第4部第14話
そしてついに運命の日がやってきた。天気は運良く晴れ。この日を逃すとまた次の月末まで待たなければいけない。
しかもこのバトルが終わったら、神奈川へ戻るのだ。
走り納めとして、あの因縁のS2000とバトルする。
日曜の晩に、早めに行って新しく買ったスリックタイヤを装備。智史を倒すと150万もらえたので、タイヤもバンバン履きかえる。
空気圧…よし、油温、水温、油圧よし。
そのままエンジンを切ってR33のシートに座り、奴がくるのを待つ。
その時、1台の車の音が聞こえてきた。VTECのエンジン音にブローオフバルブの音も混じっている。
(ターボ…?)
やがて友也の前に現れたのは、黄色のS2000。カーボンボンネットとGTウイングを装備している。
間違いない。箱根で出会ったあの…!
友也はR33から降りると、一直線に停車したS2000に近づいていった。
「おい…あんた」
「あ? 俺になんか用か?」
「忘れたとは言わせないぜ。数ヶ月前、箱根で俺のR33とバトルしただろ?」
「あ〜? そんな昔のことなんざ覚えてねーよボケが! 何? 俺とバトルしたいの?」
「そうだ」
すげぇガラの悪いドライバー。
友也は自分がこんな奴に負けたのかと思うと、悲しくなってくる。
「まぁ、いいけど。その代わり、俺が勝ったらこの街道にはもう2度と来るな。
今俺は最強のラリーチームを作っているんだよ。弱い奴はこの街道にはいらねぇ。速い奴だけで十分だ」
「何だと? それは…街道の走り屋を追放するって言ってるようなもんだろ!」
「そうだ。そして、今からそのプロジェクトはスタートする。お前がその追放者第1号としてな!」
なんて自分勝手な理由だろうか。ここまでひどい奴だったとは…。
「なら、それを阻止してやるよ!」
「お前がか? フン、面白い。正面切って俺に勝負挑んできた奴はこれで2度目だぜ。名前を教えてもらおうか? 俺は上原 隆(うえはら たかし)だ」
「林友也だ。バトルのやり方は?」
「SPバトルでダウンヒルだ。こっちは準備できてるんだぜ? さっさと車を並べろ!」
区間は頂上から空のガライヤに並んだ、だらーんとした右コーナー後の直線の途中まで。
スタートは友也が好きなタイミングで切れる。
(…よし、行くぜ!)
アクセルを煽って友也がスタート。
遅れて隆もスタート。最初の加速では先行できたが、隆のS2000は中間加速の伸びがすごい。
VTECエンジンにターボの組み合わせは驚異的だ。
(見せ付けてやるぜ、S2000の凄さじゃなく、俺のテクニックの凄さをなぁ!)
最初のヘアピンへの突っ込みはR33が速い。ここまで突っ込む奴はいないのだろうか?
そしてその後のストレートでもS2000を引き離す。
だがその後の連続コーナーへの最初のブレーキングでは、思いっきり差を詰めるS2000。
しかし…街道最速になり、あの強敵ガライヤとの死闘も制した友也の前にもう敵はいなかった。
連続コーナー区間を過ぎ、立ち上がりで隆を引き離す友也。
そしてS字、直角コーナーをテンポよくコンパクトにまとめてストレートで全開にすれば、
隆のSPゲージはゼロになった。リベンジ達成である。
見事リベンジも果たし、神奈川へと戻った友也。しかしまだ何かがこの街道には居る気がする。
そんな友也の元に、隆からBBSへの書き込みがあった。
女帝の出番が来た…とその書き込みには書いてあったが、果たしてその「女帝」とは何なのか?
答えが見つからないまま普段の生活へと戻った友也だったが、2週間後のある日
蔵王のアクセラ乗りの、神凪悠人からメールが届いた。何でも、まだ倒していない女のドライバーを見かけたのだとか。
それを聞いた友也は有給を使い、蔵王へと飛んだ。
悠人によれば、週末に赤いR32スカイラインに乗った若い女を見たらしい。
ちょうど蔵王に着いたのが金曜日だったため、翌日の良く晴れた土曜日の夜にPAへと向かう。
そこには確かに赤のR32…しかもGTS−tが停まっているではないか。
そしてドライバーは悠人が言ったとおり女。友也は早速声をかける。
「どうもこんばんは。君、ずいぶん若いね」
「あ、どうもこんばんは。何か用ですか?」
「ん…まぁ、バトルしてみたいなって思って。いいスカイラインだな」
「ありがとうございます。でもこれ、親の車なんですよ。チューニングのことはさっぱりわからないけど、かなり速いと思いますよ」
「なら相手にとって不足は無いな。勝負と行こう。俺は林友也って言うんだ」
「山神 由美(やまがみ ゆみ)でーす。よろしくお願いしまーす」
バトルはコース中盤の左コーナー前のストレートの中盤から麓まで。しかも友也が先行だ。
友也のタイミングでまずはスタート。あっさり引き離すことは出来たが、
すぐに左ヘアピンが来るのでブレーキ。
だが後ろの由美はとてつもない突っ込みで急接近してくる。しかもそれでもブレーキングが間に合っている。
ブレーキングの腕がいいのか…?
しかしその後は、自分のR33の、587馬力を生かして全力で150m引き離し、あっさりと勝利。
これで終了とはあまり歯ごたえが無かった。
後で悠人に聞いた話だが、由美の親はチューニングショップを経営しており、あのスカイラインもかなりのチューニングが施されているとの事。
由美自身はまだ、高3の免許取立てだったらしい。
だからあんなに若かったのか、と妙に感心する友也であった。