスバル車に強いショップだが、そのショップ「アクア」が作った渾身のNSX、アクアNSX。

RE雨宮がFD3SのRX−7をベースに、フロントライトを丸くして羽のようなドア、ガルウィングドアをつけた緑のカスタムカー、グレッディ9。

大阪府箕面市にある有名な、GTウイングなどのエアロパーツを製造・販売している「C−WEST」が手がけた、カーボンS2000。

そして浮世絵のようなペイントが施されている、青のR34スカイラインGT−R。これは個人車だろう。




シルビアのドライバーは何と髪の色がオレンジと黄緑の2色。いや、それは考えてみれば藤尾も同じだった。

自分と兼山は紫、周二は緑。グレイルは水色と黄緑、孝司は一般的な濃い茶色。

由佳は赤、和美は金と赤、哲は青、永治は紫。

まともな髪の毛の色の奴は1人もいなかったりする。何という場所であろうか。


そんなことを考えていると、目の前にそのシルビアのドライバーが迫ってきている。瑠璃はあわてて居住まいを正した。

「あ…あの…こんばんは。今日はよろしくお願いします」

「ああ、こんばんは。SPバトルの参加者の白石さんでしょ? 俺は稲本 明(いなもと あきら)。このシルビアは速いな。

普段はGTOとEG6に乗ってるんだけど、中排気量車とか、FR車は俺運転したことが無いから。だからスピンとかしちゃうかもしれないから、気をつけてくれ。

…あの屈辱……! これまで一片たりとも忘れたことは無い!!」

「は、はあ…」

心配性なのだろうか? そして何やら、酷い負け方をした過去があるようだ。




不思議に思いつつ次はNSXのドライバーの所へ。そこにいたのはメガネをかけた、薄い銀髪の男。

「やあ…君、参加者の瑠璃さんでしょ?」

やけに馴れ馴れしい。本人はフレンドリーだと思っているつもりだろうがイライラする。

「は、はい。そうです」

「へーえ。僕は岸 泰紀(きし やすのり)。長いこと首都高は走ってるけど、思ったよりも少ないねー、女のドライバーって。

もっといっぱい居ると思ってたのになぁ…どれどれ、車ちょっと見せてくれるー?」


ウザイ。激しく宇座胃。

「S2000かぁ。50:50の理想的な重量配分を実現した、2シーターのスポーツカーってのはいいけど、オープンなのがねー。

言っちゃ悪いけど、君は走るときはちゃんと幌を閉めて走ったほうがいいと思うよ? オープンのままだと顔見えちゃうもんね。

…あ、これは言っちゃまずかったか。すっげー気にしてるみたいだし…ぷぷぷ」


もう少しで堪忍袋の緒が切れそうな瑠璃。別に容姿のことなど気にしてはいないし、サーキットでは幌は開けたまま走れない。

が、ムカつく。すっげーMUKATSUKU!

