第1部第8話


「手加減した訳じゃない…本気だった。俺の負けだよ」

「いや、流斗さんが勝ってもおかしくなかったです」

「…そうか。…それで、聞きたい事があるって言ってたけど…?」

「あ、実は…」

京介は電話の内容を伝えた。


「元暴走族…面白いじゃないか。…それで、そのNSXの奴だけど、多分俺等サーティンデビルズのメンバーだ」

「え?」

何と、NSXは同じサーティンデビルズのチームメンバーらしい。

「そいつは多分、四天王と呼ばれているうちの1人だと思う。でもそいつ性格が陰湿で…。俺等は嫌いだ」

「は、はあ」


だが、流斗は一息つき、首を横に振った。

「と言っても、まだお前さんは戦えないな。そいつ性格はそんなのだけど、めちゃくちゃ速い。それにまだその前に倒さなきゃいけないのが4人いるから」

目星はついた。四天王の1人の中に、そんな厄介なのがいるらしい。

「…それじゃ、次の奴…俺の師匠に連絡しておく。その人ともう1人…S2000に乗っている男がいるんだけど、その2人が次の相手だ」

「S2000…? もしかして、ユウウツな天使の元恋人じゃあ…」

S2000と言う単語を聞き、京介は思わず口に出す。


その言葉に流斗は目を丸くした。

「何でお前さんが?」

「あの…恵さん本人から聞いたんです。S2000に乗ってる人は元恋人だって」

「そうか…まああいつ等、一緒に環状線走ってたしな。それじゃ、健闘を祈ってる」

そう言い残し、流斗はアリストに乗って帰って行った。



3日後、環状線の芝公園PAで、京介はお目当ての車を見つけた。

「あのS2000か…」

無限のエアロを身にまとった、黒いS2000。中排気量車だが油断は出来ないであろう。

あまり雰囲気的には速くなさそうだが…。


そしてドライバーと思わしき男がそのS2000に乗り込もうとしたので、京介は声をかける。

「何だいあんた、俺に用か?」

京介はS2000の男に、自分が流斗を倒したことを話した。

「ああ…あんたが宝条京介…俺は確かに「ルシファー大塚」の大塚 誠(おおつか まこと)だ。よろしく」

「よろしく。そういえばこのS2000、ハードトップなんですね」

「ああ。重量は増したけど、剛性もアップした。FDでも負ける気はしないね」

「なるほど。ZKなら負ける気が俺もしませんが、FDでも全開バリバリで行きますよ」


だがその発言に、大塚の顔が変わる。

「え? 君バイクに乗ってるの?」

「ええ。あなたもですか?」

「ああ。プロのバイクレーサーだ。それでも最近は4輪の方が楽しいがな」

「プロ…!?」

何と、大塚はプロのバイクレーサー。当然レースの世界で活躍している。

「といっても、あまり良い成績は残せてない。レースの世界はマシンがほとんど物を言うし…」

そこではぁ、と息を吐く大塚。


…そして次の瞬間、大塚の目が変わった。

「…だが、プロに負けは許されない。やるからには本気で行く。プロとアマの間にどれだけの差があるのか、はっきり教えてやる」

「良いでしょう。望む所です。内回りで1周勝負だ!」

「なら、行こう」

FDとS2000がゆっくり走り出す。大塚は前のFDを見て、気合を入れる。

(俺はレースのプロだ。たとえ4輪でも素人相手に負けるようじゃ、話にならないからな!)

京介も気合を入れる。

(よし…行くぜ!)


PAを出た瞬間、2台の音が変わった。最初の汐留S字まで、大塚はぴったり京介のFDを追撃する。

アクセルをコーナーでほぼ一定に固定している大塚に対し、京介は小刻みにアクセルを踏み込む。

(クソ…420馬力もあると扱いづらいな。……はっ! まさかあのS2000は、わざと…!)


大塚のS2000は282馬力しか出ていないが、それはコーナーでパワーを使い切るため。

代わりに足回りをセッティングして、今ではこの環状線に合わせた仕様になっている。

282馬力のS2000が、420馬力のFD3Sを煽りまくる!

(パワーをもてあましているな。400馬力オーバー位か? 早めに抜いて、後半差を詰められないようにするか)


(ちきしょう!さっきからブンブンハエみてーにうるせぇ音出してんじゃねえよ!集中できねえ!)

だんだん京介はコンセントレーションが乱れていく。そして、それがFDにパワースライドを引き起こさせた。

(しまっ……!!)

とっさにカウンターを当てて修正するが、そのインから大塚のS2000が抜き去る。


この先はFD有利の銀座線だが…前に出たS2000はブロックして来る。

追われる方から追う側へ。夜なので大塚のS2000がよく見えない。

黒は闇に同化するので見つけにくい。

(落ち着け…どこかに弱点がないか確かめろ! 新環状だろうがC1、やるべき事は根本的には変わらない筈だ!)


銀座線は大塚が何とか凌ぎきり、再度内回りへと入る2台。

大塚の優勢は変わらずコーナリングで差を広げようとするが、京介もしぶとく食らいつく。

(ちっ、このまま行けば俺の勝ちだけど、もっとペースを上げなきゃな!)

舌打ちをしつつ、突き放そうと大塚はここでペースを上げる。だがそれ以上に、大塚は大きなミスを犯していた。


(まだ…行ける! 終わった訳じゃない!)

京介が自信を取り戻してきていた。大塚は仕掛けるのが早すぎたため、京介に精神的な余裕を取り戻させてしまった。

大塚のペースアップにも、京介は食らいついていける。

だが相手はプロ。ちょっとやそっとで動揺する相手ではない。

(バイクとは言え、俺はプロだ…負ける訳がない。こんなのレースやってる時には日常茶飯事だ!)

大塚はバックミラーを見ない事にし、一気にC1を駆け抜ける。


バトルは赤坂ストレートを過ぎ、高速セクションに突入。ここで京介が勝負を仕掛けるが、大塚も粘る。

(やはり来たか! 少し汚いが、絶対に前には出させない!)

ブロックする大塚。あまりにも必死だな…といいたくなるようなブロックだ。

(そこまでブロックするというなら…この先の左コーナーで勝負だ!)


高速セクションを抜け、問題の左コーナーに。ここで京介はアウトから仕掛ける。

(ったく…大人しくしてろっての!)

大塚はアウトにS2000を寄せて、ブロック。

だがFDは、アウトに寄ってきたS2000を避け、インにスパッと飛び込んだ。

(…フェイントだと!?)

極限までブロックすることに集中し、更にピッタリ後ろにつかれて焦ってしまった大塚は、あっさりと抜き返しを許してしまう。

もうこの他に抜き返すポイントはない。ここで大塚の負けが決定した。


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