第4部第1話
石田が街道を去って、新しい年が明けた。ここは東京都東京市。ようやく1つのビルの着工が終わり、仕事も終了した。
「ふう…」
仕事が終わり、彼…林 友也(はやし ともや)はサーキットとして生まれ変わった箱根へ繰り出す。
前は首都高を走っており、2年程前からこの箱根を走っていた。
彼の愛車は中古で買ったEP91スターレット。しかし前はR33GT−Rに乗っていた。豪快な走りを得意とし、パワーに任せて
ダウンヒルもヒルクライムもあまり負けたことがなかった。
それに従い、彼自身もいつの間にか天狗になってきていた。
だが2週間程前。下りを攻めていると、後ろから黄色いS2000が追いかけてきた。
いつものように軽く振りきろうとした友也だったが…。
(離れない…ぴったりついてくるだと!?)
パワー任せに振りきろうとするが、中盤のヘアピンでアンダーステアを出してしまい抜かれてしまう。
ストレートで食らいつき、S字も2つとも互角だったが…その後のきつい右コーナーで
奥まで突っ込みすぎてしまう。
そして…!
「う…うわああ……!」
そこから先はもう記憶がなかった。気が付くとR33はフロントがぐちゃぐちゃになっていて、
オフィシャルによって解体屋へ運ばれていったのである。
車を失った後、友也は何かを振りきるかのように必死で働いた。
建設現場の技術職なので給料は良い。
しかしこの2週間、寝ても覚めても頭を過ぎるのは、あのS2000のことだけであった。
(あの日から俺は…あいつを捜し出してリベンジすることを決めたんだ)
そして今までの貯金と合わせ、給料日に速攻で銀行から家賃や光熱費などを除いて
全額金を下ろして買ったのが、今現在乗っているこのEP91スターレット。
このマシンでまた1から出直すことを決めた。現在はサスとブレーキ、マフラーを替えただけのライトチューンだ。
下りではそこそこの相手には勝てる、が…上りとなるとそうもいかない。
ライバルは基本的に8つに分類される。
個人で走っている普通のライバル。
チームを組んでいるライバル。
コースごとのボスライバル、
決まった日にしか現れない「トリッカー」。
同じく決まった日にしか現れず、メダルやトロフィーを持っている「メダリスト」。
掛け金が異常に高い「ハイギャンブラー」。
ファンが沢山いる「サポーター」。
その峠で目立っている女性ドライバー「ラヴァーズ」。
そして今年からは、パーキングエリアが拡張されて多くのライバルとバトル出来るようになった。
バトル形式もさまざまだ。
車内に「SPゲージ」と呼ばれる精神状態を表す特殊なメーターをつけることにより
ライバルに引き離されたり壁にぶつかったりするとそれがだんだん減っていき、ゼロになるか、もしくはゼロになる前に
相手に先にゴールされると負けという「SPバトル」。
カーブでドリフトを決め、その得点を算出する機械を取り付けて合計を競う「CAバトル」。
壁にぶつかるとポイントがゼロになってしまう。
タイムを計測してそれを競う「TAバトル」。
この3つは石田の時代からあったものである。
さらに今年から追加されたのが「先行後追いバトル」。これも先行車と後追い車に2台の距離を測るメーターを取り付けてのバトル。
自分が先行する場合と後から追う場合があり、先行の時は相手を150m引き離すか、先にゴールすれば勝利。
後追いの時は相手を追い抜き50mの差をつけるか、追い抜いて先にゴールすれば勝利だ。
実は友也、トリッカーの「スーンスーンスーン」と呼ばれる黄色のアテンザに勝てないのが悩み。
晴れの土日にしか現れないのでやたらめんどくさい。こっちが先行なのだが、途中の直線で追い抜かれて敗北する。
ブロックもしてみるが、突っ込みすぎてアンダーステアを出して抜かれてしまった。
取りあえずこのアテンザは後回しにして、まずはここのボスを倒すことに。ボスは下りなのでアテンザよりは楽だ。
石田の時代から1年がたった今、各地のボスは1人だけになったという。
ここのボスはというと、下りで勝負するというこの男だ。
「ふーん…あんたが最近噂になってるっていうスターレット乗りか…。俺は大字 健太(おおあざ けんた)ってんだけど、書き込み、見てくれたか?」
石田の時と同じく、友也がここの普通のライバルを全て倒したので、BBSで挑戦してきたのだ。
「ああ、見たよ…始めようぜ。下りか?」
「そうだ。先行後追いで俺が先行する。抜けるものなら抜いてみろよ」
この言葉で闘争心に火がついた友也は、拳をしっかり握り締めてスターレットに乗り込んだ。
2台がスタート地点に並び、近くのギャラリーがFTOの横でカウントを入れ始める。
「3,2,1、GO!」
2台のFF車がスタートして行った。最初はパワーのあるFTOが上り勾配のあるストレートで引き離すが、何とか
150m差がつく前に最初のコーナーに進入。ブレーキングとコーナリングで一気に差を詰める。
もともとは大柄でパワーのあるR33GT−Rを振り回していただけあり、アンダー気味の挙動のスターレットは扱いやすい。
しかもボディが小さいので、道幅いっぱいまで使って速いコーナリングができる。
大字はスターレットが離れないことに少し焦りを感じ、中盤の2連続ヘアピンの左ヘアピンでイン側に寄ってブレーキング。
しかし友也は、突っ込みすぎて立ち上がりでもたつくFTOをそのままパスし、前に出てしまった。
(よし…後は逃げるだけ!)
その後、最後の高速セクションではきっちり差を広げていき、50mの差はつけられなかったが勝利することができた。
次は「スーンスーンスーン」だ。