第5部第13話


やっと夢見た舞台、C1GPへの挑戦権が獲得できた瑠璃。

C1GPは開催地が特に決まっていない。SP、RP、DPにそれぞれ5人のライバルがいて、参加者が自由にコースを選べるのだ。

主なコースは以下の3つずつだが、それ以外も選択可能。


SPは首都高環状線内回り、大阪環状線、鈴鹿サーキット(フルコース)。

RPは首都高環状線外回り、鈴鹿サーキット東コース、TIサーキット英田。

DPは筑波サーキット、鈴鹿サーキット西コース、日光サーキット。


ケリをつけるならやはり近いところがいい。

という訳で遠征地は首都高環状線外回りと内回り、そして筑波サーキットで決定だ。




まずやってきたのは筑波サーキット。DPのセットアップを施してピットに入ると、有名どころのデモカーがずらり。

アペックスワークスFD3S、ブリッツワークスR34、HKSワークスS15……まではよかった。

が、残りの2台はどう考えてもこれはおかしいだろうと思うもの。車種的な意味とカスタム的な意味で。


まずは黒い、元気のレーシングチームのステッカーが貼ってあるホンダのオデッセイ。

もう1台はボンネットにでっかい角を生やし、サイドに04だのホイールを赤く塗ってあるだのどう見てもシャ(ryな外見のマツダRX−8。

(こ、こなきゃよかった…)

しかしこの5台と、DPバトルでは戦わなければいけない。



まずはアペックスのRX−7から。

「君がDPでの参加を申し込んできた人か」

「白石瑠璃です。今日はよろしくお願いします」

「俺は藤尾 精哉(ふじお せいや)。一度は死んだ身……恐れるものは何もない」

「は、はあ」

いきなりそんなことを言われても意味がまったくわからない。そして藤尾は顔に大きな傷が2つもある。

この傷が何か関係でもしているのだろうか…?

「じゃ、まずは俺からDP、やらせてもらうぜ。言っておくが手加減は一切無しだ」


そしてその言葉どおり、最終コーナー、1コーナー、S字からヘアピン、そしてダンロップ。4つの区間でとんでもない数字をたたき出してきた。

何と44.444ポイント。1つにつき11.111ポイント以上稼がないといけない。これはとんでもなく難しい。

(うわあ…)


続いて瑠璃がスタート。スピードもそこそこに、でも失敗は許されない。

最終コーナーは慣性ドリフトでクリアし、1コーナー、S字、ダンロップまでの3つの区間は全てブレーキングドリフトでクリア。


出したポイントは……!

「32.341………」

「よしっ!」

かすりもしなかった。のっけから敗北の瑠璃、これから先果たしてどうなってしまうのだろうか…。




気を取り直し、次はHKSのS15シルビアの元へ。ドライバーは自分と同じく女だった。

「残念だったわね。藤尾さんはかなり強いから。この筑波ではありえないくらいのポイントをたたき出してくるわ」

「はい…」

「まー、そう落ち込んでても私とのバトルは始まらないでしょ。私は三浦 由佳(みうら ゆか)。藤尾さんには程遠いかもしれないけど、私もがんばるよ?