「やっぱりNSXはサイコーだよサイコー。普段も乗ってるけど、他の車とはシビアさが違うんだよねー。

今日は特別に、僕の長年作り上げてきたNSXのドラテクを見せてあげるよ。…君がついてこれないと、見せてあげられないけどね。ししし…。

…あと、最後に一言だけ言っておくよ。…生きるか死ぬかを楽しむのが本当のバトルだ。勝てねぇヘタレは死んどきな!」


無言で踵を返し、瑠璃は立ち去った。

あんな男とは1秒でも一緒に居たくない。生理的に受け付けない。




続いてはグレッディ9のところへと向かう。ドライバーは頭の色が、グレッディ9と同じような緑色。正確には黄緑だ。

「あんたは…?」

「今日の参加者の白石瑠璃です。よろしくお願いします」

「あー、あんたがそうか。俺は沢田 弘樹(さわだ ひろき)だ。よろしく。今日のバトルはお互いに全力を出し合おうぜ!」

妙に明るい…。

「普段はFC3Sに乗ってるけど、FD3Sもいい車だよ。ロータリーパワー全開でかっ飛ばすぜ! 自分の中に、あの興奮が蘇ってきている!」

元気な人だな、と瑠璃は思わずに入られなかった。




お次はC−WESTS2000の所へ。ドライバーは水色と青色が混ざった髪の色をした女だ。

「よう。お前が挑戦者の白石瑠璃か。俺は遠藤 真由美(えんどう まゆみ)。よろしくな」

男…? でも胸のふくらみを見る限りでは女っぽいが…。

「あの…失礼ですけど、女性の方ですよね?」

「ああ。よく聞かれるよ。一人称が俺なのは、家庭環境からだから気にしないでくれ。この口調もな。俺はれっきとした女だ。

間違っても性同一性障害とかそういうんじゃないから、そこんところはよろしくな。…ここに…戻ってきた以上、ヤツとの再戦も時間の問題ね」


あ、今ちょっと女っぽくなったな、と思ったが、口には出さずに話題を変える瑠璃。

「はい…。そ、そういえば、車…私と同じS2000なんですね」

話していると何だか、リズムが狂ってきそうな瑠璃はここで話題を変える。

「ああ。だがコイツはオールカーボンボディだ。先に言っておくがストレートは遅い。でもコーナーは速いぜ。

普段は70スープラとCR−Xに乗ってるんだが、その俺からしてみれば若干パワー不足に感じるかな」

コーナーではかなりの強敵になりそうだ。




最後は浮世絵のR34GT−Rの元へ。結構なイケメンで、胸辺りまである黒髪を、後ろで束ねた身長の高い男が立っている。

「…あんたは?」

「今日、C1GPに参加する白石瑠璃です。よろしくお願いします」

「そうか、あんたがな。俺は宝坂 令次(たからざか れいじ)。この世で伝説を作れる人間は、ほんの一握りだ。今日はよろしくな」

人当たりもよさそうだ。

「このR34は…マイカーですか?」

「ああ、一応な。浮世絵は俺の妹の趣味だ」

物凄いパワーを持っていそうなこのR34。どんな加速をするのかが大体想像つく。コーナーで勝負するのがいいだろう。




一通りピットを回り、準備をしてS2000に乗り込みコースインする。汐留S字を過ぎたところで本線に合流し、

RPバトルで兼山に追いつくために、立ち上がり重視のコーナリングをしたトンネルの中で、最初に出会ったのはS15シルビアの明だ。

「来たか…」

瑠璃がパッシングしてきたので、明は一言そう呟いてハザードをつける。


そして5秒後、2台がハザードを消してバトルがスタート!

S2000より、ターボのついているシルビアのほうが若干加速がいい。

だがS2000も軽さを活かしてほぼ横並びを保つ。

目の前に迫ってきたS字コーナーではイン側のポジションを活かして明を追い抜き、先行して逃げ切り体制を図る。

(ちっ! だが、このまま終わらせるわけにはいかねぇ!)

アクセルを踏み込んでシルビアを加速させ、S2000にぴったり食いつく明だが、銀座名物分離帯で信じられない光景を見る。

2つ連続して分離帯が来るのだが、その2つ目は下りながらの右コーナーが終わったと同時に来る。

アウト側に流されてしまうと大クラッシュだ。


が、瑠璃はイン側の壁を掠めるようにコーナリングしながら、思いっきりアウトいっぱいまでS2000を飛ばす。

すっぽりと分離帯の左側に入り込み、無事に通り抜ける瑠璃。

減速して安全に行き、その後の長い直線でスリップストリームを利用して追い抜かそうと思った明は、そこで大きく引き離され、

SPゲージを全部使い切ってしまい勝負ありだ。

(コーナリングが得意な俺が…コーナリングで負けるなんて…。 …あの時も、お前のようなヤツに敗れたかったな……)




次に江戸橋の分岐を通り過ぎ、きつい左コーナーの出口で出会ったのは会いたくなかった男、岸。

しかし戦わないと制覇できないのでパッシング。そのままハザードを出して、消してアクセルオン!


が、岸のNSXは直線がめちゃくちゃ速い! 驚異的な加速力だ。

(運がいいよ。なんたって、僕のNSXの戦闘力が見れるんだからね)

しかしコーナリングは危なっかしい。ほとんど運任せといったような感じで、ボディを壁に擦らせている。

本当にプロなのだろうか?

高速コーナーで岸がNSXのボディを擦らせて若干スピードが落ちたところで、インからすっと抜き去る瑠璃。

(生意気な…!)

直線で追い抜こうとする岸だが、瑠璃はうまくブロックする。

(ちょっとはやるじゃん…!)


今日はSPバトルなので、さっきの5人と瑠璃以外にも参加者はいる。

その参加者の中の1台、赤いR32スカイラインGT−Rが瑠璃と岸の目の前に。

瑠璃は左からかわすつもりで左による、が、ぎりぎりでフェイントをかけ、R32の右をすり抜けてクリア!

それに驚いたR32は挙動を乱す。


そしてそのとばっちりは岸にやってきた。

(NOOOOOOOOOOOO!!)

サイドブレーキでNSXをスライドさせ、何とかぶつけずに停止することに成功。しかし瑠璃との差はもう挽回できなかった。

(へっ……! やっちまった……な……!)

がっくりと肩を落としながらも、すぐさまコースに復帰してクルージング走行に入る岸であった。




続いて目の前にやってきたのは弘樹のグレッディ9。

(おっ、来たなー?)

弘樹にパッシングし、3戦目がスタート。


タイヤとブレーキはまだまだ平気な瑠璃。できればがんがん攻め込みたいが、後2戦残っているのでなるべく温存しなければ。

弘樹のグレッディ9は、FDのRX−7がベースとだけあって直線、コーナー共になかなか。

しかし、コーナーはS2000の方が上だ。パワーが上のライバルならコーナーで勝負する。


千代田トンネル前の、RPバトルでグレイルのTRB−02に食いついたコーナー。

内回りでは下りながらの左コーナーになる。

アンダーに気をつけてアウトインアウトでしっかりコーナリング。

立ち上がりでコーナリングスピードの差を生かしてS2000が並びかける。


(なかなかやるじゃねえか! 俺のモチベーションめちゃめちゃ高けえぜ!)

