第5部第6話
TIサーキットに行った日の翌日、日曜日。
瑠璃は大阪環状サーキットにやってきていた。帰り道は大阪を通ることになるためだ。
大阪環状サーキットではこの日、フィールド2BランクのSPバトルが繰り広げられている。
スピード領域はフィールド2の中で最も高く、速い車では300キロオーバーも夢ではないのだ。
アレイレルを倒して、もらった賞金で180SXをさらにチューンする…前にここに来た瑠璃は不安を覚えていた。
明らかに他の車とは、スピードの伸びが悪い意味で違う。
左上にあるS字コーナーでは追いつくことが出来るので、そこだけにポイントを絞って撃破しようと試みるも…やはり勝てないことが多い。
勝てるときもあるが…今のままでは相当厳しいだろう。
早々に切り上げ、東京へと戻った瑠璃は180SXをさらにチューン…するか、車を買い換えるか迷っていた。
このままチューンするよりかは、もっとパワーのある車がいいだろうか…それとも180SXのままで行くか。
アレイレルを倒してもらった金は130万。
悩みに悩んだ末、これで…車を買い換えようと決めた。
ターボだと雨の日にアクセルを踏み込んだときに加速しないのでNAのマシン。
でもドリフトバトルもあるので4WDやFFでは勝ち抜けないだろうと判断してFRかMRのマシン。
そしてパワーがあるマシンだ。この条件に当てはまるマシンは日産の新型フェアレディZ、新型スカイラインクーペ、ホンダS2000、NSX、
トヨタのハチロク、MR−S、マツダの新旧ロードスターなどなど…。
まずNSX、新型Z、スカイラインクーペは除外。高すぎる。明らかに予算オーバーだ。
ハチロク、ロードスター、MR−Sも駄目。パワーが無さ過ぎる。
となると、残ったのは1台のみ。ホンダのS2000である。
カタログスペックで250馬力だが、実際は230馬力くらいしか出てないとのこと。
だがそれでも180SXよりは明らかにパワーがあるし、NAなのでエンジンの吹け上がりもいい。
FRなのでドリフトも出来る。居住関係はこの際考慮するのはやめた。
最終的に軽量化などで、助手席まで取り払ってしまいそうであるからだ。
後は130万円でどこまで程度のいい車体が見つかるかどうか…。
1999年の発売から6年が経過している今、最初期型でどこまで値段が落ちているか。
新車で発売された当初は338万であった。
中古車雑誌を片手に東京都内で検索する瑠璃。
すると1台、125万円で程度のいいノーマルの車体があった。諸経費は後に追加で払うとして、瑠璃は早速そのS2000を購入。
数日後、180SXを下取りに出しその金で諸経費分を支払う。
手元に残った金は3万ちょっと…。しばらくはノーマルでバトルするしかなさそうである。
灰色のS2000が鈴鹿西コースをかっとぶ。ノーマルでも結構走れるこのS2000ではあるが、やはりパワーが足りない。
さらにスピードを上げていくと簡単にリアがすべる。路面のうねりで安定もしない。足が仕事をしていない。
(ノーマルだとこんなセッティングなの…?)
オープンカー故のボディ合成の不足か? 50:50の理想的な重量配分を謳(うた)っているが、コーナーの立ち上がりでリアがすべるのは危険だ。
しかもノーマルのシートの位置が高すぎる。少し下げないと頭をぶつけそうだ。
このことから考えて、まず次の給料でどこからチューニングするかを考える。パーツだって安くはない。
タイヤだってオイルだってただではない。本気で走るなら金はいくらあっても足りない。
まず考えたことはエンジンの強化。コーナリングのレベルは高いが直線が遅くては勝ち抜いていけないだろう。
が、エンジン関係のパーツは高い…。
それは後回しにして、まずはブレーキ関係を交換する。止まれる事は一番安全性に関わる事だ。
それから180SXからバケットシート、スポーツノブ、ステアリングなどを移植。安く済ませられるところは徹底的に安く済ませる。
あとはフィールド1Cランクの参加者とちまちまバトルをして、小金をじっくりと稼ぐしかなさそうだ。
チリも積もれば山となるをモットーに、瑠璃はS2000と共に走り出した。
そして1ヵ月後。バトルとブティックの給料を合わせて貯めた金を使いきり、大体の問題は解消できた。
エンジン、給排気関係はハイカムに交換、エキマニを交換、マフラーを交換。全て無限製だ。
これだけで250馬力は出たか…?
足回りはサスペンションを交換し、これから硬さを調整する予定だ。
タワーバーも組み込む。これでしっかりとしたコーナリングが出来るようになった。やはりボディ合成が不足していたのだ。
シートの位置もレールを加工して低く設定。
GTウィングを取り付け、リアにしっかりとダウンフォースを発生させてボディを押さえつけ、リアをブレイクさせにくくする。
それから毎週末は、鈴鹿や首都高サーキットで走りこみとセッティングの日々である。
整備解説書を片手にS2000の下へ潜り込み、僅かずつではあるがメカに詳しくなっていくのもまた楽しい。
こうして、毎日が過ぎていくのであった。