第5部第14話
日光でのバトルを終えた翌週、次はRPバトルだ。場所は首都高サーキット外回りを選択。
天気は曇り。路面は乾いている。
中高速重視にギア比をセッティングし、2周勝負でのRPバトルに挑む。1周が長いのできつい。
首都高サーキットに着くと、またもや有名所のデモカーが並んでいる。
アルパインのAVユニットでフルカスタムした、アレイレルのアルテッツァも所有するアルパインのデモカー、アルパインNSX。
数々のタイムアタックで伝説を生み出してきたGT−R、MスピードR34。
ロータリーの神様的ショップ、RE雨宮が作り上げた白いRX−7、雨宮スーパーG。
レモンイエローが眩しいショップ「JUN」のデモカー、スーパーレモンGDBインプレッサ。
HKSがカーボンボディを使用して作り上げた、サイバーエボとは違うタイムアタック用ランエボ、HKS−TRB02。
かなり名を売っているマシンが勢揃いしている。
こんな化け物達を相手に、果たして瑠璃は勝てるのであろうか?
だがその前に、まずはそれぞれのドライバーにご挨拶。
HKS−TRB02のドライバーはまたもや外国人…瑠璃はそれほど驚かない。慣れって怖い。
「あんたが俺らに挑戦してきたんだって?」
「はい。白石瑠璃と申します」
「俺はグレイル・カルス。今回はハデにやらせてもらおう。HKS−TRB02も良い調子だ。ちなみに俺、普段はZ32で
首都高を攻めているんだけど、ここにはプロでは味わえない楽しさがあるんだよ! それを見せてやるぜ!」
続いてはアルパインのNSXの元へ。
「へ〜…女の走り屋とは珍しいね。噂は聞いてるよ。白石瑠璃さんでしょ?」
「あ…はい」
「やっぱりか。俺は橋本 信宏(はしもと のぶひろ)。やっとレースに復帰できたよ。普段は俺、マツダのユーノスコスモに乗ってるけど、
さすがにその車でここに来ようとまでは思わなかったな。…でも、ここにはF1で叶えられなかったものがある!」
どうも、前にもF1レースに出ていた事があるらしい。
瑠璃は何でやめたのかを聞いてみた。
「あー…やめたんじゃなくて、クラッシュしちゃってね。それで数年間腐ってたんだけど、またサーキットで腕磨いて復活できたって訳だ」
ブランクがあるにしろ、キャリアは相当長い物と見て良いだろう。NSXがどれほどのスペックなのかも注意しなければ。
次はMスピードのR34のドライバーと対面。
「君があのS2000のドライバーか。今日はよろしく。俺は兼山 信也(かねやま のぶや)だ」
「白石瑠璃です。よろしく」
「よろしく。アレイレルさんに勝ったらしいね? だが俺はどうかな…? 我、悟りの境地を見つけたり!」
聞くところによると、アレイレルは兼山の師匠であり、ドラテクを教えてもらっていたそうだ。
そしてサイバーエボの鈴木流斗は、兼山の弟子なのだそうな。
「師匠と弟子が負けて複雑な気分だけど、このR34はマジで速い。普段乗ってる80スープラや30ソアラより凄くパワーがあるからな」
重いマシンを扱うのには兼山は慣れていそうだ。
スーパーレモンGDBの男は、何やらパソコンを弄り回している。
「すいませーん…」
「あ……あっ? ああ、確かあんたは今日の挑戦者の?」
「そうです。白石瑠璃と申します」
「ああどうも初めまして。松原 周二(まつばら しゅうじ)です」
「データ計測…ですか?」
パソコンをメカニックではなく、ドライバー自身が弄るなんてあまり見たことがない。
「あー…そんな感じ…かな。はは…。普段NSXに乗ってる時も、よくやってるんだ。…でも、いちいち過去を詮索するな」
「あ…す、すみません。でも…凄いですね」
周二は絶対に言えなかった。動画サイトで気になる走りの動画を熱心にチェックして、それを実行に移そうとしていることなんて…。
最後はスーパーGのドライバー。何だか年季の入っている人だ。
「君がこのC1GPにチャレンジしてきた女性だな。俺は市松 孝司(いちまつ こうじ)」
「宜しくお願いします。白石瑠璃です」
「ああ、よろしく。マイカーもFDだから、今日の俺は結構調子が良いぜ。良いバトルが出来そうだ。
俺には長年渡り合ってきたライバルがいるんだが、ヤツに勝利してこそ真の覇者と言える! ここで負けるわけには行かないぜ!」
ポールポジションは信也。続いて周二、孝司、グレイル、信宏。
最後尾に瑠璃だ。
シグナルがレッドからブルーに変わり、バトルスタート!