弘樹も負けじとアクセルを踏み込む。

千代田トンネル内はまず左に緩くカーブしているので、ここで横並びのままイン側の瑠璃が前に出る。

先にいた80スープラを、弘樹の前に出たときにパスし、続いては緩い右のコーナーから霞ヶ関トンネルへ。

霞ヶ関トンネルの入り口はフラットできつい右コーナーだ。


(くそっ…!)

あせった弘樹、イン側には分岐だったところの道がまだ残っていて広くなっているため、そこまで使ってコーナリング…したまでは良かったが、

その道なりに行ってしまうと、ピットエリアに改修されている道に入ってしまう。

(うおーっと!?)

凡ミスを犯したことに気がついた弘樹は、あわててブレーキングしてピットエリアに入り込むことだけは逃れた。

が、それにより大きく瑠璃との差を広げられてしまい勝負はついた。

(ハァ、何やってるんだろう俺…。あの女のコーナリングは速かったな。…でも、このFDの挙動にもコースにも、すぐに慣れる!)




4戦目は真由美とのS2000対決だ。

(ここまで来たのか…)

パッシングからハザードを点灯させ、消すと同時に2台のS2000が加速。

真由美自身が言っていた通り、真由美のC−WESTS2000は、加速が全然瑠璃のS2000に及ばない。


しかし、赤坂ストレートでは大きく引き離せるつもりだった瑠璃だが、前にいたFD3Sをパスするのにてこずり、真由美に差を少し詰められる。

(ここのコーナーは…! いけるぜ! 勝負だ!)

赤坂ストレート後のコーナーでは、FD3Sをパスした瑠璃の後ろから、スピード差を生かして真由美が瑠璃を一気にパス。

コーナーは少しのブレーキだけで、コース幅いっぱいまで使ってクリアしていく。

(速いわね…!)

コーナーでほとんど勝負して来た瑠璃にとっては難しい相手だ。自分よりもコーナーが速い相手だから。

(だったら直線で勝負よ!)

直線でアクセルを思いっきり踏み込んで加速し、次のコーナーに入る前に真由美のS2000をパスして

緩い右、緩い左、そしてきつい左と連続コーナーが来る区間へ。


しかし、ここのきつい左への突っ込みで、真由美がインから無理やり突っ込んできた。

(うわ! そこまでブレーキを遅らせてくるの!?)

(こうでもしなきゃ逆転できねぇからな! ぎりぎりのスピードとラインで抜けられるところは抜けるんだ!)

再び前を取られた瑠璃だが、その後に来るのは長い直線。

(ここで終わらせるわよ!)

立ち上がりの加速で一気に再び追い抜き、振り切って真由美のSPゲージを一気に減らして、

真由美のS2000をぶっちぎって勝利した瑠璃だった。


(まだ自分に甘さが残っているというの…!? …あんな加速されちゃ、さすがの俺でも駄目だったか)

真由美はS2000の中で、無念そうに頭(かぶり)を振った。




(来たか)

最後はいよいよ令次だ。

瑠璃はタイヤもブレーキもこのバトルで使い切って、終わらせる覚悟だ。


連続シケインの2つ目を抜けたところでパッシングをしてバトルスタート。

見た目からしてすごかったが、加速は岸のNSX以上であろう。物凄い。

(は、速い!)

しかしコーナリングは…突っ込みのときに令次のブレーキングが早い。やはり軽量化してもGT−Rは重いのだ。

突っ込みで一気に食いつき、そのまま下りながらのきつい左コーナーで、ちらりとR34の左側からS2000の顔を見せる瑠璃。

少しでも令次にプレッシャーを与えておこうと瑠璃も必死だ。


立ち上がって新環状線と合流し3車線になる。事実上これで内回りを1周したことになる。

汐留S字コーナーが目の前に迫ってくる。

加速で再びS2000をR34が引き離すが、汐留S字でのブレーキングで瑠璃が怒涛の突っ込みを見せる。

(他の参加者は…いない!)

そのまま左コーナーでインからR34をパスし、次の右でアウトいっぱいまでコースを使いきり、分岐左のピットエリアに入らないよう

右車線に寄って前に出ることに成功。その先のトンネル内の高速S字コーナー、そしてその先に来る中速S字コーナーを抜ければ、

コーナーの突っ込みでついてこられないR34は、バックミラーに映っていなかった。


(ふっ…いいバトルだった。久々にゾクゾクしたぜ。…新たな伝説の幕開けか……)

令次は満足そうな表情で、アクセルから足を離した。



白石瑠璃、これでC1GPを完全に制覇! しかし、彼女の戦いはまだ終わっていなかった…。


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