第3部第1話
西暦20XX年
各地の峠は新たに開通したバイパスによって利用されることも無くなり
長い間閉鎖されその目的を失っていた
そんな中
身近なサーキットを求めるドライバーの熱い声によって
時の政府はモータースポーツの振興と地域経済効果アップの為
万全な安全設備を備えたハイテクサーキットとして蘇らせる事を決定した
今日も幾多のレーサーたちがこのサーキットを極めんとし
愛機のエキゾーストノートを響き渡らせている…
「Fドリって難しいな」
ぼそっと呟いたのは茶髪に金色の瞳の男。名前は石田 義明(いしだ よしあき)。
元々は首都高を走っていたが、成績がふるわずこの街道サーキットへ流れてきた。
しかも首都高を降りたのはそれだけではなく、前に乗っていたS13シルビアをクラッシュさせてしまったからでもあった。
残った金で買ったのは…EP91スターレットだった。
仕事が休みの日の昼はカテゴリーレースにチャレンジし、平日の夜はライバルとのバトル…そんな生活である。
カテゴリーレースでは何とか上位に食い込めるが、常にギリギリで勝っているだけ。
首都高とはスピードが遅すぎて、リズムが掴みにくいらしいのだ。
夜になり、石田は箱根のパーキングエリアへ出向く。
このスターレットは下りではそこそこ速いが、上りではパワー負けをしてしまう。
事実、AE111の2人組と戦った時は3回も負けてしまった。
しかしその後リベンジをかましてなんとか勝利し、スポーツマフラーをゲットした。
そして今日も、石田の挑戦は続く。
下りでは豆腐マニアと呼ばれる黒のハチロクを振りきり、上りではラリー一筋3ヶ月と呼ばれるセリカGT−FOURに
タイムアタックとドリフトバトルが混ざり合った特殊なバトルで勝利した。
これでも首都高を一応攻めていたのだ。高速区間に強く、ハイスピードからのブレーキングには慣れたものである。
その後も何戦かバトルをこなし、家路についた石田であった。
石田の仕事はプログラマー。プログラマとも呼ばれる。
プログラミングは、論理的な思考や発想が要求される作業であり、ちょっとしたことでバグなどを生むことがあるため、
緻密さと根気も要求される。
プログラムの作成にあたっては、実際にプログラムを記述するコーディング以外にも種々の作業が必要とされる。
また、プログラムを作成する能力は、プログラムの作成のみならずコンピューターを使いこなすためにも
必要とされるので、プログラマに任される仕事は単にプログラムの作成だけではない。
ラリー・ウォールによれば、プログラマの三大美徳とは無精(Laziness)、短気(Impatience)、傲慢(Hubris)と
されているが…石田はどちらかというと冷めた性格である。
どれにも当てはまらない、ちょっと変わったプログラマーだ。
そして職業柄、画面を毎日見続けているので目が痛い。バトルの前にはいつも目薬を差している。
(はぁ、疲れた…)
仕事が終わってアパートに帰り、バトルをするためにまずは目薬を差す。その後パソコンをチェックし、
スターレットに乗って箱根へと向かった。
パソコンにはメールが来ていたのだ。街道サーキットのライバル達とはここで情報交換をする。
それはバトルの申し込みであった。
「箱根下りの大字です。最近、この箱根ダウンヒルで売り出し中の走り屋がいるらしい。一回勝負してみたいもんだね。
この書き込みを見たら、箱根ダウンヒルPAに来てくれ!」
というわけで、箱根までやって来た石田。この日のためにサスとブレーキをチューンした。
ダウンヒルではパワーよりも、いかに短い距離で止まれるかだ。
いくらパワーがあろうと、地球には重力がある。重力は制動距離を伸ばしてしまい、予想以上にブレーキが効かず
止まりきれなくなってガードレールとキス…などということもある。
PAに入ると、1台の白い三菱FTOが停まっていた。恐らくあれが…。
「失礼。あなたがMMC大字さん?」
「…はい、そうです。もしかして掲示板に返信してくれた人って…君か?」
どうやらこの男で、間違いなさそうである。
「そうです。勝負しましょう。俺は石田義明って言います」
「大字 健太(おおあざ けんた)だ。俺が先行で、俺が最後まで逃げ切ったら俺の勝ち、君が先にゴールしたら君の勝ちだ」
という訳でここの下りのボス、大字との対決だ。
ギャラリーにカウントを入れてもらって、バトルスタート!
「3、2、1、GO!」