第4部第12話


友也は悩んでいた。BBSに箱根、第2いろは坂、表六甲、蔵王それぞれのスラッシャーからの、妙な書き込みがあった。

何でも「黄色いS2000に乗った走り屋があちこちに出没して、友也の事をかぎまわっている」らしい。


それを見た友也は数ヶ月前のことを思い出していた。

(あいつか…)

箱根でバトルし、惨敗してR33を廃車にしてしまったことは、今でも忘れていない。

だがそのS2000は聞きまわった後、どこかに行ってしまったらしいのだ。

取りあえずそのS2000は後回しにし、残りの指定コースを調べる。



それは何と、九州の阿蘇山。事前にコースマップをネットで調べてみると、中速コーナーが続き

ストレートも所々にある。全開でいけば200キロ以上は出るだろうか。

例によってそんな簡単に九州の仕事は…あった。期間は1ヶ月の予定だ。


なので友也は九州へ飛んだ。

フェリーでR33と一緒に港へ到着し、そこから阿蘇に近い職場までひた走る。



・・・と、その前に。友也の実家は大分県。阿蘇山のある熊本に入る前に、まず実家へと寄ってみる。

20歳のときに神奈川の建設業者に就職が決まり、移住してきたのだ。


友也は、実は父子家庭。友也に母は居ない。

10歳のときに病気で死んでしまったのだ。父子家庭というので珍しがられることもあったが、

別段気にすることも無く父親と2人で生きてきた。

現在は父親に対して仕送りをしている。ちなみに父親は中学校の用務員をしている。



実家の訪問も終わり、熊本県入りした友也は社宅に持ってきた荷物を置く。近いうちにあのS2000にまた会えるかもしれない。

そう考え、仕事が終わった後に、職場の同僚や上司との付き合いもそこそこにして

バランスをとりつつ、阿蘇山へ向かうことにした。


仕事も引け、歓迎会が早めに終わったので阿蘇山に来た。友也は当然酒を呑むことなく運転してきたらしい。

車で来てるという理由は効果抜群であった。



取りあえず練習で2〜3本往復してみる。走ってみて、ギア比をPAで弄り回して徐々にセッティングを合わせる。

足回りもややアンダーステア気味にセット。


だらーんと回るコーナーが多いのは蔵王になんとなく似ている。

しかしそれが右に曲がるコーナーなら、間髪いれずに次は左にだらーんと曲がるコーナーが来て、さらにその先には直角コーナーも合ったりする。

こんな区間が続くのかと思いきや、いきなり目の前に長いストレートが現れたり。


リズムがつかみにくいため、今履いているスリックタイヤが無くなるまで何回も何回も阿蘇の山を走り込む。

バトルはせず、ただひたすらに…。

この日上下あわせて20本ほど走りこみ、太陽が上る前に社宅に帰る。



次の日からは地元の走り屋とバトルをしつつ、さらに走り込む。

少しずつ少しずつコースも覚え、何とかリズムもつかめてくる。連続するダラ〜ンとしたコーナーだって、流しっぱなしで駆け抜ければ気持ちがいい。

アンダー気味のセッティングではあるが、お構いなしにサイドブレーキで姿勢を崩してテールを流す。

高速コーナーもラインによっては全開でいけるところもあるので、走っていて気持ちが良くなってくる。


窮屈な六甲やいろは坂と比べると、こういう場所でハイパワーなR33はそのパワーを使いきれる。

蔵王でそうだったように…。



そして、宮本を倒してもらった100万で極限までチューンもする。

ブーストを1.5まで引き上げ、レースに出てもおかしくないほどまでに強化。足回りもそれにあわせて微調整とメンテナンスをしていく。

ギア火は中低速をメインにセットし、最高で230キロしか出ないようにした。


軽量化はついに助手席を取り外し、完全に走りだけの車となる。スリックタイヤは走りこめば1日でなくなるので、

街中で見つけたショップで安いノーマルタイヤを購入し、グリップが低い状態で走り続ける。

パワーは587馬力までアップし、車重も1382キロまで減少した。



ノーマルタイヤではコーナーがあまり速く曲がれない。なのでなるべく直線で勝負である。

幸いにも580馬力というハイパワーなマシンはあまりいない上に、ここまで軽量化したマシンもいない。

コーナーは流しやすくなったので、それにあわせてパワードリフトだって決める。

