第4部第13話


街道最速の男になった友也ではあったが、まだ彼の目的は果たせていない。

あの敗北したS2000こと、「街道プレジデント」に勝利するまでは終われない。

街道の掲示板にそれらしい情報があったので総括してみると、月末の晴れた日曜日に走っているのを見たらしい。


今は第3週目なので後もうすぐ。それまでに阿蘇山を走りこむ。

平日であろうと走りこみは欠かさない。さすがに水曜日ともなると、晴れていようが走っている奴は少ない。



誰もいないコースで1人黙々と走り続ける友也。

PAに戻り一旦休憩。

と、そのとき1台、黄緑色の不思議な車が入ってきた。

(え、何あれ…さすがに俺も知らない…)

めちゃくちゃ気になったのでその車から降りてきたドライバーに接近。なんと女である。


「ん…何か用ですか?」

「あ、あの…この車、見かけない車ですけど何ていう車なんですか?」

「これ? これはガライヤっていう、オートバックスが開発した車ですよ」


ASL・ガライヤはオートバックス・スポーツカー研究所(ASL)が開発した2ドアスポーツカー。

名前の由来は、中国・明の時代の盗賊で盗品を貧民に分け与えた「我来也」。日本で開発されたスポーツカーなので、

漢字で書ける車名にしたというのもある。しかもこの女は選ばれたドライバーなのだ。


車両本体自体はほぼオーダーメイド状態で、それゆえにユーザーの細かい注文にも対応が可能。

その反面で、購入前には筆記・実技・面接があり、これらに合格した者しか購入権利が与えられないという車だ。

「本当に車が好きな人にしか乗ってもらいたくない」というのが、ASLのこの車に対する思いらしい。



「まさか筆記試験とかあるとかびっくりしましたけどね。……あれ? もしかしてあなたは、エモーショナルキングを倒した林さんですか?」

「あ、はい。…もしよければ、このガライヤの性能を見てみたいです」

「バトルってことですね? いいですよ、やりましょう。私は後藤 空(ごとう そら)です。先行後追いで私が追いかけます。

後ろにいてもよく分かるガライヤの性能、たっぷり見せますよ」


区間は最初の連続コーナー地点の手前から、智史が一気に差を詰めてきた最後のストレート中間までの、下りの勝負だ。

友也のタイミングでスタートし、それを空が追いかける。

(あのガライヤって車も、空って女も、どんな走りをするのか期待だな)



アクセルを吹かしてロケットスタート。しかし友也は、最初の右コーナーであっさりオーバーテイクされる!

(な…!)

立ち上がりこそ互角だが、加速がやばい。コーナーもめちゃくちゃ速い。

幼い頃からダンサーをしている空は、とにかく体の飲み込みが早い。考えるよりまず行動といったタイプである。

ドリフトもその得意のダンスをしているように右に左に振りまくりで、女性とは思えない大胆且つ、華麗なコーナーの抜け方をする。

とにかくやばいコーナーの速さは友也もびっくりだ。


しかし…どこかに必ず隙があるはず。直角コーナーでも立ち上がりで若干ふらつくが、魔人のような加速で立ち上がるガライヤ。

が、突っ込みは何だかイン寄りになってきている。

インに飛び込まれるのを警戒してか、アウトサイドに対する警戒が甘くなっているようだ。

そこに目をつけた友也は、残り少なくなってきたコーナーの中で、抜くポイントを直線でフル加速しながら考える。

(仕掛けるとしたら…あそこだ!)

直線からコーナーに向けてブレーキング。直線の後は右コーナー、左ヘアピン、そしてだらーんと曲がる右コーナーと、ゴール手前に良く似ている。


その1つ目の右コーナーは捨て気味に、次の左ヘアピンで突っ込み重視でアウトからブレーキングして

ガライヤのアウトに並ぶ。そのまま外側の壁にぶつかる勢いで少しずつアクセルを開けていき、だらーんと曲がる右コーナーで

インを取る。その後の加速では負けるがぴったりテールに張り付く。

その次に来るのは左のヘアピン。

ここでイン側によってブレーキングしたガライヤのアウト側から、捨て身の突っ込みで友也は勝負をかける。

「え…死ぬ気!?」

思わず声を上げる空は一瞬動揺してぐらつき、その間にヘアピンの立ち上がりでR33が抜き返してそのままゴール!

しかし、ガライヤと空のドラテクの恐ろしさは十分に友也に伝わってきた結果になった。



空との激戦を制し、来たる月末の日曜日に備えて再び友也は走りまくる日々。

そんな金曜の晴れた夜、PAに1人の女がたたずんでいた。

特にバトルを仕掛けるわけでもなく、ただ走っている車を見ていたので気になって声をかけてみることに。


「すみません」

「はい、何でしょうか?」

「いえ…こんないい車に乗ってるのに、走らないのかなって思いまして」

「あ、ありがとうございます。車見てるほうが好きなんですけど、バトルなら受けて立ちますよ?」

「え、いいんですか?」

「はい。先行後追いで、私が先行します。確かフォーエバーナイツ…あ、エモーショナルキングを破ったのはあなたですよね?」

「はい…でもぎりぎりでしたが」

「勝ちは勝ちだと思いますよ。私は知子(ともこ)です。よろしく」

「林です。お互いがんばりましょう」



コースとルールは智史の時と全く同じ。果たしてどんな走りを見せてくれるのか。最初は知子のタイミングでスタート。

流石軽量なエキシージ、加速が智史のエボ3並にすごくいい。

(うわ…デジャヴ…)

しかしミッドシップのため、知子のコーナリングは立ち上がり重視。

1コーナーで同じく早めに減速した知子を何とアウトから突っ込み重視でパス。

立ち上がりで友也はぎりぎり前に出ることに成功。


しかし知子も負けじとくらいつく。軽量なエキシージは突っ込みもいい。

1コーナーでは見られなかった鋭いブレーキングでついて来る。

(すっげ…)

ここの速いドライバーは抜かれてから本領発揮するのか? と思わざるを得ない。


しかしきついコーナーの突っ込みと立ち上がりではR33が速い。

だらーんと曲がる右コーナー後のストレートから、あの直角左コーナーまでの区間で

一気に50mの差をつけて勝利した友也であった。


第4部第14話へ

HPGサイドへ戻る