第5部第9話


拓也を倒した瑠璃は、そのまま東京に戻り自分がAランクに昇格したことを確認する。

これでまたいけるコースが3つ増えた。

鈴鹿サーキット全体を使う鈴鹿フルコース。

栃木県の日光サーキット。

首都高環状線サーキットの内回り。ただし、夜限定だそうな。



フィールド1,2,3のランクAのマスター3人を全員倒せば、ついにC1GPに出場できるのだ。

他に倒していないマスターは、フィールド3CとBのマスター2人。


季節はもう夏の中盤である。走り始めてから体つきも少しは良くなってきた瑠璃ではあるが、さすがに車の中は暑い。

町乗りでも窓全開だ。

(暑いなー…)

サーキットではそれに加えてレーシンググローブ、ヘルメット、レーシングスーツ。

イコールかなり暑い。周回数が少ないのだけが救いか。

暑さに負けない体力を作るため、瑠璃は毎日家へ帰ってから筋トレも始めた。

意識を失いでもしたら大変だ。



さすがにランクAともなるとライバルの車のスペックも相当に高い。

GT−R、ランエボ、インプレッサ、スープラ、NSX、RX−7などがかなりのチューンを施して走っている。

これでは勝ち目がない。


そこで拓也と流斗を倒してもらった賞金、総額140万円でさらにS2000をチューンすることに。

エアロ類は後回し。まずは中身からである。

ブレーキやサスペンションを最高級の物に交換し、エンジン関系にさらに手を加える。

ロールケージを組み込み安全性の配慮も欠かさない。軽量化も内張やオーディオなどを外す。

ハイグリップタイヤも装着し、速いコーナリングが実現できるようにする。


残った金は4万ちょっと。

エアロ類はウィングしか装着していないので、何ともバランスが悪いが

ひとまずはこれで良い…はずだった。




週末に、首都高サーキット環状線内回りへと走りに出掛ける瑠璃。

パワーは450馬力まで上がり、車重もだいぶ軽くなった。


ストレートに入ってアクセル全開のまま、目の前に迫ってきた高速コーナーを抜けようとした瑠璃だったが…! 予想以上に曲がらない。

あわててブレーキを踏んだが、それが車を不安定にさせなんと車が横を向いてしまった!

(くっ!)

逆ハンドルを切るが、今度は反対にノーズが向いてしまう。

とっさにサイドブレーキを引き、4回転くらいスピンしながらも何とか壁との接触は免れた。

(はあ…死ぬかと思った…!)



原因はエアロパーツのバランスの悪さ。フロントに車を地面に押しつける力…ダウンフォースが効かないので、

フロントの加重が抜けてアンダーステアになり、慌ててブレーキを踏んだので

今度は加重がフロントに行きすぎてリアの加重が抜ける。そしてオーバーステアが出てしまい、スピンにつながったのだ。

(あー…怖かった!)


エアロパーツは次の給料までは我慢するしかない。しっかり減速して、アンダーステアを出さないようにドライビングする。

他の参加者をちまちまと倒し、チームを組んでいるライバル達もしっかりと倒していく。

首都高環状線内回りだけに留まらず、鈴鹿や筑波まで遠征にも出掛けていた。



3週間後。1日に長く時間をかけてバトルし、あらかたランクAのライバルを倒してきた瑠璃。

C1GPのHPを見ていると、首都高サーキット内回りにマスターが出現してきたらしい。SPバトルで勝負とのことだ。



早速数日前に出た給料で、無限のエアロパーツで武装したS2000を走らせて首都高へ向かう。

首都高に着くと、隣には見たことがあるニュービートルが…。

(あれ? 隣の車って…)


