第5部第12話
ライバルをあまり倒していないのはここ、鈴鹿サーキット本コースだけとなった。
そして、おそらくフィールド3ランクAのマスターが出てくるのも、ここだ。
フィールド3は和人がDP、緒美がSPだったため、多分RPバトルでの勝負になるだろう。
1周が長いので集中力と精神力が問われるコースでもある。
それでも首都高サーキットに比べれば、1周は長くないのでその分少し気楽ではある。
東コースと西コースを組み合わせたレイアウトなので、それぞれのコースの走り方を組み合わせて攻略していく。
ただ、ダンロップコーナーとデグナーカーブは西コースで走ったときより、進入スピードが高くなっているので注意が必要だ。
500馬力を使い切って、毎週末は鈴鹿の本コースを走りこむ。
低速コーナーの立ち上がりでは後ろにバラストを載せているとはいえ、じわりとアクセルを踏まないとホイルスピンしてしまう。
ヘアピンコーナーやスプーンカーブ、デグナーカーブではそれに気をつけなければいけない。
GT−Rやインプレッサ、ランエボならまだしも、後輪駆動でハイパワーともなればトラクションが全然かからないからである。
もちろんライバルとのバトルは欠かさずに行った。
パワーの差で負ける相手には連続S字や130からシケインの区間で仕掛け、一気に振り切るという作戦も有効であった。
走り込みを始めて1ヵ月後。季節はもう秋の中盤だ。早くしないと雪が降ってくる。
雪が降り始めたら最後、4WDが相手として出てくれば勝ち目がない。
その前に何としてもC1GPを制覇する!
その思いを胸に、鈴鹿に現れたというフィールド3ランクAのマスターの元へ向かった。
鈴鹿に着くと、やはりRPバトルでの開催と明記されていた。
ピットにグレーのS2000を滑り込ませ、出走の準備に取り掛かる。
ギア比は鈴鹿に合わせた、中速重視に京介がしてくれたのだ。
天気はあいにくの雨だが、このランクAのマスターを倒せばいよいよC1GPにチャレンジできる。
どんな相手が来るのだろう、とひとしきりピットを回ってみることに。
すると見たことのある人が1人…。その隣には、黒のC33ローレル。
「あれ?」
「お…よう、元気にしていたか?」
そう、林友也である。
しかも衝撃の事実が彼の口から明かされた。
「ずいぶん腕を磨いたらしいが、俺も同じく磨いたんだよ。今回も勝たせてもらう。今の俺はフィールド3ランクAのマスターだからな」
「え…?」
「スカウトされたんだよ。俺は街道サーキットってところで1度トップに立ったんだ。俺の前にトップだった石田って人も、
フィールド1ランクAのマスターとして活動しているって話だけど。お前に負けたって話は聞いた。が、俺はどうかな?」
あの石田義明も、街道サーキットの覇者だったのか。
「私はもう負けるつもりはありません。勝ちに行きます」
「はっ、いいぜ。その挑戦受けてやるよ」
瑠璃はスターティンググリッドへ。ポールポジションが友也、最後尾に瑠璃である。
シグナルがレッドからブルーに変わり、スタート!雨は加速力がめちゃくちゃ悪い。まして後輪駆動ともなれば最悪だ。
じわりじわりとアクセルを踏み、ホイルスピンを極力抑えて第1コーナーへ。
ブレーキも利きにくいので早めのブレーキでしっかり向きを変え、立ち上がりでまた少しずつアクセルを踏む。
それは友也も同じであった。
友也は前に街道サーキットでやったような豪快な走りは避けて、堅実に走る。
(雨となるとトラクションかかんねー。R33だったら気にならないんだがな!)
愛車のC33ローレルは、480馬力までパワーアップされている。が、車重は
軽量化しているとはいえS2000より若干重たい。
(さて、瑠璃はどこからどう来る?)
その頃、瑠璃は逆バンクで順位を1つ上げて5位に浮上。
立て続けに4位のダンロップコーナーで、アンダーを出したR33GT−Rをインから抜きこれで4位へ。
デグナー、ヘアピンを抜けて200Rへ。
その後に来るスプーンカーブではアウトいっぱいから立ち上がり重視でコーナリングし、バックストレートへ。
そこで3位のランエボ8の後ろにぴったりと張り付いて、スリップストリーム!
張り付いたままで130Rを抜け、シケインへのブレーキングでランエボ8をぎりぎりでパス。さらに前を走っていたGDBインプレッサの後ろに張り付き、
メインストレートから1コーナーへの突っ込みでパス。瑠璃はこれで2位に上がった。
2周勝負なので残りは1周!
自分の腕を信じてS2000を加速させていく。丁寧に、リズミカルに。踏めるところはきっちり踏み、コーナーではアウトインアウト!
すると心なしか、だんだんとローレルとの差が縮まってきている!
(まだ…いける!)
ローレルとの差は大体3秒ほど。この先のデグナーまででどこまで差を詰められるか。
連続S字の最後の左コーナーは大きく回りこみ、そのままダンロップコーナーへ繋がってデグナーへ続く。
左コーナーで多少大きめにラインを取って、じわりとアクセルを踏み込んでスピードを稼ぐ瑠璃。
バトル中に相手に引き離されると、あきらめてバトルを投げ出してしまうのがいつもの瑠璃。しかし今回は
差がつまっていることを確認できたのでやる気を取り戻してきた。
デグナーを抜けてヘアピンへ。そこの立ち上がりでは慎重に、ホイルスピンさせないように丁寧にアクセルを踏み込む。
雨の中でのアクセルワークも、自然と身に付いてきた。
じわじわとアクセルを踏み込んで加速し、少しずつ大きくなってくるローレルのテールを見つめる瑠璃。
そしてついに、130Rの前でテールトゥノーズ!
(来たな! でも後は130Rとシケインさえ押さえきれば・・!)
もう後がない、と確信して前だけを見て走ることにした友也。
だが瑠璃は最終コーナーまでを視野に入れて、どう抜くか考えてみる。
(あの人は多分、もう後がないと思っているはず…でも、そこを何とかしなきゃ私はC1GPで勝ち抜いていけない!)
130Rで同じ速度、同じラインで進入し、ローレルのスリップストリームへ。
そしてシケイン前で、イン側に並びかける!
(こ、ここで来るのか!? でもそのラインじゃきつい! 一旦前に出られたとしても…!)
イン側から入ったS2000、アウトインアウトで抜けようとするローレル。
ここでS2000が前に出てラインがクロスし、ローレルがイン側、S2000がアウト側に。
(後は踏みっきりの勝負よ!)
(ここで俺が前に出る!)
そしてまたラインがクロスし、S2000がアウトからインへ、ローレルがインからアウトへ。
ここで2台とも同時にアクセルオン!
アウトからローレルが伸びてくる! 果たして瑠璃は逃げ切れるのか・・!
(行っ……た!)
(負けた…かぁ!?)
ほんの僅かにリードしてローレルが先にゴール。友也も負けを認めたようである。
ピットに戻り、友也の方は振り返らずにそのまま鈴鹿を出て行く瑠璃。
(チッキショーーー!! いつか必ずあいつを超えてみせるからな…!)
そんな友也の心の叫びは、虚しくピットに消えていくのであった。