第3部第8話
最後のステージが解禁された。最後のステージはまたもや日光いろは坂。
しかし今度は違う。第二いろは坂の頂上から先は、そのまま第一いろは坂へとつながっている。
どちらも一方通行だが、サーキット化によって逆走も出来るようになった。
今度の舞台の第一は日光方面専用で、一言で言えばヘアピンコース。
ここのコースの特徴はなんと言ってもヘアピンの連続。これでもかといわんばかりのつづら折りで、「いろはにほへと…」と各コーナーに名前がついている。
最初こそストレートだが、ちょっと進めばヘアピン、その後はストレート、またヘアピン、ストレートといったようにワンパターン。
途中には少しアクセルを踏める区間がいくつかある。そこが1つの区切りだ。
そして最後には橋を3つ渡り、長いストレートを抜けてゴールへ一気に突っ走る。そこでは200キロオーバーも可能だとか。
ここでは表六甲以上にサイドブレーキが重要だ。
下りはまだ良いが、上りは急勾配を一気に駆け上がっていくためパワーがないと失速してしまう。
スピードを極力落とさないようにしなければ上りは制覇できない。
そこでまずはきつい上りから行くことにした。
最初のストレートでパワー負けしないように、エンジンのパワーアップを施した。現在は410馬力を絞り出している。
思いっきり中低速重視にギア比とROMをいじり、バトルを繰り返してここに特化したマシンへ仕上げていく。
第一いろは坂の上りはチームが多い。
個人で走っているのは2人だけで、残りは全てチーム。
苦労したのがGT−RだけのチームとNSXだけのチーム。どちらもパワーがあるので倒すのにも一苦労。
合計で5回も敗北してしまった。
どうも連続バトルには弱いようだ。それでもあきらめずに再挑戦し続け、勝利する。
執念深さだけは人一倍なのが石田義明である。
怒濤の平日を終え、やっと土曜日。BBSには1つの書き込みがあった。
「第一いろは上りの迅帝です。第一いろは坂ヒルクライムPAに来てくれれば勝負します」
迅帝…どこかで聞いたような名前だが、思い出せない。
とにかくこいつが上りのボスのようだ。
夜まで体力を温存するために昼寝をし、タイヤとブレーキパッドを交換してPAへ向かう。
PAには見慣れない、白い丸目のGDBインプレッサが1台停まっているではないか。
その横には肩に掛かりそうなくらいの、やや長めの黒髪の男が1人。
しかもまだ若い。自分とそれほど変わらなさそうだ。
「すいません、あなた、街道の掲示板に書き込みました?」
「…はい。あんたがここらで噂になっている、エボ3乗りか。俺は宝坂 令次(たからざか れいじ)。よろしく」
「石田義明です。上りが得意なんですか?」
「ああ。簡単に負けはしない。勝負と行こう」
2台が並びバトルがスタート。最初は何と令次が先行。後追いは久しぶりだ。
ストレートではインプレッサが速く置いて行かれる。しかし今回のスタートは2つ目の橋を渡る直前から。
そこまで引き離されることもなくあっさりと追いついた。
しかもこのインプレッサ、やたらコーナーが遅い。律儀にグリップ走行ときたものだ。
(このインプレッサは…手の内を隠しているのか?)
サイドターンと軽い車重でぐんぐん差をつめ、インプレッサがアンダーを出したところであっさりオーバーテイク。
そのままヘアピンを駆け抜けて、中盤の少しアクセルを踏める区間を全開で駆け抜ければ、
もうインプレッサはバックミラーに映っていなかった。
頂上に着き、あまりの遅さに石田は令次に質問してみる。
「どうかしたんですか? マシントラブルとか?」
しかし令次は首を横に振る。
「いいや、俺最近このインプレッサを買ったばかりで。あまり乗り慣れていないんだ。
アンダーは出るし、まだセッティングも決まっていない。…まぁ、こんな事敗者の戯言だな。またいつか勝負しよう。それじゃ元気でな」
令次はインプレッサに乗って去っていった。
翌朝には急いで書き込んだのかどうかは知らないが、令次からBBSに返信が。
「!!!!!!?強い」
「!」が多いなとあきれ顔で画面を見ていた石田が、あの令次がいろは坂のトップに立っていたことを、認めたがらない連中によって
追い出されたのを知ったのは、それから2日後であったという。