アメリカから帰ってきたばっかりでストレスたまってるから、思いっきり発散させてもらうわよ!」


由佳と名乗った女は「12時過ぎのシンデレラ」と呼ばれ、アメリカ帰りの帰国子女。アメリカでのレース経験もあるらしい。

「それじゃ、先に行くわね。……私は自由奔放に生きていく。シンデレラになんてなれなくてもいい…!」

由佳は最終コーナー1つで7ポイントをたたき出してきた。これなら何とかいけそうだ。


瑠璃はさっきのバトルでのもやもやを頭を振って打ち消し、同じく慣性ドリフトでクリア。

ボーナスポイントもしっかり加算してもらって出したポイントは7.549ポイント。ぎりぎりクリアである。

「あーあ…負けちゃあストレス解消できないわね……」




続いてはブリッツのR34スカイラインの元へ。

「ん? 俺と勝負する?」

「はい。白石瑠璃です。よろしくお願いします」

「瑠璃さんね。俺は宮川 哲(みやかわ さとる)。けど…テメェらのような馴れ合いで走ってるヤツ等を見るとムカムカするんだよぉぉ!!」

その言葉に瑠璃がきょとんとしているうちに、哲はさっさと準備のために奥に引っ込んでしまった。


と、それを聞いていた由佳が、瑠璃に話しかけてきた。

「あの人ね、「トゥルースライド」って呼ばれてて首都高では有名だったんだけど、その前は4ドアセダンばかりのチームのリーダーをやってたんだって。

でも、そのメンバーが謀反を起こして哲君は追放されてね。それからその人達を見返すために走ってるらしいのよ」


復讐か…。なんとも息苦しいバトルになりそうである。

哲はダンロップから2ヘアピンの2つの区間で、11.000ポイントをたたき出してくる。



これは大丈夫そうだ。続いて瑠璃がスタート。

ダンロップコーナーはサイドブレーキで進入し、コース幅いっぱいまで使ってドリフト。

2ヘアピンは十分に減速し、サイドブレーキで進入してアクセルコントロール。

出したポイントは13.269ポイントだった。


が、ピットで見ていた哲はかなり不機嫌そうである。

瑠璃はかかわらないほうがいいと思い、そそくさと隣のピットへ向かった。

「俺を……! 俺をバカにしやがってぇぇ!!」




そんな哲の雄叫びを聞きつつ、いよいよオデッセイの元へ。そこにいたのはまたしても女。

しかし瑠璃より結構年を食ってそうだ。

「…あなたが私に挑戦するって言うの?」

「は…はい。よろしくお願いします」

「ああ、そう。私は百瀬 和美(ももせ かずみ)。…あなたは私の惹き立て役に過ぎないのよ」

いわゆる自意識過剰なこの女…こういうタイプは瑠璃は苦手だ。

「は、はあ…」

「後、オデッセイだからって甘く見ないでね。一応FRに改造されてるから。じゃ、お先に」

和美がピットから出て行ったのを見て、瑠璃ははぁ、とため息をついた。あの女のそばにいると居心地が物凄く悪い。


当の和美はといえば、1コーナーからS字と1ヘアピンの2区間で16.000ポイントを記録。

あまりレベルは高くなさそうである。

瑠璃は1コーナーをブレーキングドリフトでクリアし、S字はサイドブレーキで、ヘアピンコーナーはこれまたブレーキングドリフトでクリア。

出たポイントは18.719ポイントである。


しかし和美は素直に負けを認めようとはしなかった。

「子供の遊びには付き合ってられないわ。そろそろ帰ろうっと…」

どこまでも自意識過剰なこの性格に、瑠璃は挨拶もせずに最後のメンバーがいるところへ。




最後のメンバーは悪い意味で目が当てられなかった。サーキットなのに某大佐のコスプレとは…。

車がこれならドライバーもこれなのか。

「ふふふ…ついに来たようだな、この舞台に。俺は白井 永治(しらい えいじ)。見せてもらおうか? ここまで勝ち進んできた貴様の実力を!」

ああ……ここまでこれか、と額を手で押さえる瑠璃。

「よろしくお願いします…白石瑠璃です」

DPバトルには変人が多いのか? と困惑しつつ、瑠璃は永治のRX−8を見送る。


永治は2ヘアピンから最終コーナー、1コーナーまでで17.000ポイントを記録。

勝てない相手ではない。というよりも負けたくない。

(絶対に負けたくないよね……)

2ヘアピンは哲の時とは違い、ブレーキングドリフトでクリア。

最終コーナーはおなじみの慣性ドリフトで、1コーナーはサイドブレーキを使ってクリアした。出したポイントは19.372ポイント。


モニターで見ていた永治は悔しい表情だ。

「ええぃっ! パワーが足りないというのか!?」



これで藤尾以外の4人には勝てた…しかし、藤尾の出したポイントだけはどうしても破れそうにない。

と、そんな藤尾からこんな提案が。

「コースを変えても良いけど?」

「え?」

「日光でもどこでも行って、俺はバトルしても良いよ」




瑠璃はその提案に乗り、翌日日光サーキットにやってきた。前日の夜に京介にこの事を話し、ギア比も変えてきた。

ここで藤尾は1コーナー、直角右コーナー、高速コーナーの3区間で21.000ポイントを記録。

これなら勝てない相手ではなくなった。

もう負けない。そんな思いを胸にコースへと飛び出す瑠璃。


メインストレートを加速して、サイドブレーキ進入で左コーナーをクリア。

同じく右直角コーナーもサイドブレーキで。最後の高速コーナーではそれなりに角度もついた慣性ドリフトでクリア。

出したポイントは21.329ポイント。


それをピットのモニターで見ていた藤尾は、自分が負けたのを確認すると同時に、首都高で以前負けた時に

大クラッシュしたあの記憶が蘇って来て、頭を抱えた。

「なぜあの記憶が蘇る……!!」

何はともあれ、これでC1GPのDP部門は制覇だ!


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