第4部第15話(エピローグ)
由美とのバトルから2週間後。友也は再び阿蘇へやってきていた。
父親が倒れて病院へ運ばれてしまったというのである。
幸いにもただの過労ということであったので、無理をしないように忠告しておく。
友也の父は「会社の皆さんに迷惑をかけてはいけないだろう、早く仕事に戻れ」と言ってきたのだが、休みはあと1日だけ残っている。
家に居ようか? と言っては見たのだが、「まだ介護が必要なほど、俺は年老いちゃいない」とも言われ、
残りの1日は阿蘇を走ることにした。
最終週のこの日の天気は大嵐。風が強く雨も土砂降りだ。
それでも4WDのR33はお構いなし。雨が降ろうが雪が降ろうが平気である。
頂上まで上りきった友也はPAへ入る。
すると、1台の車が停まっているではないか。その車は黄緑のR34GT−R。
しかもドライバーは髪が長い。女…?
それにしても、かなりの威圧感をそのR34からは感じる。
と、ドライバーが中から降りてきた。
やっぱり女だ。しかも傘を片手にこっちに歩いてくる。そしてその女はR33の窓をコンコンと叩いてきた。
「…何か御用でしょうか?」
「隆から話は聞いているわ。あなたが隆君を倒したR33の人でしょ? ここで待っていれば、いつかは会えるような気がしたの」
近くで見るとものすごく若い、髪も瞳も緑の女はそう言ってきた。
「凄い奇遇ですね…。俺は明日神奈川に帰るんですが、あなたはあのR34の持ち主ですか?」
「そう。私は小実奈 由紀(こみな ゆき)。一応、孤高なる女帝って…呼ばれてはいるけどね」
その言葉を聞いて、友也は隆の書き込みを思い出した。
隆の知り合いだということをほのめかす、この由紀という女…女帝だ。
「女帝…あなたが女帝…」
「私とバトルしてほしいわ。隆の計画は街道サーキットを潰すことだったの。それを止めたあなたは…熱い走りをしてくれそう」
なんともこの女は不思議なオーラを漂わせている。
先行後追いで由紀が先行。下りのフルコースだ。由紀が飛び出し、友也も続けてスタート。
加速は若干由紀のR34が速い。
視界が悪い中、まず右ヘアピンへの突っ込み。ここでV字ターンを繰り出して、友也は由紀の前に出る。
(やるわね…)
しかし由紀も負けては居ない。とにかくドリフト時のスピードが半端ではないのである。
GT−Rでは難しいドリフトを難なく繰り出し、しっかりとタイムも出すのが由紀の走り。テールトゥノーズに持ち込んで友也を追い掛け回す。
友也のR33はスリックタイヤなのでグリップが悪いが、そんなのを理由にしてもしょうがない。
バトルはバトルだ。
前だけを見てアクセルを踏み込む。とにかく突っ込みのスピードを高めてドリフトを封印し、由紀を引き離しにかかる。
その中で友也はこんなことを考えていた。
(俺は…峠だけにこだわってきたわけじゃない…。ここで終わりたくはない。できることならもっと広いステージで、大勢のライバルと戦いたい)
その思いが由紀を引き離し始める。
(ペースを上げた!?)
このままではまずいと思い、由紀もペースアップ。
しかし友也は別のことを考え始めていた。
(R33の調子がおかしい…!)
何だかボディ全体がねじれてきたような…ボディもガタが来ている…? しかしこのバトルをリタイヤするわけにも行かず、最後まで走りきる!
突っ込み重視の走りから立ち上がり重視の走りへ変更し、だらーんと曲がる右コーナーからストレートへ。
そしてリズミカルにS字コーナーを抜けた後、左直角コーナーを立ち上がり重視で抜けて全開!
(引き離される…!)
小実奈由紀、50mの差をつけられここでスローダウン…。
友也のR33は闇の中へと姿を消した。
由紀とのバトルを終え神奈川に戻ってきたが、R33はもうヤレがひどい。ここまで走ってこれただけでも凄い。
勝負、勝負の繰り返しで、かなり酷使していたようだ。
2度目は自らの手で、R33を手放さなければならなくなったようである。せめてもの償いに、
自分自身で最後のメンテナンスをして売りに出す。
ボディを磨き、エンジンを整備し、内装も出来る限り元に戻す。次に買った人が出来るだけ快適に乗れるように…。
今までのことを回想しながら、友也は作業を進めていく。
首都高でローレルを取られたこと。
それから必死に働きR33を購入したこと。
そのR33で隆に負けてクラッシュして廃車にしてしまったこと。
それからスターレットを購入してから、今までの箱根、榛名、赤城、第1、第2いろは坂、表六甲、蔵王、阿蘇でのバトルの数々。
それらを全て思い返し、もう街道には思い残すことは無いと感じた友也は
新たなステージへ移ることを決意する。
週末の金曜日。会社帰りに友也が立ち寄ったのは中古車センター。
「いらっしゃいませ。どのような車をお探しですか?」
「C33ローレルが欲しいんですけれど、良いのってありますかね?」
「はい、ありがとうございます。こちらへどうぞ」
そのままR33を売却して、受け取った70万で、黒のC33ローレルを購入した友也は、会社帰りのまま静岡県へと向かっていった。
C33と共に新たなステージ…サーキットへ踏み込むために。
第4部 完