第3部第2話
さすがにターボとはいえ、200馬力もあるFTOにスターレットがストレートではついていけない。
しかも最初はちょっとした上り勾配。最初のコーナーまでに50mの差がつく。
(ライトチューンか…?)
あまりパワーは出ていないように感じるが、それでも速い。
しかし最初のコーナーへのブレーキング、車重の軽いスターレットは突っ込みで差を詰める。
大字のFTOのミラーに赤いスターレットが接近!
(突っ込みのスピードは、こっちよりあのスターレットの方が速いか…)
大字はストレートでパワーを生かし、懸命に振り切ろうとするがここは峠。すぐまた次のコーナーがやってくる。
そして前述のとおり、石田はハードブレーキングは首都高での経験からお手の物。アウトいっぱいから
大字に少しずつプレッシャーをかけ、箱根のダウンヒルを下っていく。
中盤にある2連続ヘアピン。それを抜けるとストレートの後に連続で高速コーナーがやってくる。
プレッシャーをかけ続けてきた石田は、ここで勝負に出る。
自身が最も得意とする高速ブレーキング。
ストレートでは引き離されるが、高速コーナーで石田はアクセルオフのみでくらいつき、その次の左高速コーナーでアウトから仕掛けていく。
FTOがアウトに膨らんでくるので一旦おとなしく引き、奴がアウトに寄るまで待つ。
そしてそこに待ち構えているのは右のヘアピンコーナー。
ここでアウトに寄って減速したFTOのインをつき、あっさりオーバーテイク。
その後は石田がリードしたまま麓まで下りきったのであった。
PAに車を停めて、大字が下りてくるのを待つ。
「うーむ! 上には上がいるものだね! オレも腕を磨くので、また勝負をしてくれよな」
「ええ…またどこかで」
「あ、そうだ。ヒルクライムには倉川っていう、結構速いシルビアの奴がいるから…スターレットじゃ厳しいと思うな。まぁ、気をつけろよ」
シルビアの倉川…上りの王者かな? と思いつつ、石田も家路に着くのであった。
翌日。今日は土曜日のため、石田は休み。と言っても休みがもらえること自体珍しい。
このチャンスを逃すまい、と早速箱根へカテゴリーレースをしに出向く。
カテゴリーレースはドリフトのポイントを競う。ポイントごとに1位から6位まで賞金が出て、そのポイントは
1万以上が1位…1万から9000までの間が2位などと区切られている。
従って目標ポイントをクリアすれば、誰でも1位になれるというちょっと変わったシステムだ。
計測は運営局が用意したカウンターでされる。壁への接近具合、ドリフトのスピード、角度などによって総合的に判断される。
さらに1100ポイント以上を区間内で叩き出した場合、3000ポイントのボーナスももらえる。
しかもFF車はドリフトがしにくいため、ほかの車より若干判定が甘いのも魅力だ。ただ壁にぶつかってしまうと
その時点で計測は終了し、ポイントも0になってしまう。
石田はあまりドリフトをしたことはないが、日夜雑誌やビデオなどを見て、夜の箱根でドリフトの練習もしている。
スターレットはパワーがないので、なるべくダウンヒルでレースに参加する。
ハイスピードでコーナーに侵入、フットブレーキでまずは減速し、そこそこスピードを落としたところでサイドブレーキを少し引く。
そのままアクセルを小刻みに調節し、カウンターが戻りそうになるとまたサイドブレーキ。
FFのドリフトは難しい。S13はFRだったため簡単だった。だがFFはグリップでは扱いやすいが、ドリフトとなると・・大変だ。
何とか1位はとったが、まだまだ練習が必要だな、と感じる石田だった。
夜になり、また箱根のパーキングへ出向く。さすがに上りのバトルはなかなか勝てない。
大字からエアクリーナーをもらったはいいのだが、それをつけても駄目だ。
負ける回数が多くなってきたために、上りのバトルは後回し。
土日を使って榛名へと行くことにした。
次の金曜日。仕事もそこそこにスターレットに乗り込み、高速を使って群馬県へ。
大字は箱根のボスという立場なので、彼か上りのボスを倒せば榛名山への挑戦権が与えられる。
榛名山は関東地方の北部の群馬県にある上毛三山の一つであり、古来山岳信仰を
受けてきた山である。山の南西麓に榛名神社が祀られている。
某走り屋系マンガの主人公の、ホームコースのモデルにもなった場所だ。
石田は着いてすぐ、榛名山の麓の旅館に宿を取りそこを拠点にして、一休みしてから走りに行くことにした。
箱根よりは低速区間が多く、ストレートの終わりには必ずと言っていい程ヘアピンカーブが来る。
勝負をかけるなら中盤の2連続ヘアピン〜スケートリンク前ストレート〜連続中速コーナー〜5連ヘアピンまでと
いったところであろう。
ここでもカテゴリーレースは行われており、箱根よりも賞金額が高い。
ストレート前までには先行しておかなければならない。いくらダウンヒルとはいえ、あのマンガのように上手くは行かないものだ。
しかしその後に来る複合左コーナーへのブレーキング。
ここは練習走行では上手く行く。だがバトルになるとプレッシャーに負けてミスしてしまうかもしれない。
なので地元の走り屋ともバトルする。
「サンタアガタの猛牛」と呼ばれる111トレノや、「ノーティライナー」と呼ばれるロードスターと勝負したり。
上りでは勝ち目がないので、下り1本に絞って勝負。
翌日の土曜日も同じように昼はレース、夜はバトル。だんだんこのコースにも慣れてきた。
首都高よりも峠道の方が向いているのかな?と思いつつ、全開で下りを攻めていく。
「失恋ミシュラン」と呼ばれるコペンと直にレースしたり、「ミステリーカウンター」と呼ばれる180SXとタイムアタック勝負した。
昼のレースで稼いだ金を使い、パワーアップも施した。タイヤもハイグリップなものに変更。
日曜日。この日は昼間から雨だったが、夜には止んだ。
それでもまだ路面は濡れているところがあり、乾いているところと濡れているところでグリップ力が違う。
そのため、なるべく乾いているラインを狙って走り抜ける。
石田はこの日、「榛名の閃光」と呼ばれているA31セフィーロとタイムアタック勝負して勝ちを収めた。
そのバトルでライバルが居なくなってしまったために、東京に戻ることにした。
しかしまだ榛名のボスが出てきていない。
榛名のボスを倒すために、来週の土日も行くことにした。
首都高でトップに立てなかった分、ここでトップに立ってやるか…という気持ちを抱いて。