良いスタートを切った瑠璃だったが、やっぱりC1GP。1台も抜けずにそのまま最後尾から攻めることに。
前ではグレイルがスタートダッシュで孝司を抜き、3位に上がっていた。
まずは信宏のNSXから抜いていかなければ。これはボルトオンターボのNSXだと言うが、幸いパワーはこっちの方が上の様だし、路面も乾いている。
いつものごとくプレッシャーをかけて揺さぶりをかける瑠璃。
だが信宏は動じない。それならば…ということで、連続シケインを抜けた後にやってきた長いストレートで、瑠璃はあっさり信宏をパスした。
(うわ、上には上がいるもんだな。だけど…まだまだ第二の人生、始まったばかりだ!)
負けることを苦と考えず、成長と考えて信宏はその後も走り続けた。
次は孝司だ。孝司も「白いカリスマ」と呼ばれていただけあり、かなり手ごわい。
マイカーがFDのため、FDの扱い方は1から10まで全て知っている。
コースは赤坂に突入。赤坂のストレートで孝司はS2000をパワーで引き離す。
しかしその後の、霞ヶ関トンネル入り口の右コーナーで一気に食いつかれる。
(くそ…離れない!)
瑠璃のS2000が全然離れない。だが孝司は自分を奮い立たせる。
(…焦るな。ストレートに入れば引き離せる!)
そう思っていたが…出口の下りながらの高速左コーナーでプレッシャーからアンダーを出した孝司を、インからスパッと抜いた瑠璃。
(…そこよ!)
(げ!)
孝司は相手がアグレッシブなほど強さを発揮し、どんなブロックでもスルリとかわすが、プレッシャーにはあまり強くないのだ。
(くそっ! …ヤツにたどり着くまで、足踏みは許されん……!)
ギリッと孝司は歯軋りをするが、その後もどんどんS2000のテールランプは遠ざかっていった。
お次はグレイルのTRB−02。霞ヶ関トンネルの次のトンネル、千代田トンネルの出口にある上りながらの
きつい右コーナーで追いつき、突込みからコーナリング。立ち上がりの一瞬までテールトゥノーズで揺さぶりをかける。
軽いカーボンボディのTRB−02はストレートが速い。
が、コーナーではさらに軽量のS2000が速い!
トンネル後の連続高速S字コーナーで一瞬の隙を突いてTRB−02をパス。そのままがんがん引き離す。
その光景を見たグレイルは、フッと笑みを浮かべ心の中でポツリと呟いた。
(気に入った。お前、いい走り屋になれるぜ)
2番手を走っている周二のレモンインプレッサに接近する、瑠璃のS2000。
(来たか! 俺も簡単に抜かせるわけには行かない!)
連続高速S字コーナーを抜け、銀座線に合流。パワーはこっちのほうが出ているが、立ち上がりでは負ける。
やるとすればコーナーと突っ込みで勝負だ。
(ここは3日前に見た、あの動画の攻め方で…!)
良くそんなの覚えてるなぁ、と自分に突っ込みを入れるが気にせず、銀座名物中央分離帯は左側から進入。
(このラインなら、最短距離で!)
が、そのアウト側から大きくラインを取ってコーナリングしてきたS2000が、あっさり自分のレモンインプレッサをパスしていくのを周二は目の当たりにした。
(は…はああああ!?)
周二はニコ動やユーチューブをあさるのが大好きで、車にノートPCを積み込み暇な時は動画チェックを欠かさない。
参考になりそうな走り方を動画で見つけると、それを実践するため走りに行ったりもする。
でも大抵失敗して帰ってくるのがオチ。
しかも今回は、C1GPでそれをやらかしたという最低のオチである。
(俺ももっと修行が必要だな。だがあいつとは…何も話す事は無い)
最後はMスピードR34GT−Rの、兼山信也だ。
まだ1周残っているが、抜くなら早めに抜いておかないと、タイヤもブレーキも消耗しきってしまいそうで怖い。
しかしこのR34、ストレートがめちゃくちゃ速い。コーナーはこっちが速いがストレートで取り返される。
TRB−02と同じくらい速いのだ。
(この先にあるコーナーといえば汐留S字! そしてその先にあるC1分岐への右コーナー!)
あまりのんびりもしていられない。軽いS2000とはいえ限界走行を続ければブレーキが利かなくなってしまう。
(利きがいい今のうちに、1回こっきりの超ヤバブレーキングで仕掛けるか…)
兼山はかなりうまいが、瑠璃にとっては抜けない相手じゃない。
まずは汐留S字前のトンネルのコーナーで接近。大きくラインを取り、瑠璃は立ち上がり重視でコーナリング。
ラインが苦しい分兼山のテールは一時的に離れるが、その分ワイドなコーナリングラインが描けるのでコーナリングスピードが稼げる。
そしてスリップストリームに入って、汐留S字の左コーナーで120%の突っ込み!
兼山も一緒になってコーナリングしようとしたが、R34の重さではブレーキングが足りずにアンダーを出してしまう。
そのままインから抜き去り、瑠璃は逃げる体制に入った。
自分の前に出て行くS2000を見て、兼山ははぁ、と息を吐いた。
(お前に敗れるようでは悟りなど、おこがましいな)
結果、チューニングカー軍団を1周目できっちりと抜き去った瑠璃は、2周目も抜かれることなくそのままゴールした。
残るはSPバトルのみだ。