第5部第7話

第5部第7話


S2000をチューンしてさらに1ヵ月後。

パワーは330馬力にまで上がり、セッティングでリアのふらつきも何とか押さえられるレベルまできていた。

S2000自体にもだいぶ慣れた瑠璃は、今日もまた鈴鹿西コースへと向かった。


…が、そこには1台、異彩のマシンが。

(あれって…)

三菱のランサー…と言っても、ただのランサーではなかった。

サーキットでのタイムアタック専用車両、サイバーエボである。そんな車がどうしてここに?

その横では1人、レーシングスーツの男が準備をしている。

オレンジの髪に緑の瞳…しかも目がでかい。



と、その男は瑠璃に気がつき、瑠璃のほうへ歩いてきた。

「あー…ちょっとちょっと。ここら辺は関係者以外立ち入り禁止なんだよ」

「あ、いえ、私もRPバトルに出るんです。こんなすごいランサーと一緒に走ることになるのか…って思って」


その言葉に男は目をきょとん、とさせる。

「え? お前が出るの?」

(お前って…馴れ馴れしいな)

馴れ馴れしく話しかけてくる男にムッとする瑠璃だが、落ち着いて対応する。


「は、はい。隣に停めてあるS2000で…」

「へぇ〜、珍しいね、女の走り屋って。俺も長いこと走り屋やってるから、お手並み拝見だな。名前は?」

「…白石瑠璃です」

「白石さんね…。俺は鈴木 流斗(すずき りゅうと)。フィールド2ランクCのマスターだよ」

「あ…」


マスターだったのか…だからこんなマシンに乗ってくることが出来るのか、と納得。

「まぁ、急がば回れ、無茶はしすぎずだ」

こんなハイパフォーマンスマシンと一緒に走る…やるからには勝ちたい。今の自分でどこまで通用するかが楽しみでもある。




スターティンググリッドは3番手から。流斗はポールポジションだ。

シグナルがブルーに変わりバトルスタート! ロケットスタートを決めて2位のアルテッツァを抜いて、2位に浮上した瑠璃。


が、流斗のランエボはストレートがめちゃくちゃ速い。

今回は3周勝負で天気は晴れ。さすがに4WDに雨で挑むのはきつかったであろうから天気には感謝したい。

が、それでも戦闘力の差は歴然としている。



130Rはほぼノーブレーキで駆け抜ける。しかし、高速コーナーでも差が縮まらない。

次の西コースへ行くための、右直角コーナーではどうか?


ここのブレーキングではこっちの方が軽量らしく、少し差をつめることが出来た。高速ブレーキングももう今ではバッチリだ。

インからちらりと姿を見せ、瑠璃は流斗にプレッシャーをかける。

(どうかしら…?)



デグナーまでの区間ではランエボが速く、瑠璃のS2000は引き離されるがデグナーの突っ込みで差を詰め、さらにプレッシャーをかける。

2周しかないので早めに勝負を決めなければ。

ヘアピンを抜け、スプーンカーブまでの超高速コーナーでS2000が一気に差を詰め、スプーンカーブへ。

(突っ込み勝負…と見せかけて!)

ブレーキング勝負を持ちかけるぞ…とフェイントをかけ、自分だけ早くブレーキング。


(え? フェイントだと…!?)

突っ込みすぎて失速したランエボを、瑠璃は易々とインからパスし、メインストレートでアクセル全開!


(くっそ…女だと思って甘く見ていたが、違ったみたいだな。…まだまだここからだ!)

ストレートで一旦ランエボがS2000をパスするも、130Rへの突っ込みで横並びになる。

そしてランエボが少しリードしたまま、右直角カーブへ。ここでランエボが前へ出る。


(このままじゃ負ける…!)

(手の内はもうわかった。内側に飛び込ませなければ良いんだろ!)

インをがっちりブロックして、デグナーへ進入するランエボの流斗。


瑠璃はこの時点であることを考えた。しかし、成功するとは限らない。でもやってみるしかない!

(インがダメならアウトから…!)



ヘアピンでも流斗はインは開けない。

が、これだけ外から突っつかれると、いくらランエボでもコーナリングスピードががた落ちになってしまう。

そこで、ライン取りを流斗は少し変える事にした。

(インに1台分は絶対入ることができない、ギリギリのラインで進入すれば…!)



そして2回目のスプーンカーブ。

瑠璃がアウト側にラインを振ったのを見て、流斗はインには来ないと確信。イン側を開ける!


しかし、それこそが瑠璃の狙いであった。

(私が外から行くと何回も見せかけて、インを開けさせる!)



(い、いつの間に!? ウソだろ…何が起こった…!?)

フルブレーキングしながらインに強引に突っ込み、瑠璃は2度目のスプーンカーブでも、前に出ることに成功。

もう抜き返すポイントは流斗には残っていなかった。



(は…やられたな。俺の負けだ。お前がどこまで上っていけるか見届けてやる)

そう心の中で呟き、流斗はゆっくりとアクセルから足を離した。


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