ひょい、とピットを覗いてみると、そこにいたのはやっぱりあの人だった。

「あら? どうもこんばんは、瑠璃さん」

「つ、緒美さん! どうしてここにいらっしゃるんですか?」

「どうしてって…ここに来るはずの挑戦者を待ってるんだけど…貴方も参加するの?」

「はい。フィールド3ランクBのマスターが現れたというので、ここに来たんです」



その一言に緒美の顔が変わった。

「ああ…だったら話は早いわね。準備しましょ」

「え、まさか…!」

そのまさかであった。この山下緒美こそ、フィールド3ランクBのマスターだったのだ。

聞けば岡山で別れた後、首都高サーキットで1度トップに立ったと言うことで委員会からスカウトされたらしいのだ。


「相当腕を上げたみたいだし、車を買い換えてS2000にしたみたいね」

「はい。180SXから乗り換えました」

「そうなの…。パッと見はかなり厳ついけど、中身はどうなのか…SPバトルで勝負よ。私もマスターとして、そう簡単に負けるわけにも行かないから」




そして、いよいよこの2人のバトルがスタートする。スタートはC1内回りの江戸橋を過ぎてから高速コーナー区間があるのだが、

そこを過ぎたところにある大宮と渋谷への分岐からローリングスタートだ。

スタートは瑠璃が好きなタイミングを切れる。

(緒美さんに勝てるかどうか…! 勝負!)


分岐の看板をくぐったところでアクセル全開!

瑠璃のS2000は良いスタートダッシュを見せたが、ビートルはそれ以上に鋭い加速を見せて前を獲る。

やはり向こうは4WD。スタートダッシュでは負けていられない。



が、冷静に考えてみればパワーに差があっても、このバトルは十分に勝ち目がある。

SPバトルは他の参加者も走るので、思いがけないアクシデントがあったり車線を塞いでいて前に出られなかったりする。

ましてこの首都高環状線は2車線。

他の参加者が真ん中を走っていれば、先行していてもあっという間に追いつかれたりもするのだ。



緒美のビートルはチューニングされ、360馬力を絞り出す。軽量化もされて重いボディを出来る限り軽く。

(あの軽量FRマシンのS2000で、どこまでついてこられるかが楽しみね)

既にぶっちぎること前提で考えているらしい。


(さすがランクBのマスターだけあって、速い! でも私も負けるわけにはいかないのよ!)

勝ちたい。岡山で負けたままじゃ終われない。

霞ヶ関トンネルを抜けて赤坂ストレートへ。ここで瑠璃は緒美のスリップストリームに入り、横に並びかける。

そのまま追い抜かせると思った瑠璃だったが、目の前に黒い、ZZT231セリカが立ちふさがってしまいまた緒美の後ろへ。


(首都高はそこまで甘くない! 他の車の動きを読めないと、勝てないわよ瑠璃ちゃん!)

ブランクこそあるが、それでも往年の速さは伺える緒美。



瑠璃はどう対抗するかをまず考える。プレッシャーをかけても全然平気そうだし、ならさっきのように広い道に出て追い抜くしかない。

この首都高で、3車線になる区間がこの先にあるのだ。

(汐留S字…! そこで勝負よ、緒美さん!)

東京タワーを左に見つつ、連続シケインをクリア。

下りながらのきつい左コーナーを抜ければ、新環状線と合流して3車線になる。

ここの出口で、瑠璃は再びスリップストリームに入る。そして汐留S字の左コーナーで、緒美を抜きにかかった!



(ここで来るの!?)

緒美は左コーナーでアウト側。だが次の右ではイン側になる。まだ行ける…と思った緒美であったが、そのイン側には何と赤いFC3Sが…!

瑠璃はアウト側キープのまま、大きくラインを描くことが出来てそのままクリア。


(ここで……これか。…ついてないわね)

緒美はアクセルから足を放して減速し、アウトに寄ってS2000の後ろに引き下がる。

アウトに寄ったことでスピードが落ちてしまった緒美は、瑠璃のS2000に大きく引き離されて勝負ありだ。


第5部第10話へ

HPGサイドへ戻る