中にはRS6なんて論外な車を持ち出してくる奴もいたが、車重がこっちが軽いのとTAバトルだったのであっさり勝利。




そうして…ついに掲示板に阿蘇のボスであり、街道最速の男が舞い降りた。

あの黄色いS2000は「街道プレジデント」というらしく、そいつとバトルをした後にそいつはどこかへ行ってしまったらしい。

阿蘇で決着をつけよう、というので新品のスリックタイヤを履き、ブレーキパッドも交換して万全の体制にしてPAへ向かう。

そこにはアドバンカラーに塗装されたエボ3が停まっている。すごい威圧感だ。

そのエボ3の前にR33を停めると、中から1人の男が降りてきた。


「やっと来たな…。あちこちで噂を残している君とR33の話は聞いているよ。俺は森本 智史(もりもと さとし)だ」

「林友也だ。あんたが街道の王者、エモーショナルキング…?」

「そうだ。あんたが速いのは噂で聞いているが、俺だって街道のトップに立っているわけなんでね、俺も負けるわけにはいかない」

「望む所だ…。あんたを倒し、あのS2000とも決着をつけなければいけない」

「…よし、じゃあ始めよう。先行後追いで俺が先行。下りのフルコースで勝負だ!」




スタート地点に2台が並ぶ。このバトルの噂を聞きつけたギャラリーがコース外に並んでいる。

中には榛名や六甲から来たのもいるらしい。

「カウント行きます! 3,2,1、GO!」


ついに最後のバトルがスタートした。智史のエボ3はとんでもない加速でR33を引き離す。

下りのスタート直後は長いストレートなため、あっという間に80m近い差をつけられてしまった。



しかし智史は立ち上がり重視なのか、かなりヘアピンの手前でブレーキング。一気にV字ターンを決めようと突っ込み重視で

友也は差を詰めるが、ちょうどインが開いていたのでスパッとオーバーテイク。

(よし、後は逃げるだけ…!)


だが、常にエモーショナル…感情的な走りをするのが智史。そのことから「エモーショナルキング」と呼ばれている。

抜かれた智史は闘争心をむき出しにして、コンコンとバンパーをつつきながら

R33にすさまじいまでのプレッシャーをかける。


(くっ…でも今は先行しているから、大丈夫、大丈夫…!)

ミラーをひっくり返して後ろを見ないようにし、立ち上がり重視の走りをする

智史に対して友也は突っ込み重視で応戦。

コース幅を目いっぱいまで使い、エボ3を引き離そうとするも脅威の加速力でくらいついてくるエボ3。



最初の連続コーナーを抜け、右にだら−んと曲がるコーナーを抜けるとストレートへ。

ここでは道の中央を走ってブロックし、その先の左、右、そして直角左と続く連続コーナーでは

直角コーナーでサイドブレーキを引いて小さくクリアする友也。

そしてサイドミラーをチラッと覗くと、直角コーナーの立ち上がりでエボ3がもたついている。

(あれ? もしかして…)


何かに気がついた友也だったが、それでも鬼のような加速をする智史のエボ3に考えを振り払う。

(そこまで加速するのか!?)

その後の短いストレートではテールトゥノーズ。しかしこの区間は狭いため、前に出ていればこっちが全然有利。

そこの後はまたいくつかコーナーがあり、その後にまたストレート。


(まずいな。このままでは逃げ切られる!)

このストレートを駆け抜け、下りながらの高速S字コーナーと左ヘアピンを抜け、右コーナーを抜ければゴールだ。

智史はまずストレートとS字コーナーで差を詰める。

そして左ヘアピンへのブレーキングで一気に差を詰め、友也のインに飛び込む!



(来たか! だが、あんたは大事なことを忘れているようだな!)

左ヘアピンでインに飛び込んできた智史を見つつ、アウトで踏ん張ってコーナリング。ここは直角コーナーと同じく1速で曲がる。

そして最後の右コーナーを立ち上がり、加速に移る2台だったが…。


(…すべった!?)

軽すぎると逆に安定性が失われる。さっきの直角コーナーでは1速で立ち上がった時に、

ついてこようとするあまり、アクセルを踏み込みすぎてふらついていた智史。

そしてここでもそれが出てしまい、立ち上がりでふらつくエボ3を横目に、友也が先にゴールをきったのであった。



街道最速の男が、この瞬間敗北したのである。


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