第3部第3話


翌週は仕事が忙しかったため、まともに走りにも行けなかった。

その分怒濤の勢いで仕事を終わらせ、何とか金曜の夜には高速を走って榛名山へ。

金曜の夜はあまりにも疲れたので寝てしまい、活動し始めたのは土曜の夜。

この日はやたら遅い70スープラとタイムアタック&ドリフト勝負、アルテッツァ、スタリオンと直接勝負して何とか勝利。

足回りの強化とパワーアップで少しバトルも楽になった。


その日はまだ疲れが取れていなかったので、それで切り上げて旅館に戻りロビーのパソコンをチェック。

すると1通の書き込みが石田宛に。

(これは?)



「榛名ダウンヒル最速のこのオレを脅かす存在がいるらしいが、ダウンヒル最速の名の破綻はありえない。

もし、これを読んでいたら、榛名ダウンヒルPAまで来て、その顔を拝ませてくれよ!」



榛名下りのボスかららしい。

やっと来たか・・と思いつつ、明日のバトルに備えて早めに寝る。



翌朝はタイヤ交換とブレーキパッドの交換をし、夕方までコースの下見。目薬も差して準備もバッチリだ。

そのまま少し仮眠をし、夜11時に起きて榛名のPAへ。

そこには白い旧型のギャランが停まっていた。


石田がそのギャランに近づくと、向こうから声をかけてきた。

「あんたかな? 最近このダウンヒルで暴れ回っているスターレットって?」

「ああ。俺は石田義明って言うもんだが…あの書き込みはあんたが?」

「ああそうだ。俺は松沢 博文(まつざわ ひろふみ)。この榛名の治安は俺が守る! 早速バトルしてもらおう!」

(…痛い人だ…)

治安も何もないだろう、と思いつつ、石田は黙って踵を返しスターレットに乗り込んだ。


榛名下り、スタートは同時でバトル。その辺にいる走り屋を捕まえてカウントを入れてもらう。

「3,2,1,GO!!」


最初は4WDターボのギャラン先行。石田もアクセル全開で食いつくが、それでも40mは1コーナーまでに差を広げられてしまった。

しかしここは高速ブレーキングポイント。1コーナーへのブレーキングでぐいっと差をつめ、一気にテールトゥノーズへ。

またストレートなので少し離されるが、その後の右コーナーと右ヘアピンで

差をつめ、あっさりヘアピンの立ち上がりで石田は松沢をオーバーテイク。


(何…!? 俺が突っ込み勝負で負けただと!?)

遅い車が前なのでアクセルを踏み込むことが出来ない。そのまま中盤のストレートまでにどんどん引き離される。

しかしストレートではパワーを生かして、何とか食いついていく松沢。

(簡単に勝たせてやるわけにも行かないんでね!)


ストレートで追いつかれてしまうので、ここから先のセクションで石田は一気に勝負を決めることに。

入口が緩く、出口がきついスケートリンク後のコーナーを良い突っ込みでクリア。その後の

中速コーナーが連続するセクションではギャランを再び引き離すが、5連ヘアピンまでにだんだん差をつめられてしまう。

(さすがにあのマンガの溝落としは出来ない。が、突っ込みスピードはこっちが上だ。ここで終わりだ!)


5連ヘアピン1つ目の高速ブレーキングでギャランを引き離し、

そのままハイスピードでヘアピンをクリア。どっかの赤いシビックが自爆したとされる最後のストレートに入った頃には、

ギャランはバックミラーに映っていなかった。


仕事もあるのでそのまま旅館に戻り、翌朝は早めの6時にチェックアウトして会社へ行くため、高速へスターレットを走らせる。

そして仕事が引けた後、家に戻り預金通帳を前にして石田は考えていた。

(これは…車を買い換えるべきか)

勝ちはしたが、上りは今回1度もバトルしなかった。


由は簡単。パワーだ。

松沢とのバトルでも感じたが、パワーの差がでかい。箱根でも上りでは大抵負ける。

某マンガのように上手くは行かないので、車を買い換えて勝負することにした。

普段の仕事で稼いだ金、それに加えてカテゴリーレースで稼いだ金からチューンパーツに使った金を引く。総額60万。

普段は車以外にはあまり金を使うことがない石田。

ネット代くらいだろう、金がかかるものといえば。


翌日、仕事を早めに終えて街のカーディーラーへと出向き、良い車がないか物色。

すると1台のマシンが目に飛び込んできた。50万の赤いランエボ3。松沢とのバトルで4WDターボの実力を

思い知った石田は、下見や試乗をして特に問題がないことを確認。

そのままポーンと現金一括で買ってしまった。ただ税金や諸経費で少しオーバーしてしまったので、

その分は後回しに。給料日が後3日後に来ていると言うことも考えて買ったのであった。


…が。3ナンバーのため結構税金がかかると言うことを知ったのは、また後の話である。

ちなみに松沢からは、BBSに書き込みがあった。



「かなりヤバい領域までいって俺もかなりヒートアップしてしまったよ! 何処で、そんなテクニックを身につけたんだ?」



首都高で身につけたと返信したかったが、目が痛いのとめんどくさいので返信せずに寝てしまったのも、後の話である。


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